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☆18 ヒロインとの出会いは衝撃と共に





「また兄ちゃ、ぼけっとしてる」



 ルリイは、剣術の稽古けいこの終わりに庭先でたたずんでいるマケインを見つけ、呟いた。近くを飛んでいた蝶はひらひらと舞っている。


「どうしたの、お兄ちゃん」

「……あ、ああ。ルリイか」


 ハッとしたようにマケインは蝶を追いかけていた視線を上げる。汗を拭っていたはずの自分の手が止まっていたことに気が付き苦笑を洩らした。


「兄ちゃ、ずっとおかしいよ。あの日、街の神殿に出かけて行った時から……」

「そうかな。そんなに変に見える?」


「まるでたましいが水にさらわれてしまったみたい」

 ルリイの言葉に、彼はため息をつく。


そうだ……、確かに、マケインの心はウィン・ロウに出かけた日からずっとそこで止まっている。

少し期待していたスキルも芽生える兆しもない。果たして喜んでもらえたのかも分からない。もしかしたら、あのまま作った料理がドグマの嫌がらせで捨てられてしまった可能性もある。

そんなことばかり考えて、かといってこれから先どうしたらいいのかも判然としなくて。こうしてぼんやり空を流れる雲を眺めては、センチメンタルな気分を味わっている。


「そうだよな……、そろそろ気持ちを切り替えないと」

 作りたいものは沢山ある。できるなら、あのピタパンサンドだってもっと改良してちゃんとしたハンバーガーにしたい。

どうにかして肉を手に入れて……ピタパンだって改良したい。家のかまどで焼けるだろうか?

 それができれば、今度こそ奉納してあの性格の悪い女神に美味しく食べてもらう。スキルのことは二の次でいい。恐らく、前回はそれをあからさまに狙いすぎたのかもしれないからだ。

 全く、邪念というものは見抜かれるものである。


「やっぱり豆と卵料理ってのがいけなかったかなあ……」

「?」

 不思議そうな顔をしているルリイの頭を、マケインは苦笑しながらでる。栗色の柔らかな髪に指を通しつつ、マケインの頭はようやく次のことを考えられるようになった。


「ま、悩んだってしょうがないや!」

 少なくとも、自分の料理がこの世界で金になることは分かったのだ。それだけでも十分な進歩であるといえよう。

今度こそうまくやってみせる! なるべく簡単に作れて、再現できそうなファストフードは何だろうか。

思案しているマケインに、ルリイが言う。


「ねえ、お兄ちゃん。ルリイはね、お兄ちゃんの料理は世界で一番美味しいと思ったよ」

「ん?」


「あんな風に卵を食べることができるなんて、わたしたち、知らなかった。誰も知らない料理が作れるお兄ちゃんは神様みたいだと思った。兄ちゃの料理はすごいよ。本当にすごい」


「ありがとう、ルリイ」

 マケインはようやく普通に笑うことができるようになる。

マケインは、勢いよくルリイを抱き上げてぐるぐる回した。妹の足が宙を舞い、きゃっきゃと笑顔がこぼれる。

笑って、笑って、はしゃいで。そんな風に戯れている二人のところにエイリスが急いで駆け寄ってくる。


「ま、マケイン様! 早くお逃げください!」

「……どうしたんだ? エイリス」


「マケイン様のところに、食神殿から使者が来ました! それもすごい数ですっ」

「…………へ」

 ぽかんと口を開けたマケインのところに、今度はミリアが物凄い勢いで走ってきた。


「馬鹿兄貴! 今度は一体何をしたのよっ 早く逃げないと、連れてかれて首でも切られそうな勢いよ!」

「……マジですか」

 まさか、やはり豆と卵料理というのは神様に対して無礼だっただろうか。それとも単純に、異世界の料理は口に合わなかったとか。

身の危険をひしひしと感じているマケインは、うわーっと叫んで天に向かって頭を抱えた。

もしも神様の機嫌を俺が害してしまった場合、ここで自分だけ逃げたら他のみんなはどうなるだろう。


「ごめん、ミリア……」

 マケインだけでも逃がそうとするエイリスに逆らって、俺は勇気を振り絞って屋敷へと向かう。神様や高位貴族に逆らえば一家もろとも死刑になってもおかしくないと思ったからだ。

 もうなるようになれ、だ。

この辺りの地形がうろ覚えの自分が逃げたところで、すぐに捕まって連れ戻されるだけである。だったら、みんなに迷惑をかけないように立ち向かった方がいい。


 そうだ、いざとなったら俺には秘策がある。

その名もDOGEZAだ・・・…!


 すまん、ルリイ。ミリア。エイリス。マリラ、親父……!

俺はもう迷わない!

心の中で謝りながらマケインが屋敷の入り口に戻ると、そこには神官服を着た食神殿の人間が長蛇の列を成して街道からモスキーク家の玄関へと並んでいるのが見えた。


 まるで夏と冬のコミケの行列のようだ。もしかしたら、食神殿以外の関係者もいるかもしれない。

彼らは、俺の姿を見てひそひそとささやきあった。

その先頭にいたのは、いつかに出会った見覚えのある老人の顔。その表情を見て、マケインはぎょっとした。


「ダムソンさん……」


 え、なんで相手の方が死にそうな顔をしているの?

行列の人々は俺を見て神妙しんみょうに拝んでいる。




「まっままま、マケイン殿! こ、この度は、まことに申し訳なかったっ! 本当にすまない! この老いぼれに免じて許してくだされええええええええええええーーっ!」

「はい?」


 理解が追い付かないマケインの目の前で、ダムソン爺は平身低頭へいしんていとうスライディング土下座を決めた。そのスピードはツバメの滑空かっくうより早かった。火花すら飛び散りそうな勢いだ。一緒に居た行列の神官たちも前に倣って全員地に頭をり付けた。

 なんだこの想定外すぎる事態。

呆然と見つめていたものの、我に返ったマケインが叫ぶ。


「いやいや、ダムソンさん! なんで俺なんかにそんなことをしてるんですか!」

「この老いぼれの首で済むものなら、いくらでも差し出す所存しょぞんでああああります! どうか、どうか! 他の者の命は見逃してやってくだされ!」


 行列の神官がダムソン爺にさりげなくナイフを手渡そうとしている。偽物ならいいのだが、どう見ても明らかに本物臭かった。


「意味が分かりませんってば! なんで俺が織田信長みたいなことになってるんです!?」

 混乱しているマケインと対面している神官たちはかたくなに頭を上げようとしない。途方に暮れて視線を動かしたマケインは、その行列の中に、罪人のようにぐるぐる巻きに捕まったドグマの姿を見つけてしまった。

なんとなく頭が思考を放棄しそうになったマケイン。そこに、馬車の中から一人の人物が軽い足音で降りてくる。



「――ようやく会えたわ! あたしの旦那様!」


 そんな黄色いチューリップのような声と共に、ふんわりとした桜色の髪が光を反射する。色白の頬は上気し、筋の通った形のいい鼻。宝石のような萌黄の瞳はにわかに輝いた。

勢いよく抱きつかれ、マケインは慌ててその美少女を受けとめた。

え? え? どういうことだ?

当惑しながらも、マケインはその柔らかな感触といい匂いがする女の子を理性を振り絞って引きはがす。


「あの、人違いじゃ……」

「そんなことないわ! あたし、ずっとずっとアンタのこと探してたんだから! 神殿の連中の陰謀ったらひどいのよ! こんなところに隠されているだなんて思わなかった!」

 トレイズ・フィンパッション。食の女神。

いつかにケンカした時とは違って、彼女の好感度はすこぶる高い。

思わず赤面してしまったマケインの後ろで、エイリスがゴホンとせき込んだ。





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