草の匂い~番外編~
一緒に暮らすようになってから、3ヶ月後。
「あのさ、ガク。」
「なに~?」
「ちょっと出掛けないか?」
「いいけど、どこに行くの?」
「俺の秘密の場所。」
「……ほぇ?」
俺たちはマネージャーの車に乗り、ある場所に向かう。
「で、どこらへんなんだ?」
「えっと、ちょっと遠いかな。あ、マネージャー、そこの信号を右ね。」
「シン~、お弁当持ってくれば良かったかな?」
「う~ん、そうかも。マネージャー、そこは真っ直ぐ。」
「ほいよ。」
暫く車で走ると、山を登り、林道を抜けた先に、森があった。
「あ、マネージャー、ここで停めて。」
「ん。俺も近くに住んでた事はあるが、ここは知らなかったな。」
「だろうね。俺が小さい頃、森で迷った時に見つけた場所だから。」
俺たちは、森の獣道を入り奥へ進むと、開けた原っぱに出る。
「へぇ……。結構広いんだね。草の匂いもするし、いい場所じゃん。」
「だろ?みんなには内緒な。」
「うん。」
「俺さ、悩んでる時によくここに来るんだ。」
俺は少し二人と離れて、そちらへ向き直す。
「静かで、何にもなくて。ここに来ると、悩んでたのが大した事じゃないって気がするんだ。」
「うん、ここは風が気持ちいいから、何かシンが言うのも分かる気がする。」
「いつも、そこの小さい丘から街を見て、いろんな事考えてた。」
ガクの手を引いて、丘の上に登る。
「ここから見る景色が綺麗なんだ。でさ、ガク。」
「……なに?」
俺はガクの方へ向く。
「これからも、ガクの事を困らせたり、悩ませたりしてしまうかもしれない。でも。」
ガクの両肩に手を添えるけれど、恥ずかしくなって、青空を見上げる。
「ガクと居たいから。
俺はガクが好きだ。」
少し震える俺の脚を、自らピンと伸ばす。
「……うん。」
風で俺達の髪がなびく。ガクの答えは、風にかき消されてしまったけれど、俺には分かってる。
「俺のそばに居てくれないか?」
そっと抱き寄せると、ガクは俺の背中に腕を回して、胸元に顔を埋めながら、恥ずかしそうに呟く。
「……うん。ずっと一緒に居るよ。シンと一緒に。」
顔を上げたガクが可愛くて、そのまま俺はキスをした。
= 完 =




