覆う雨のレビュー全文「推理を羽織る、文学」
粗筋で心が踊ったので予想はしていたが数行を目で追いかけただけで、感嘆の思いが溢れた。
日常を描いて、ここまでとは。
文章で読ませる作品は少ないが、覆う雨は文章で酔える。
心理描写と状況背景の結び方が秀逸で、心情から行動を描き、想像によって行間を読ませる。
特に人物造形、性格を表現する仕種、科白などが巧みで普段の生活を想像し易く、描かれていない奥行きのある現実を連想させる。
内容は謎解き。
主題は何か。謎解きを仕掛けた者の謎解きの意図を作者はどのように語る。そんなことを考えながら文章を読んでいく。
作者は完成があり、そこから逆算で辻褄から外れないように過程を描く。
推理小説なら推理の情景を楽しませながら。
謎解きの鍵は名前と絵。
小説の現実との違いに名の力がある。現実は大抵ありふれた誰かと重なる同じ名だったり。小説の主人公の名には意味と内容が器のように表されていることが多い。絵の描写は必要な上に重要だが描いてある場面を絵のように語る表現力は文章にはない。
文章では書く文字の順番が視線と視点を決める。絵を文字で表現するのは難しい。しかし、不自然にならない配分の語り描写と科白を駆使して美事に絵を見せる。
難しく、複雑な物語。
なのに柔らかな口当たりで気軽に読め、読み終わる頃には重厚な主題が濃厚な読後感を演出し、読者は語られない真実を、登場人物達の心境を想い、自身で想い想いの文を行間に書き上げ味わえる。
そんな作品に仕上がっている。




