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☆12 メイドの本心



「マケイン様が市場の買い出しにご一緒するのは久しぶりでございますね!」


 楽しそうに、エイリスがほほ笑む。

大きな籠を持った彼女は古びたメイド服を身にまとっていて、それでもその大人びた雰囲気は決して損なわれていない。


こんな時じゃなければ、もっとエイリスとの買い物を楽しむくらいの気分になれるんだけどな……。そう思いながらマケインは考える。


 肉や魚が使えないって、どんなものを作ればいいんだろう。

確かに幾つか料理の案はないわけじゃない。だけど、如何せん神様に奉納するってことになると途端に自信がなくなってくる。



「エイリス。ジャガイモってどこで売っているか分かるか?」

「お芋ですか……?」


 エイリスがうーんと思案する顔になる。


「あのう、マケイン様。ご存知かとは思われますが、お芋はそもそもデンプンをとったり家畜の餌に使われることが殆どで」

「家畜? 人間は食べないのか」


「いえ、貧民層の者は確かに食べることもあるでしょう。ですが、貴族が食神の奉納へ捧げるには食材として失礼にあたってしまうかと……」



 となると、フライドポテトは無理そうだ。

実際問題、揚げ物をするには油が大量に必要になるから難しいことは分かっていた。ピザとかなら簡単にできそうだけど、マリラの指示はパンや卵や少しの油だ。なるべくならこの食材から逸れない方がいいだろう。


「体裁だけでもハンバーガーみたいな形にできればいいんだけど……」

 そうなると、やっぱりあのアイデアが一番いいか……!

すっかり腹を決めた細市は、鼻歌をうたいながら隣を歩くエイリスに話しかける。


「楽しそうだね、エイリス」

「ふふ、マケイン様と一緒なのもそうですが、お買い物はメイドの腕の見せ所ですから」


 腕まくりをして、エイリスは燃える眼差しで語りだす。


「なんていったって、ご貴族様の家計を預からせていただいているというのはメイドの誉れ! 大変な名誉めいよであることなのですっ

それだけではなく、マケイン様のご奉納のお手伝いをさせていただけるなんて、張り切るに決まってるではありませんか!

このエイリス、坊ちゃまの為なら火の中水の中、どこまででもおともする覚悟でございます!」

「……そっか」

 マケインは思わず苦笑をする。


鳶色とびいろの瞳を曇らせながら、少年は呟いた。


「エイリスは、俺のことを格好悪いと思わないの?」

「思いませんよ。そのようなこと」


「なんで? だって俺、食神の加護なんだよ? モスキーク家の終わりだって思わない?」


 この世界は、貰ったご加護が絶対の世界だ。俺が食神からの加護をもらったことに、異世界人であるエイリスが何も思ってないはずがない。

もしかしたら、同情されているだけかもしれない……そんな不安は、いつしか惨めな気持ちを増すだけだった。


「……私、実は少し嬉しかったんです」

 俺と同じ視線までしゃがみ込んで、エイリスが淡く微笑んだ。


「マケイン様と、平民である私が同じご加護を貰ったこと、お揃いのようで嬉しかったんです。食神のご加護を持っているからって、マケイン様のことをダメだなんて思いません。こんなことを言ったら、ご主人様と奥様に首にされてしまうかもしれなくて、とても言えなかったのですが……」

 その言葉を聞いて、マケインは放心状態のようになる。


「……ホントに? エイリスは、俺と一緒の加護で嬉しかったの?」

「はい!」


 満面の笑みを見たら、胸の奥が熱くなって涙が出そうになった。それくらいに、ホッとして俺も嬉しかった。

何も知らない世界の中で誰か一人でも味方がいるって思ったら、なんだか安心した。嘘や偽りで言っているわけじゃないって分かったから、細市はこの世界でも頑張れると思った。


「……ありがとう」

 マケインは、小さな掌でエイリスの手を握った。


「俺さ、頑張るよ。誰も見たことのないような料理を作って、少しでも家の為に稼ぐ。エイリスがモスキーク家にずっといられるように努力する」

 目を丸くしたエイリスに、マケインはニヤリと笑った。


「誰も、見たことのない料理を……」

「ああ。革命を起こすんだ」


 マケインは己をふるい立たせる。

俺は、この世界を料理で革命を起こす。もう起こしていくと決めた。決めたからにはもうくよくよしない!






 モスキーク家のメイドであるエイリスは、目の前の小さな少年からゾクゾクとした興奮が伝わってくるのを感じた。

その正体が何なのかは分からない。けれど、マケインの存在から、計り知れないものを感じるのだ。

それこそ、大器を垣間かいま見せるようなオーラに。


「もしかしたら、本当に坊ちゃまなら宮廷料理人にもなれるかもしれませんね」

 思わずエイリスがそう呟くと、中世的な容貌ようぼうをしたマケインは、照れくさそうに笑って見せた。

 二人は手を繋いで、市場に向かって駆け出した。








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