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カル&マクのどろり二人旅  作者: ブーブママ
第二章

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夕陽

 遠く夕陽の中に、外壁に囲まれた街の姿が見えていた。


 たった2晩離れていただけなのに、とても懐かしいような気がする。教会の尖塔に領主の館の天守。あの街の中にあるボクの家、タスカーさんの店に、今は一刻も早く辿りつきたくて仕方がない。


「オイ、せめて水ぐらい飲んだらどうだ」


 街道を行くボクの後ろからダークエルフが呼びかけてくる。けど、ボクは徹底的に無視した。とにかく、前へ足を動かす。


「その調子じゃ、急いだって到着は夜になるぜ。門もしまっちまうだろ」


 前へ、足を動かす。


「フラフラしてて見てらんねえっつてんだよ」

「──うるさいっ!」


 我慢できずに、怒鳴りつけた。するとダークエルフは、肩をすくめて黙り込む。


 こんな調子で、朝からずっと移動していた。朝食も摂ってない。いろんな感情でぐちゃぐちゃになって、食べる気にならなかった。とにかく早くコイツと別れたくて、ずっと歩いている。


 どうしてボクはこんなヤツのために仕事をしたんだろう? 2日前の、旅ができることに喜んでいたボクを殴りたい。もっと人を疑えと言ってやりたい。


 薬師のボクが、コイツの依頼を受けて現地まで薬を作りにいって……色々なことがあった。街を出るのは初めてで、魔物の姿を見たのも初めてだ。その間、ワクワクしなかったわけじゃないし、楽しいと思ったことだってあった。


 それが──


「シルヴィア、オマエもなんか言ってやれ」

『昨日の夜とのギャップに法力がグングン高まるわ!』


 ダークエルフの背負った弓から、無神経な女の声がする。


 伝説のような力を持った正体不明の、たぶん弓に封じられている──邪悪な存在だ。そうに違いない。


「あァ、わーった、オマエは黙っとけ」

『えぇー……』


 背後の悪意ある漫才を無視して、足を前に出す。


 もう少しだ。もう少しで、街にたどりつく。店に帰って、扉に鍵をかけて、2階のボクの部屋で寝るんだ。そうすればきっと忘れられる。明日からいつもの日常が帰ってくる──


 ──そんなボクの願いを打ち砕くかのように。


 ドンッ──


 聞いたことのない重い音がして、地面がぐらぐらと揺れた。


「なっ、な、なに!?」


 尻もちをついて、辺りを見渡す。日が落ちかけて暗い街道は、特に異変はなかった。


「街の方からだな」


 まだ揺れているというのに、平然と立つダークエルフが言う。


「街──」


 揺れがおさまるまで、ボクは街を見つめ続けた。夕陽の中にシルエットとなってして立つ、それは──


 ──急に。ぐしゃりと内側に向かって傾いた。そして、至る所から……煙が立ち始める。


「えっ……なっ、何が……」

「なんか燃えてるんだろ。火事か何か──って、オイ、待てよ!」


 ダークエルフの言葉を無視して、ボクは走り出していた。これまでとは違って、逃げるためじゃなく、行くために。


「あぐっ」


 ──そして転んだ。


「……っ……ぅぅ」


 朝からなにも食べずに歩き続けて、限界がきたらしい。足がガクガク震えて立ち上がれない。それでも腕をつかって前へ進もうともがいていると、後ろから胴を抱えて持ち上げられた。


「言わんこっちゃねーな」

「……は、離せよ……」


 もっと強く言うつもりだったし、振りほどくつもりだった。けれど、乾いた喉からは弱々しい言葉しか出ないし、体も動かない。


「うっせェな。黙って運ばれてろ」


 そう言ってダークエルフ──カルはすさまじいスピードで走り出した。馬なんかよりずっと速く。風が目も開けられないぐらい強く向かってくる。


 ……なんで、カルは街へ行くんだろう? 旅人なら……それもダークエウフなら、厄介ごとが起きてそうな街なんて見捨てて行くのが普通だろうに。


 そう考えたのを最後に、ボクは意識を失った。


 気力も体力も、いつの間にかとっくに限界をこえていたんだ。

2021/12/31改稿

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