表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

其の一 御心情お察しします、領主様。


 今宵、三日月昇りし星の晩。

 夢見騒がしく三度の狼啼く頃に。

 夜度、我が身を黒き装束に整いて。

 懐に紋の刀身を纏い、主従の名の元に参上仕る。


 というわけで──。

 私は領主様のお屋敷に呼ばれました。

 隠密な存在の私は領主様に無礼のなきよう、部屋の襖を挟んだ回廊にそっと身を置き、少しだけ襖戸を開けて静かに声を投げる。


「領主様、私をお呼びでしょうか」


「忍者姫よ。遅いではないか。いったいどこで何をしておった?」


 上座に居を置き、退屈そうに団扇を仰ぐ少々不機嫌な古狸のクソジジi──じゃなかった、この国の領主様が尋ねてこられたので。

 私は無礼なきよう淡々と答える。


「狼が三度啼くのを待っておりました」


「いつも思うが、それは待つ必要あるのか?」



「何事も隠密ですので」


「ふむ。そうか」


 ご納得いただけたようで、なによりです。

 私は領主様に問いました。


「ご命令ですか?」


「いや──……」


 言葉を濁し、古狸のk──じゃなかった領主様が閉じた扇子の先で私を呼んできます。

 これは重大任務のカヲイ!

 私は無言で一礼し、領主様の傍へと忍び寄りました。

 足音など厳禁。

 オナラの音すら出してはなりません。

 私は『お静かに』というプレートを持ったなんかよく分からないゴリラの横を通り過ぎ、領主様のお傍へと辿り着きました。

 そっと耳を傾けます。

 領主様はひそひそと声を落として私に言いました。


「最近、この国でのワシの噂が気になっておってな」



「──と言いますと?」


「影でワシのことを“古狸のクソジジイ”と言っている輩がおると耳にした」


「それは私かもしれません、領主様」


 私は真顔で正直に答えました。

 忠誠を誓う領主に嘘を申すことは私にはできませんでした。

 しかし残念ながら、領主様の耳にその真実をねじ込むことはできませんでした。

 領主様は私にこう言いました。


「ワシの考え過ぎなのかもしれんが。もしや、国で不穏な動きがあるのやもしれぬ。

 忍者姫よ、この件を調査してくれぬか?」


「御意に。古狸様」


「忍者姫よ」


「はい」


 領主様は私に念を押すように言います。


「くれぐれも、隠密にな。隠密にこの任務を遂行してみせよ」


 私は悩みました。


「少々めんどくさいですね。外部委託に調査を投げてもいいですか?」


「ならぬ。事は隠密じゃ」


「御意に」


 私は領主の命に頷きを返し、同時、良からぬ事を考えました。

 領主様が付け加えます。


「ちなみに、この件の報酬についてじゃが。

 そなたの大好物のプリンを用意しておる」


 瞬間、私の目が輝きます。


「やります! ぜひ私めにやらせてください、お願いします!」


「プリンの上に生クリームとさくらんぼまでついておる」


「きゃ。素敵! ぜひやります!」


「頼んだぞ、忍者姫よ。そなたの腕に期待しておる」


「任せてください、古狸様!」


「うむうむ」


 領主様も私もお互いウィンウィンで満足です。



 すると、その時でした──!

 私は天井で耳立てする不審な気配を察知しました。

 懐に忍ばせていた手裏剣を素早く取り出し、天井に投げつけて叫びます。


「曲者め!」


 領主様も私に驚いて共に天井を見つめます。


「なんじゃと!」


 天井を駆ける足音。

 間違いなく不審の者。

 犬猫ネズミなら動物保護愛で見逃してあげるけど、曲者となれば話は別。

 世の中には私以外にも他国の忍者が存在する。

 同業者と分かれば、こちらとて手加減無用!


 思いっきりやっちゃいます!


 私は両の人差し指と中指を立て、そのまま右手と左手を上下に握りしめて忍法の印を組みました。

 領主様が私の足にしがみついて泣き叫びます。


「に、忍者姫よぉぉぉ! どうか隠密にぃぃぃぃ!」


 無視して。

 私は最大威力の火遁の呪文を唱えると、領主様内のお屋敷の中で思いっきりぶっ放しました。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ