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魂を解き放ち者  作者: 白昭
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第二話

「あんたのことだから、徹夜していて夢とゲームの判断がついていないんじゃないの」


 草色のローブを纏ったエルフが訝し気の半眼でアキトを見つめる。


「そんなことないってば! 本当なんだって!」


「まー、アキトよ。とりあえず落ち着いてエールでも飲めや」


 プハーとジョッキを呷り、酒臭い口でドワーフが声をかける。


「タケオさん、何度いったらわかるんですか。未成年に酒を勧めないでくださいよ」


「固い事いうなよ。ゲームじゃないか」


「ゲームでも禁止されてますから!」


 そう、この世界ではアルコールを飲むと現実と同じように酔うのだ。

 食べ物や飲み物も、本当に味を感じるのだ。

 こうなってくると現実とゲームの境目は何だかわからなくなってくる。

 ただ、便はもよおすことはない。


「まあ、とにかく座れや」


 ドワーフのタケオが手招きする。

 アキトは一つ息を吐き、ドワーフの隣へと腰かける。

 ちなみにアキトの種族はヒューマンだ。


「アキトさんは何を飲まれますか?」


 カウンターの向かい側で金色の骸骨が歯を鳴らす。


「コークでいいや」


「炭酸を飲み過ぎると私のようになっちゃいますよ」


「いやいやマスター、溶けるのは骨だから! 皮膚じゃないし」


 炭酸を飲むと骨が溶けるというのも都市伝説のようなものだ。


 ちなみにこの骸骨、マスターと言っても、バーテンダーではない。

 こう見えて、ギルドマスターだったりする。


 アキトは再ログインすると、すぐに自らが所属するギルドの拠点へと駆けこんだのだ。


「私はアキトさんの話をもう少し詳しく聞いてみたいですね」


「マスターは信じてくれるの?」


「そんな嘘をついても、何の得にもなりませんし。それに、低層に死神が現れたという情報は私の所にも入ってきていますから」


「え!? それってほんとだったの! それって何のバグよ」


 先ほどまで不信感丸出しだったエルフが、手の平を返したかのようにアキト達の元に駆け寄ってきた。


「リリーは少し静かにしてくれるかな。それで死神を倒したのは女剣士ということだったかな」


「え、あ、うん。そうなんだ――」


 アキトは話を続けようとしたが、室内に響いた大きな音に遮られてしまった。


『臨時ニュースをお伝えします』


「な、なんだよ突然」


 カウンターの上部に大型モニタが突然現れたのだ。そしてそこに映し出されたのは――。



「えっ! な、なにあれ……」


 鉄塔のようなものが崩れ落ちる映像であった。


「何? 新しいクエスト?」


「違う! あれは――」


 エルフが映し出される映像に呆然としていた。


「あれは現実世界を映し出す画面ですよ。しかしこれは何が起きたというのでしょう……」


 最近のMMORPGはプレイヤーの脳がリアルから仮想世界に接続されるのが主流だ。

 リアルと完全に遮断された状況であるため、現実世界で何らかの災害が起きた場合でもそれを知覚することができない。最悪、逃げ遅れる可能性がある。

 人的被害を未然に防ぐために、ゲームシステムに災害アナウンス等の緊急措置を講じなければならないことが法令で規定されているのだ。


 映像とともに、アナウンスが続く。


『本日正午、北海道札幌市の大通公園で大規模な爆発が立て続けに発生しました! 歴史あるテレビ塔やビルの多くが崩れ落ち多数の死傷者が出ている模様です! 現場周辺では爆発直前に不審な集団が多数目撃されていることから、ここ最近世界中で起きている一連のテロと同一グループによるものではないかと思われます』


「おいおいなんの冗談だよ……。まさか日本まで標的なのかよ」


 ドワーフの髭を伝ったエールが床へと垂れ落ちる。

 あまりの出来事に嚥下する行為を忘れてしまったようだ。

 床に零れ落ちたエールは直ぐに消失するため、掃除をしなく良いことだけが救いであった。


「わ、わたし――。ちょ、ちょっと落ちるわね!」


 エルフのリリーが青褪めた顔でそう告げる。

 誰も声を掛ける間もなく、部屋からその姿を消した。


「あっ、リリー! 急にどうしたんだろ」


「そういえば、彼女は札幌に住んでいたと聞いた記憶があります」


「えっ、それって大丈夫なの」


『爆破前の防犯カメラの映像が入手できましたので、ご覧ください』


 モニタの画面が切り替わる。

 大通りを走る黒づくめの一団が映し出された。そのあまりの異様さに市民が道をあけていた。


「やはり奴らか……」


「え、タケオさん。あいつらを知っているの?」


「は? アキト、お前……。ニュースとか見ていないのか?」


「え……。いや、だって、学校とかバイトとか忙しいし」


「学校でだって話題になるだろ。お前まさか、学校にもいかずにこの世界に入り浸っているんじゃないだろうな」


「い、行ってはいるよ……」


 タケオの指摘は半分は当たっていた。

 アキトは毎日学校には通っているが、授業中はずっと寝ているのだ。

 授業が終わるとすぐにバイトだ。平日シフトは全て埋まっている。

 夜遅くにバイトを終えるとすぐにこの世界にログインしているのだ。

 バイト代も、睡眠時間も全てこのゲームに献上しているといっても過言ではなかった。

 アキトにはニュースどころかTVを観る余裕すらないのだ。


「奴らは確か……調律者とか名乗っているんだったか」


「何ですかその怪しげな集団は」


「新興宗教とも言われていますね。ここ数か月の間、世界中で同時テロを引き起こしている連中です」


「そんな、なんの理由で……」


「知らねーよ。リアルはもう腐りきっているってことだな。こりゃ飲んでないとやってらんねーよ! マスター、ウィスキーストレートで!」


「いつだって飲んでるじゃん」


「あ!?」


「いや、なんでもな――」


 頭の中にポーンという音が鳴り響いた。

 今度は何だっていうのか。


『運営からのお知らせです。本日正午、日本国内においてテロが発生しました。これを受けて日本政府よりVRMMOの各運営体に対し勧告がありました。概要としましては、国民の安全確保のために全てのサービスを一時的に停止するよう求めたものとなります。弊社はこの勧告に従い、一時的に国内サーバーのサービスを停止させて頂きます。復旧の見込みがつき次第、改めてアナウンスさせて頂きます。利用者の皆様には、ご不便ご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます』


「まじかよ!」


「そんな! 折角の土曜日なのになんでさ! これじゃあ、さっき失ったステータスの回復ができないじゃないか」


「残念ながら、カウントダウンが始まりましたね」


 頭の中に、30、29、28……。と、機械的な女性の声が響く。

 システムメンテナンス前によく聞く声だった。


「マスター! 切断される前にもうワンショット!」


「タケオさん、リアルで飲めばいーじゃない」


「酒代がもったいないだろ! ただでさえこのゲームに金を費やしているというのに」


「はぁ、サービス停止に対するお詫びのボーナスに期待するしかないか」


 ドワーフのタケオがウィスキーを煽るのと同時にカウントはゼロを告げた。


 週末ということもあり、国内だけでも数千人を超えるプレイヤーがログインしていた。

 その全てが、この世界から一瞬にして強制退去されることとなった。


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