番外編 「思い出 夢野香奈」
最初に康介を見た時の感想は「この子も私と同じなんだ」だった。
あの頃の康介は隣町で起きた悲惨の事件の直後に越してきたばっかだったから、誰に対しても否定的、拒絶的だったな。
他の子から「あそぼーよー」と誘ってくれても、「あ、ううん……ごめんね……用事があるから……」とあからさまに嘘と分かる言い訳をして、逃げていた。
そんな康介だけど、転校先での小学校のクラス内での評判は悪くなかったから、イジめこそ起きなかったけど……
けど、誰もが康介は「暗い子」というイメージを持ってしまい、あまり遊びに誘わなくなったんだ。
それは康介も重々承知している様子だった。
そんな康介に、私は不謹慎ながらも「親近感」を覚えた。
私もそんな心境だったからだ。
私は幼い頃から「自分が人間になれる吸血鬼である」ことを知っていた。
だからこそ、友達とはそこまで仲良くなれなかった。
友人は居たけど、皆は「人間」であり、自分は「化け物」であることを知っていたからだ。
本当に辛かった。
自分も普通の「人間」になりたかった。
でも、そんな時に康介に出会った。
私とは全く違うけど、何処か似ている子。
境遇こそ違うけど、私は康介と心境が似ていると思っていた。
だからこそ私は康介と友達になろうと思った。
友達になりたかった。
唯一、「親近感」の湧く康介と。
友達になりたかった。
でも、最初から上手くいく訳がない。
最初は私も、他の子と同じように拒絶された。
「康介君? 私は夢野香奈って言うんだ。宜しくね」
「あ、うん………」
やはり引き気味だった。
それでも構わなかった。
本当の意味での友達が欲しかったから。
「ねぇ。友達にならない?」
「え? う、ううん……ご、ごめんね……僕みたいな暗い奴じゃ友達になれないや……」
「そ、そんな事はないよぉ!」
そんな感じで誤魔化されてきた。
ずっと。
結構、長い間……
それから……ある日の帰り道のことだったなぁ……アレは。
「一緒に帰ろう! 康介君!」
「あ、う、う……うん……」
ある曇り空の下校時刻。
私の積極的なアプローチもあってか、康介は一緒に帰ってくれる程度の仲になった。
私にとっては大きな進歩だ。
他の友達から「康介君のこと、好きなの?」って聞かれたけど、この時はそんな感情なんて無かった。
ただ、本当の友達が欲しかっただけだから……
「最近の学校とか、どうかな?」
「え? い、いや……夢野さんも一緒のクラスだよね……?」
「まぁ、そうだけど……康介君はどうかなーって思って」
そんな他愛もない会話をしていたかな。
あの頃は。
そんな時だっけ。
横断歩道を渡っている最中に一台の車が私たちに向かって突っ込んできたのは。
咄嗟だった。
無我夢中だった。
何も考えられなかった。
私は康介を突き飛ばした。
当然、あの頃の力じゃあ、異性の子を突き飛ばしても、そんなに飛ぶわけはない。
だから私は一瞬だけ「吸血鬼」になった。
眼を赤くして、康介を突き飛ばし、自分もすぐにその場から飛んだ。
幸い、康介は突き飛ばされたショックで目を瞑っていたし、車の運転手も目を瞑っていたようだった。
だから、私の正体がバレることは無かった。
その道に、たまたま誰もいないこともあったお陰でね。
その後、車は道を外れて電信柱に激突。
運転手はすぐに出てきて、私たちに怪我がないか駆けつけてくれたけど。
私たちは無事だった。
ふと康介に目をやると、呆けた感じで私を見ていた。
「ありがとう」とだけ告げられ、その日は別れたなぁ……
一人で帰る間に「見られたかなぁ……」とか不安になったけど、翌日の康介の態度を見ると、そんな心配は杞憂であったことを知った。
康介はいつも通りに登校してきた。
そして登校してきた際に私に向かって、こう言ったんだ。
「おはよう。夢野さん」
「あ……うん。おはよう!」
それからかな?
康介と私が仲良くなったのは。
後で康介にいきなり仲良くなった訳を聞いたら「人に助けられた=優しくされた。ということじゃないか? 俺はあの事故の後、人を信じられなかったし。まぁ、一人で勝手にビビッてただけなんだけど」だって言ってたかな?
と、まぁ……こうして私と康介は仲良くなった。
そうして、私は康介に恋をした。
優しくて恰好良い康介に。
それで現在に戻るね。
うん。康介は鈍感だから、私の気持ちに気付かないけど。
私は頑張るよ。
前は「親近感の湧く友達」だったけど、今は「付き合いたい」って思ってるもん。
惚れた弱みなんだけどね。
それでも、私は康介が好きだから。
康介に尽くしたいんだ。




