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カル&マクのどろり二人旅  作者: ブーブママ
第三章

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獣の恐怖

「えっと……どういうこと?」


 ドワイトさんが、老法術使いの連れてきた獣に魅いられた?


「法術使いが死に、獣を殺そうとした我々を、ドワイト様は止められた。そして今度は、ドワイト様が獣の力を使いはじめたのだ」

「えっ──でも税金は元に戻ったって」

「一度上げた税率に甘い汁を吸っていた貴族もいた。そういうものたちは税を下げることに反対したが……それを黙らせるため、ドワイト様は獣の存在を利用したのだ」


 ギグルは後悔の念をにじませる。


「民衆のために使うならと──その時は誰も問題としなかった。ここ最近になるまではな」

「──何が起きたんですか?」

「獣に生け贄を捧げるようになったのだ」

「生け贄?」

「生きたままの人間を、獣の住む塔の中へ入れろ、と」

「なっ──」


 生きたままの人間を、生け贄に。それって……


「その、獣って……魔物?」

「わからない」


 魔物は、人間を食う。というか、人間しか食べない。その他の物を摂取しても生きていけない……と言われている。人間を生け贄にしているなら……その獣というのは、魔物の可能性が高い。


「……まだ回数も少なく、生け贄にする人間も表沙汰にならないような者を……浮浪者や物乞いなどを選んでいたため、騒ぎにはなっていないが……」


 だとしても、魔物の所業だ。


 この街に隠された闇の部分に触れて、ボクは背筋がゾッとした。


「だが、それももう限界だ。ついには若い娘を生け贄にしろとの命令も出て──」


 ギグルは歯ぎしりする。


「頼みたいのは──暗殺のターゲットは、獣だ。法術使いの遺したあの獣さえいなくなれば、ドワイト様も正気に返られるに違いない。頼む、ダークエルフよ。塔の獣を殺してくれ」


 頭を下げるギグルを前に、カルは──


「あ?」


 ──耳をほじっていた。


「オウ、言い訳は終わったか?」

「き、貴様──」

「別にテメエらが殺しをやっていようがいまいが、どーでもいい。で? テメエらじゃ殺せない獣とやらをヤルのに、どんだけ報酬を出すんだ?」


 ギグルは──何か怒るような顔をして──それから項垂れた。


「金はここに」


 部下の男が小袋を差し出す。カルは一瞥して鼻を鳴らした。


「こんだけか?」

「いや──それからこの鍵」


 ギグルは懐から銀色の鍵を取り出す。


「法術使いの使っていた倉庫のものだ。死後、手付かずのまま残してある」

「理由は──ハン、ビビッちまって誰も調べられなかったってとこか? 倉庫の調査までやらせるたァいい根性してんな」


 カルはニヤリとする。


「何が残っているか、当たりかハズレか──いいぜ、乗ってやる」

「では──」

「塔だろ? ハッ、簡単なモンだ」


 スタスタと部屋を横切って──カルは窓に足をかけた。


「まァ、待ってろ。すぐに獣とやらの首を持ってきてやんよ」


 余裕綽々の顔をして──一瞬で夜の闇に姿を消していた。


 取り残された男たちの間に、ホッとした空気が流れる。


「これで……」

「ああ。助かるんだ」

「よかった、俺、もう生け贄の背中を押すのは……」

「すまなかったな」

「あ、いえ」


 ボクはギグルから謝罪を貰う。


「えっと、まあ、たぶん大丈夫ですよ。アイツ……彼は、腕だけは確かなので」

「それを聞いて安心した」

「ふー……あ、お茶でも飲みます?」

「あ、いただきます」


 部下の人たちが扉の外に出て、しばらくして人数分のカップを持って戻ってくる。ほかほかと湯気をあげるカップが、夜風の吹き込んでいた部屋の中にいたボクらにはありがたい。ふうふうと冷ましながら口をつけようとした──その時。・


 ガタン、と窓から音がして、全員がそちらに目を向けると──汗だくで髪も乱れたカルが、息を切らせながら窓にしがみついて。


「は、話が違うじゃねーか……」


 と、かすれた声で言うのだった。


 その顔に──見たこともない焦り──そして恐れを浮かべながら。

2022/1/1改稿

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