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☆22 話し合いと引き返せないもの



「ダムソンさん、どういうことですか?」

 腕組みをしたマケインが、人込みから捕まえてきた食神殿神官長のダムソンにきつくたずねる。


「はて、何事かございましたかな」

「どうして食神殿に帰ったはずのトレイズが我が家にいるんですか。あと、家の周りの巡礼者はそろそろ引き上げてください。妹達も嫌がってるんで」


「おかしなことをおっしゃられる。偉大なるマケイン殿はもうトレイズ様の伴侶なのですから、夫婦が共に生活しても間違ったことではないかと。まさか、この世のものとも思えないほどに美しい乙女に対して――本心で嫌がっているというわけでもありますまい?」


 完全にダムソン爺はトレイズの味方だった。

ほっほっほ、と好々爺の顔で話すダムソンのセリフに、白湯さゆを飲んでいたマケインはむせそうになった。


「~~俺は、それを、認めたつもりは、ありません……」

「なんのなんの」


「いくら何でも展開が急すぎるでしょう! 俺とトレイズは殆ど初対面みたいなものだったんですよ!? 貧乏男爵家の嫡男じゃあ他の貴族だって反対するに決まっています!」

「そうですなあ、その問題が残っておりましたか」

 流石のダムソンも、マケインの懸念けねんを否定はしない。


「食神殿の関係者は皆トレイズ殿の味方なのですが、有象無象うぞうむぞうの貴族達となってくると、面倒なことになりそうですな。せめてマケイン殿が王族かもう少し位の高い貴族家の出身であれば問題は少なかったのですが」

「やっぱり問題はあるんじゃないですかっ」


 それ見たことか。そう易々といく話ではないと思っていたのだ。

マケインの仏頂面ぶっちょうづらにダムソンは冷や汗をかきながら空笑いを返す。


「しばらくは様子見でありましょうが、そのうちに奴らも何らかの出方をしてくるでしょうなぁ……。神々の決めたことに不服を申すこと自体がとんでもないことなのですが、愚かな人間ほど自らを高く見誤るものでして」

「……やっぱり俺はトレイズとの結婚は反対です」


「かといって、食神様は食神様で不退転ふたいてんの決意であることですから……」

 ダムソンはのんびりと白い髭を撫でる。話題は自然とドグマのことへ移った。


「それで、牢から出したドグマはどうするおつもりですか?」

ダムソンの問いに、マケインはよどみなく答えた。

「俺の傍仕えにしようと思います」


「すでに神殿としてはあの坊主とは無関係ということになりますからな、何の援助えんじょもできませんが……」

「ひとまずは水とパンを売って生活費を稼ぐつもりです」

 その答えに、ダムソンは目を瞬かせる。


「パン、とな?」

「挑戦したいものがあるんです。上手くいけば、この世界の人間は今まで食べたこともない品物になるはずです」

 あのままピタパンに具材を挟んでハンバーガーの代わりにしているままなんて、元の世界のファストフードを知っているマケインには我慢がまんがならなかった。

 まずは、平たいパンをもっと美味しく改良する。それができたら、この領内の名物として売り出すのだ。


「マケイン殿、貴殿のお考えはどこまで進んでおられるのか……古い頭の儂には新しいパンなど、想像もつきますまい」

 感嘆するように、ダムソンはため息をらした。

ハッキリ云って、今更パンを改良しようとする料理人なんてどこにもいない。何故なら、あれはすでに完成された食材だからだ。

食神に愛された天才少年が作ろうとするのだから、何らかの勝算はあるのだろう。それを思って、ダムソンは小声でささやいた。


「完成したら、そのパンをわしにも、少し買わせてもらえませんか?」

「いいですよ?」


「おお、崇高なるマケイン様に感謝致します……」

 もしかしたら、そのパンを見たら分かるかもしれない。

マケインという少年の才能がどこまでのものなのか。もしくは、神官長として長いダムソンにも見定めることができないほどなのか。

トレイズの心は、きっともう引き返せないところにきている。

伏せた顔の老いた眼差しは、鋭く光る。


(未だ、儂はこの少年が作る料理を見たことがない……)

 ダムソン・ルクスは思考した。

しばらくは二人を見守ってみよう。この御仁が作るというこの世とも思えぬ料理、という言葉の正体が分かるまで。






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