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二夜 似非な科学者と紅の薬瓶
深い深い白霧の中を歩いていた。
現実感を感じず、ひたすら濃霧を真っ直ぐに進み続ける。
いや、数歩先も見えないこの景色で、真っ直ぐに進もうなど意識しても叶うわけはないか。
黙々と歩を進める事による疲労から、方向感覚が安定する方が異常と呼べるだろう。
『こっちだ…』
不意に聴こえた微かな声。
それにすがるよう無月は足を速めた。
速く、もっと速く。聴こえた声の跡を追うように、無月は霧を凪ぎ払うよう走る。
『こっちだ…さぁ、俺のもとに…』
あの微かに聴こえた声は、先程より明確に無月のもとへ深く響いた。
低く深い、濃霧を思わせる落ち着いた声。その声がこの心を駆り立てる。
突然、今までの景色が嘘と思える程に霧が薄れていく。
真っ白な景色は徐々に薄れ、辺りには深い緑が広がっていた。
瑞々しさを露にする鮮やかな草花。日の光を遮り、木漏れ日を葉の隙間から落とす背の高い木々。深く呼吸を重ねると、心地好い空気が無月の肺を充たしていく。