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カル&マクのどろり二人旅  作者: ブーブママ
第二章

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フィンデリオンの訪問

 窓からさしこむ日の光。いつもの見慣れた天井。


 目が覚めてまず見えたのは、それだった。ここは……ボクの部屋だ。タスカーの店の2階の、窓側の小さな部屋。


 ベッドの上に身を起こして、ぼんやり考える。


 ──全部悪い夢だったのかな。


 ダークエルフにそそのかされて街の外に出たことも、帰ってきたら街が燃えていたことも、全部。


 そんな淡い期待を持ちながら、ベッドから降りて、ぼーっと窓に近づいていって──夢じゃないことを思い知らされる。


 窓から見える通りの向こう側が、なかった。


 土砂崩れというのだろうか──えぐれた土の斜面になっていた。いつもは向かいの建物に遮られていたその先の景色が見渡せる。土砂に、瓦礫──そんなものがあふれかえり、どこかではまだ細い煙が立ち上っていた。


「オウ、起きてたか」

「ッ」


 急に部屋の扉が開いて、カルが入ってくる。無作法なヤツ。ノックぐらい……いや、それは今は飲み込んでおこう。何が起きたのか知らないと。


「ね、ねえ、いったい何が」

「ドレ、デコ貸せ──オシ、熱は下がったな」

「──ッ!」


 ボクは、額をくっつけてきたカルを突き飛ばす。


「なっ、なっ、なにするんだよっ!」

「なんだよ、何も覚えてねェのか。ま、ベッドに放り込んだらすぐにグースカ寝たもんな」


 カルは小脇に抱えていた袋から食べ物を机に出しつつ説明する。


「店まで戻ってきたら、オマエ全然動かなくてな。調べたら熱を出してたんだ。んだからココまで運んで寝かしてやって、ついでに倉庫から熱冷ましを探して飲ませてやったんだぜ」


 ──そんなの、全然記憶にない。いつの間に薬なんて飲んで──ん?


「……あの、それって、どうやって」

「倉庫の鍵なんて、イチビョウで開けられたぜ。もっとイイヤツにしとけよな」

「倉庫のことじゃなくて!」


 カルはニヤニヤとイヤらしく笑って──唇に指をあてた。


「薬ならモチロン口移しだな」

「く──」


 くちっ──


「変態ッ!」

「アァ? いくらヤッても目が覚めねーんだから仕方ねーダロ。だいたい薬飲んでなかったら、今こーして話せてるかどうかも怪しいもんだ。感謝されんならともかく、罵倒されるいわれはねえなァ」

「う──」


 ……悔しいけど、その通りだった。おそらく疲労からでた熱だとは思うけど……こんな状況で寝込んでいるわけにはいかない。で、でも、どんな事情があったって、く、口──


「あーァ、ダークエルフはツラいぜ。どんなに善行を積んだって嫌われもんだからなァ」


 ──とりあえず……とても不本意だけど……ボクは、カルの悪行を不問にすることにした。


 そうだ、今はそれより知りたいことがある。


「あの、街はどうなって──」


 ドン、ドン


「──ん?」


 扉が叩かれる音がする。ボクは窓から玄関の方を見た。すると兜をかぶった全身鎧の騎士がちょうどこちらを見上げて、目が合う。


「生存者か! 降りて扉を開けなさい!」


 怒鳴られた。


「そんなこと言われても、どうしよう──あれ? カル?」


 カルはいつの間にか音も立てずに消えていた。廊下に顔を出してみても──いない。


 もう応対にでたのかな?


 そう考えて、ボクは階段を降りていった。たぶん街の衛兵……じゃないな。領主の騎士かな? こんな店に何の用だろう。


 そんなことを考えながら1階に到着したけれど……カルの姿はない。その代わり、扉はドンドンドンドンと激しく叩かれている。


「──はい」


 仕方なしに店の扉を開けて──カルが消えた理由がわかった。


「穢らわしいハーフエルフがひとりか。他にはいないか?」


 肩まで伸びた金髪を複雑に編み込んだ、カルを追っているという、感じの悪いエルフの男だ。ズカズカと店に入ってくる。お供の全身鎧のふたりはは中に入ってこず、外で待っているようだ。


「えっと──」


 ふと、この人にカルを引き渡そうかと考える。


 顔を隠さないと街にも入れないワケありのダークエルフ。それに比べて堂々と街中を闊歩するエルフ。カルを追っている……何かの理由があって。


「──ひとりですけど」


 ……でも、別にボク、こんな失礼なエルフの味方をする義理もないし。いや、別にカルの味方をするわけじゃなくて……そう、どっちにも味方しない、ってことだ。


「そうか。ではついてくるがよい」


 ボクが答えるとエルフはそう言って、くるりと踵を返して店から出ていく。


 それをボクは見送った。


 ──だいぶしばらくしてから、エルフは少し息を切らせて戻ってきた。


「なぜ、ついてこないのだ」

「そう言われても……」


 知らない人についていくのは、もうこりごりだし。


「生存者は避難所へ行くようにと、領主から指示が出ているのだぞ」

「あの、それなんですけど──生存者って、どういうことですか? いったい、街に何があったっていうんです?」

「知らんのか」


 ボクは頷いた。昨日の夕方から意識を失って、さっき目を覚ましたばかりだもの。


「あきれたものだな。この状況が目に入らないとは」


 目には入っているよ──過程がわからないだけで。


「いいだろう、説明してやる」


 エルフは高慢な態度で言った。


「昨日の夕暮れ、街に突然大穴が開いたのだ。多くの家屋がまきこまれ、夕食の支度に使われていた火から火事となった。すべての火を消し止めたのは日が昇る頃だな」


 大穴──


 あの瓦礫と土砂はそういうことだったのか。っていうか、いったいどうして街に穴なんか開いたんだろう?


「街の人間は昨日から避難させ、愚か者が街に戻らぬよう門は閉めている。今は生存者の捜索と救助を……ん? そういえばハーフエルフよ、貴様はどうして何も知らないのだ? ここにいるということは、昨日の出来事は知っていて当然だろう」

「えっ。ええと、それは」


 困った。


 きっとカルが門を抜けて街に入ったんだろうけど……許可のない出入りは犯罪だし。何か言い訳をしないと。えっと、ええとお……。


「えっと──寝てて気づきませんでした」


 ──バカか。こんな言い訳で騙されるような人間がどこにいるっていうんだ。


「ふん、なんとものんきなことだな。よほどの高いびきだったのであろう」


 ──ここにいた。うそでしょ? えぇ……まあ、助かったけど……。


「さて、そのような事情であるから、さっさと顔を洗って門を出て避難所へ行くがよい。ここもいつまで安全かわからぬからな」

「あ、はい──あのう」

「なんだ」

「ところであなたは何者なんですか? どうして避難の指揮をとっているんです?」


 ボクが問いかけると、エルフは髪をかきあげて得意げに笑った。


「フッ。我が名はフィンデリオン。訳あって流浪の身だが、北の領地を治めている。平民を保護するのは、たとえこの身がどの地にあっても変わらぬ貴族の責務よ。ゆえにこの災禍にあって、この地の領主に協力を申し出たのだ」


 ……いい人、なのかな? 名前は長いし、キザったらしいけど。


「ではな、ハーフエルフの少女よ。寝ぼけて穴に落ちぬように、気を付けて歩め」

「──ッ!」


 ──だから、ボクは男だ!


 エルフが店から出て行くや否や、ボクは扉を叩きつけるように閉めてやった。

2021/12/31改稿

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