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自殺人カザミ  作者: みつい ひふみ
8/9

能力開放

老人が再び淹れたコーヒーは、どうやらブルーマウンテンらしい。何やら満足気に香りを楽しんでいる。

「このコーヒーだけ飲ましてくれや。これ飲んだらルイルちゃん呼んだるけ」

寒咲は考えていた。自分に与えられた能力の実用性を――使い道を。

「待たすのも悪いし、さっさと飲んでまおかぁ」

老人がコーヒーに口をつけたその瞬間、老人の首は宙を舞った――

「悪いな爺さん。こんな能力を手に入れた以上、アンタらの命令通りに動く義理はない」

ボトッと、重たい物が落ちた音が部屋中に響く。それは紛れも無く老人の頭が落ちた音だった。老人の体は無抵抗に椅子から転げ落ちた。まさにドラマで見た事のある殺人現場と言ったところか。

「遺言すら残せずに逝くとは、なんとも人の命は儚いもんだなぁ。自殺しかけた俺が言うのもなんだけどよ」

とりあえず、寒咲はその場を離れようと思った。先程の老人の言い草からして、ルイルと呼ばれる女性が近くにいるのは確かだ。つまり、今の寒咲が注意すべきことは1つ。ただその女に見つからずにここを逃げ出すこと、それだけだった。

最悪、見つかっても負けない自信が寒咲にはあった。実際、不意打ちといえど今ここで殺人を犯したのだからな。

「そうと決まれば、とりあえずこの部屋を出るか。誰かに見つかる前に、この部屋から距離を置く必要があるからな」

そう言って寒咲は立ち上がり、ドアノブ目掛けて歩き始めた。いや、歩き始めようとしたのだ。

「残念やで寒咲君。こんなアホなことしよって」

寒咲は死体のあった位置を見た。しかし、先程と同じ状態で寝そべった老人がいた。もちろん、先程と同様に血も飛び散っていた。

「なんだ?ただの空耳か? それとも、初めての殺人で脳が追いついてないのか?」

寒咲は気にせずに部屋を出ようかとも考えた。しかし、

「もしも……もしも今の声が空耳で無かったとしたら。このまま部屋を出る訳にはいかないな」

寒咲は老人の死体へと歩み寄った。ほんの数歩の距離にある死体。寒咲はコーヒーを日本刀に変形させ、老人の頭を切り落としたのだが、その頭が落ちた場所は、ちょうど椅子の影に隠れて見えない位置にあった。寒咲はゆっくりと歩み寄り、椅子の向こう側を覗いた。すると、

「寒咲君。確かに君は我が組織の第一号能力者や。でもな、能力者自体の第一号ではないんやで」

そう言って突如、死んだはずの老人が跳ねおきた。寒咲は思わずバックステップで距離を置いた。身長179cmの体をもつ寒咲なら、軽くステップするだけで、十分な距離が保てた。

「どういうことだ?ジジイ、なんで頭がついてやがる?」

「言うたやろ。能力者自体は君が第一号やないて……ワイも能力者や言うこっちゃ」

「なに!?」

寒咲は完全にアテが外れていた。先程、ルイルに会っても勝てると考えていたのは、能力者なのは自分だけだと思っていたからだ。しかし、この老人の言うことが正しければ、ルイルも能力者の可能性が十分にありえる。そうなれば、今寒咲が起こした行動は、かなりマズイ事かもしれない。

「まあ、君が我々を裏切るかもしれんなんて、そんなもん最初から想定済みじゃ。やからルイル君がおるわけやしな」

老人はニヤニヤと余裕の表情を浮かべた。どうやら完璧に首が元通りになっているらしい。

「ちっ……マズイな。この老人の能力が何か分からないと、打開策すら浮かばん」

寒咲には分からなかった。この老人が生きている理由が。

もしかして、幻覚を見せるタイプの能力者で、初めからこの部屋には寒咲しかいなかった……というオチか。それとも、寒咲の水のように、切り裂かれてもすぐに体が戻るくらい、自由に体を変形できる能力なのか。もしかして……もしかして……

「なんやよう悩んどるみたいやけど、ワイは別に君に能力を教えたってもええんやで?」

「なんだと?」

「別に能力を知られたからいうて、君にワイは殺せへんからなぁ」

アハハハ!と声高らかに笑い上げた。この老人、ハッタリをかましているのか?

「なら教えてもらおうじゃないか。お前の能力はなんだ?」

ゴホン、と一呼吸おいて老人は話し始めた。

「ワイの能力は怪我や病気を一瞬で治せる能力や。それはもちろん、死ぬ事を無かったことにする……というより、致命傷を受けても死ぬ前に治せる……みたいな感じも可能やねん。せやから、本来なら君に頭を切り裂かれた時、即死してるハズやねんけど、ワイは能力を使って体と頭を元通りに引っつけたっちゅうことや」

「致命傷でも治せる……だと」

無茶苦茶だと思った。そんなもの、不死となんら変わりないのだから。

「さあどないする寒咲君。君にワイを殺す事は出来へんぞ?堪忍して、大人しく我々の言うこと聞いてもらおか」

老人は寒咲の元へと歩み寄ってきた。その顔はまさに勝ち誇った顔というべきか。しかし、寒咲には引っかかる部分があった。

「なあジジイ。1つ聞いていいか」

「なんや?別に何でも聞いてくれてええけど、口の聞き方には気をつけろや?」

「ジジイ……俺にいろいろ説明してくれた時に言ってたよな。どんな能力にも弱点があるって」

老人は少し顔色を変えた。

「ああ、せやで?」

「て事は、一見不死に見えるジジイの能力も、弱点があるってことだよな……」

それ、俺分かったかも。

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