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図書館の君

図書館の君と頬杖

作者: ひこうき

 私の学校は1学年9組もあるいわゆるマンモス校である。

 当然同学年でも知らない人の方が多く、1学年が1フロアに収まらないため、1組の私は5組以降の生徒は部活などそれ以外の接点でもなければまず話すことはないのだ。


 一宮くんもその一人である。



 3限目は体育の授業で、ジャージに着替えて体育館へ向かうと、前の授業が長引いているようだった。

 私は友人のナナと暇を持て余し、ステージの縁に腰かけて男子のバスケットの試合を観戦していた。


 スニーカーの色で学年の判別は付くものの、男子学生の顔を見てもどの組かはわからない。

 ぼけっと試合を見ていると、リバウンドを取るために大きく飛び上がった影があった。


――あれ、一宮くんだ。


 そこでようやくこれは6組であると察しが付く。



 彼は獲物に一気に間合いを詰める豹のようにしなやかな動きでディフェンスを抜き去ると一人自由にコートを駆け、その勢いのまま3ポイントシュートを入れた。


 得点板を見ると、残り9秒で14-12で一宮くんチームのリード。

 そして、そのままディフェンスで得点を守った一宮くんチームが勝った。


 ビーッと激しくなる試合終了のホイッスルにチームメイトが歓声をあげ、お互いにハイタッチをする。

 勝利の立役者となった一宮くんもチームメイトとハイタッチをしていた。



――一宮くんて、クラスではあんな顔するんだなあ。


 思い返してみれば、彼とは図書室でしか会わない。

 微笑んでたり、少しむっとした子どもっぽい表情をしているのは見ているものの、声は落ち着いている。校則の緩い学校のなかで、癖のない黒髪にシンプルな黒フレームの眼鏡を掛けている彼には一貫して静かな印象が強かった。

  

 目の前にいる彼は髪の毛はくしゃくしゃで、友人と笑いながら額の汗をジャージの裾で乱暴に拭う姿は、いつも知っている一宮くんとは違う人のようだった。

 


 そのまま授業は終わりだったようで、わらわらと各自で持ってきていたタオルなどを持って体育館を出ていく。


 行こ、とナナに誘われ、ステージから降りてバレーコートの準備をするべく体育倉庫の方へ足を向けると、誰かの視線がこちらへ向かっている。


 自然とそちらに視線を向けると、まだ髪の毛がくしゃくしゃのままの一宮くんだった。


 一宮くんは私と目が合うと、にっこりと笑いながら大股で私の方へ近づいてきた。ぴったりと私の前で立ち止まると少しだけ汗くさい。


「えっと、おつかれー」

「ん、ありがと」



 ナナはいつのまにかいなくなってる。

 見回すとすでに他の子と器具を出していた。


 じゃあ私も準備を、と一宮くんに言おうと彼の方に向き直ると、彼は眼鏡をかけ直しているところだった。

 まだ髪の毛はくしゃくしゃだし、顔は火照っているままだけど、眼鏡をかけただけでいつもの微笑んでいる一宮くんだ。


 まじまじと見つめてしまうと、一宮くんはどうしたの? という表情を向けた。


「眼鏡かけて…いつもの一宮くんだなあって」

 一宮くんは少し目を見開いただけで何も言わなかった。


「さっきの一宮くんはすごいアクティブで、いつも図書館で会うことしかなかったから」

 一宮くんは得心してなるほど、と言った。

「バスケとか体動かすのも好きなんだよね」

「3ポイント決めてて、すごかったよ」

 素直に感想を言うと、かっこいいとこ見せられてよかったなぁ、と一宮君が笑った。


「じゃあ、次も佐倉さんのために頑張るから、見てて」

「?私のためにというかチームのため「佐倉さんに見てほしいんだけど」」

「……なんで?」


 一宮くんの意図が掴めず、私の頭にはハテナしか浮かばない。


 少しムッとした表情を浮かべた。

「女の子にいいとこ見てほしいのが男ってもんなの。」

目の前の彼は、去り際に低い声で囁き、またね、と体育館の出入り口の方へ向かってしまった。




 わあ。

 一宮くん、『男の子』だ。



 突然男の子にしか出せない低い声で、『女の子』扱いされてしまった私の頬が熱くなった。

 じっとしているのがこそばゆくて、私は走って授業の準備を進めるナナたちに加わった。



 私これ持つよ、と話しかけると、ナナが面白そうな視線を向けてきた。


「ちょっとぉ、いつの間に6組の男子と仲良くしてんのよ?」

 いやあ、えっと、と細々と声を漏らすと、ふふん、とナナが不敵に笑った。


 あ、これは放課後連行されるやつだ。


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