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おそろいマント

 倉庫の中をひっかきまわして、薬をつくるのに必要な道具、そして外出するのに必要そうな道具を持って店から出ようとしたところで──


「お前、そんな軽装──つーか街を歩くような格好で外に出る気か?」

「えっ」


 と男につっこまれた。


「……これじゃ、ダメ?」

「山で一泊はすんぞ。まだ冷えるからそれじゃ凍え死ぬな」


 ダークエルフは、にやーっと笑う。


「オレに暖めてもらうのを期待してたならヤボだったが」

「ッ……! そんなわけないだろっ!」


 何を言い出すんだ、このダークエルフは。


 ……とは言っても、ボクにはこれ以上何が必要なのか分からない。


「……何を持っていけばいいの?」

「そうさな」


 質問すると、素直に色々教えてくれる。メモを取り出して書き込んだ。


 だいたいの品物は、店の倉庫にあるものだった。師匠が薬を必要とするお客さんに、ついでに売りつけているいろいろな物。それを背負い鞄に詰め込んだ。……いいんだ、なかなか売れない物だから。


 店の鍵を閉めて、ご近所さんに留守にすること──そして師匠には内緒にすること──を伝えて、次にウチの店には置いていなかった物を買いに行く。


 ──そんなわけで、古着屋に来ていた。


「早く済ませろよ」


 男はそう言って、ボクから離れた店内で待っている。ついて来てなんて言ってないのだけど──まあ、いいか。


 男はまたフードを深くかぶって、マントで身を隠していた。ダークエルフだから──トラブルを避けるために、だと思う。


 この世界にはいろいろな種族がいる。


 ヒト、エルフ、ドワーフ、マトール、ギグル──いろいろいる。


 これら人類と呼ばれる近しい種族たちの間でも、昔はひどい差別や小競り合いがあったという。今は人類同盟なるものが結ばれて、交流は普通に行われている……いくつかの例外を除いて。


 その例外のひとつが、ダークエルフだ。


 種族として魔の側についているわけではない。


 けれどよく言えば中立、悪く言えばどちらにも気分次第で味方するスタンス。暗殺を生業とする閉鎖的な種族。そして──エルフたちから買っている恨み。


 それらが、ダークエルフが厄介者扱いされる原因だ。


 ……今のところ、あの男はそんなに危ないやつには見えない。耳にピアスなんかしていて、チャラチャラしているなとは思うけど……店に来るような強面の男とかと比べたら、全然だ。


 ちなみにボクはといえば──


「………」


 見せに備え付けられた薄汚れた鏡を覗く。


 エルフの血による長い耳。エルフにはいない黒い髪。大きな眼鏡の下には、やはり黒い瞳。美しいとかかっこいい何てほど遠い、なんとも間の抜けた顔──やめよう、あんまり見ていたくない。


 ボクがこの古着屋で探しているのは、マントだ。夜の寒さをしのぐには、毛布より雨にも対応できて持ち運びも楽なマントの方がいい、らしい。あのダークエルフが言っていた。


 もちろんもっと予算があれば寝袋とか他の選択肢もあるんだけど……ボクの使えるお金は多くない。


 それにマントといえばいかにも冒険者って感じだし、ちょっとワクワクしている。だからこうして探しているんだけど……なかなかいいのがない。布地が擦り切れていたり、穴が開いていたりするものが多い。いや、一枚だけ良さそうなのもあったけど、それは──


「おい、まだ決まらねえのかよ」

「わっ!?」


 いつの間にか、音もなく男が隣にやってくる。びっくりした。


「んだよ、マントぐらい適当に──ん? なんだ、もう一枚確保してんじゃねえか」


 してる。今まで見つけた中で、一番布がすりきれてなくて、穴も空いていない上物を。


「それでいいじゃねえか」


 よくない。よくないんだ。だって──


「──ん? それ、オレのと同じ色だな」


 暗く、黒に近い草色。秋の枯葉のような。森に溶け込むような。男のしているマントとおそろいの色。


「──やっぱり古着はダメだ。別の、新しいのを買おう」

「金あんのか?」


 つぶやくと、男が即座につっこんでくる。


「この後、靴も買うんだぞ。むしろ金をかけるなら靴だかんな?」


 ボクの使えるお金は──そんなに、ない。


「いいじゃねえか。オソロイのマントで」

「よくないッ」


 なんでこんな男とペアルックしなきゃいけないのか。


「んじゃ、金あんの?」

「……ない」


 師匠からは給料……というか、手伝いとしての駄賃しかもらってない。


「………はぁ」


 結局、男と同じ色のマントを買って、男に言われるがままに靴を買って、店を出た。


「えっと、あとは? ……武器とか、かな?」


 町の外に出れば、守ってくれる衛兵はいない。獣、山賊──そして魔物。それらをなんとかできる人だけが、外に出て行く。


「心得があんのか?」

「……ない、けど」


 剣を持ったこともなければ、体力にも自信はない。


「けど、短剣ぐらいは、持っておいたほうがいい、とかさ?」


 武器。それを持っているなんて冒険者っぽくない? 戦士の背負った肉厚な大剣とか、憧れちゃうよね?


「あァ、短剣か」


 男はイヤらしく口をゆがめた。


「そうだな。どうしようもないとき、自害するときの役にぐらいは立つぜ」

「なッ」

「ハッ、怒んなって」


 男はニヤニヤと笑う。


「心得のないやつが立派な武器を買うなんて、そりゃ殺されるために買うようなもんだ。必要ねェよ。元から薬師を連れ出そうって話だ、そういうことは俺が全部やってやる」


 そう言って、男は背負った弓──安全のため、弦は外されている──を指した。


「お嬢ちゃんはジャマにならないようついてこれりゃ上出来だ」

「──お嬢ちゃん、って言うなッ!」


 また、このダークエルフは、そういうことを!


「つってもな。お前の名前知らねえし?」

「……マクナス」

「マクナ、ね。マクでいいか」


 人の名前を、どんどん短くしていく。こいつは──こいつこそ──なんて名前だ、こいつ。


「あ、あんたは……なんていうんだよ」

「ヘェ、俺に興味が?」


 ニヤニヤして言ってくる男を、にらみつけてやる。男は両手を上げて、「おおこわ」、とか言った。


「俺はカルグだ」

「カルね」

「おい」


 うるさい。人の名前を縮めておいて。

2021/12/29改稿

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