表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/53

アブない夜

 日が落ちて、星が夜空に散りばめられ始めたころになってようやく──薬が完成した。


 タイヨウの果汁の他に必要なものはすべて用意されていて、手順も難しいことはなかった。濾して、蒸留して、混ぜて、攪拌して、温めて、冷やすだけ。


 そのことをカルに言うと、


「専門家の簡単は、素人には簡単じゃねえんだよ。オレにはああいう細けェ作業はダメだ」


 薬が出来上がったからか、上機嫌にそう言った。


 ──たぶん、ほめてる……のかな?


 ボクが作業している間に、カルがまた狩りをして食事を用意してくれていた。薬に没頭しておなかがすいていたのに気づかなかったボクは、それをペロリとたいらげる。


 満腹だ──仕事もきちんとできたからか、ものすごく満たされた気持ちだ。


「しかしマクナ、オマエさ」


 その気持ちに、こいつはすぐ水をさしてくる。


「よく今まで生きてこれたな」

「どういうことだよ」

「警戒心がなさすぎるってんだよ」


 警戒──?


「まず女ひとりで店番やってたのがありえねえな」


 ──だから、ボクは


「ダークエルフの言うことを簡単に信じてついてくるし、男との二人旅だっていうのにな」


 ボクは!


「夜もグースカ寝やがるし。襲われたらどうするつもりだったんだか」


 ボ・ク・は!


「ま──安心しろ、オレは」


 ボクは!!


「男にしか欲情しねえから」

「ボクは男だッ──って、エッ」


 え?


 ……えっ?


「オマエが女でなきゃ、わりと好みなんだよなァ。とっとと手を出してたとこなんだが──ん?」


 ………。


「オマエ、今なんつった?」

「さ、さあ? 聞き間違いだ──じゃないかしら?」


 じり──と、腰をわずかに上げて後ずさる。


「わたっ、わたし、別になにも言ってないことよ」

「シルヴィア、発言を許す。──言ったよな?」

『聞いた聞いた。男の子だって』


 弓から致命的な証言が発せられた。


『意外ィ。確かに男物の服着てるし、胸もないし、男っぽい顔してるけど、そういう女の子だと思ってた』

「あァ、オレもな。気をつかって触れないでやってたつもりだったんだが」


 よくある。


 コイツらのように勘違いされることは、五度に四度ぐらいの確率で、よくある。お客から口説かれたことも、まあ──少しある。男の子っぽい女の子だと思った、と、そう言われることは、よくある。


 そういうときは男だと伝えるだけで、心を折ってやれたものだけど──


「なんだ。気をつかわなくてイイみたいだな?」


 折れない相手は、初めてだった。


「イッ、いやいや、気をつかえよ! ボクは男なんて──ふ、普通に女の人に興味があるんだッ」

「興味ねェ……もう済ませたのか?」

「はっ? 何を!?」

「女とヤッたことあんのかって訊いてんだよ」

「そっ、そんなの関係ないだろ!」

「んじゃ男とは?」

「あるわけないだろっ!」

「んだよ」


 カルは、身をのりだしてイヤらしく笑った。


「どっちとも経験なねーんなら、どっちがイイかなんてわかんねーじゃん。まずは男と初体験といこうぜ」

「どどどどうしてそうなるんだよっ!」

「ヤッてもいないのに判断なんてできねーだろ? イイじゃねえか──別に女との経験が後でも」

「よ、よくな──うわっ!」


 逃げ出そうと力を入れた瞬間──背中から組伏せられていた。何が起きたのかさっぱりわからない。手も足も、どんなに力を入れても動かない。


「ひぃぃ──」


 何か、何とかしないと──そ、そうだっ。


「しっ、シルヴィアはいいのかよっ!」

「ハァ?」

「だってほら、あの時、ご無沙汰とかご褒美とかなんとか──こ、こういうイヤらしいことなんだろっ? シルヴィアにしてやんなくていいのかよっ!」


 今なら分かる。アレってつまりこういうコトの話で──


「──ああ。そんなら、コレがご褒美だぞ」

「……えっ?」

「コイツは男色専門の覗き趣味だからな」


 は?


『ショタハーフエルフとかめっちゃたぎるわ。法力ガンガン溜まってきた。ドンとイけ! ドンと!』

「ま、オレの方は溜まってたしな」


 最低だこいつら。


「まァ、初心者相手に手荒なことはしねェよ。気持ちよくしてやっから、任せなって。な?」

「ちょ、ボクは、やめっ、服っ……あっ、やっ……!?」


 あの時感じたことは間違ってなかった──コイツは……コイツは、本当に、最低の客じゃないか!?

2021/12/29改稿

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ