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半吸血鬼のベネディクション  作者: 雨飾菜種
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プロローグ

あれは確か10月の半ば頃だっただろうか。


季節の変わり目からか体調を崩してしまい、自宅の布団の中にいた。時計の針は午後9時48分をさすだけでは飽き足らず、歩を進め続ける。


「はぁ…今日だけは絶対休む訳にはいかなかったのになあ…」


大学卒業を経てから入社し、半年が経ったが、最悪。とにかくその一言に尽きる。上司は口だけで、同僚も性根が腐りきっている。とんだハズレくじを掴まされたものだ。


一社会人として、役割を果たせなかった事の罪悪感と崩した体調の倦怠感から心身ともに疲弊している。


それに加え、人生の序盤にして生きるとは辛い事なんだと致命的な程に実感させられているのだ。


しかし落ち込んでいては事は進まない。今は健康な身体を取り戻さねばならない。頑張れ、俺。


半ば使命感に駆り立てられながら、立ち上がって、薬を取り出すために棚の引き出しを引いた。


「ええと…風邪薬は、えっ、嘘だろ…無い。無いぞ…。ついてないとかそういうレベルじゃないな…」


呆れから自然に溜息が出る。

疫病神とシェアハウスに住んでいるわけでも無いのに圧倒的な運の無さ。一周回って奇跡だ。


心と身体のだるさを一身に背負いつつ、着替えてコンビニへ出向く。


「ううっ、寒いな。」


風邪と夜の肌寒さの相乗効果が身体にムチを打つ。

それに呼応するかのように小走りでコンビニへ急いだ。



自動ドアが開くのと同時に陳列棚へ向かう。


速攻で薬を手に取ってレジへ行き、会計終了。あまりに速い退店、店員も引いているだろうが、気にしている余裕などない。


「明日までに治さなきゃ、二度とあのオフィスには戻れなくなるぞ…。」


コンビニから自宅までの最短ルートを脳裏に描く。

家はもうすぐそこだ。あとは角を曲がれば…!


しかし、待っていたのはいつもの路地では無かった。

いや、住処のアパートは確かに其処にある。あるのだが…


アパートの入り口付近、地面が何やら光っている。

言い表すなら、RPGのセーブポイントと言ったところか。


本来知らないものには近寄らず、自ずの平和を死守してきたのだが、今回だけは違った。


ゲーマーであった俺は「見た目が似ている」というしょうもない理由で近寄ったのだ。並大抵の人なら訝しげな表情で通り過ぎるだろうが。


気づいた時にはもう遅かった。確かつま先3センチくらいだったか、光に触れた瞬間、俺の身体は跡形もなくその場から消滅した。



ここまで聞いていると話の流れから「ああ、異世界で()()()力貰って遊ぶんか。楽しそう。」と言われるのが関の山なので、率直に言おう。



異世界でもそこまで簡単じゃなかった。





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