蠍
口から蠍を吐き出したのは、あの日が初めてだった
喉の奥がもぞもぞして気持ちが悪かった
我慢できずに吐き出すと、それは蠍だった
ゾッとした
なぜ私はこれを口から吐き出せたのか
身に覚えはなく
ただただ気分が悪かった
病院に行ったが、異常はなかった
私はホッとした
何かの偶然なのであろう
そう思っていた
しかし私はこの日から度々口から蠍を吐くこととなる
その蠍は時に大きく色とりどりで、時に小さく黒かった
様々な蠍が私の口から出て行った
そして、ある日気づいてしまった
私の怒りは蠍となって口から出て行っていることを
私はその具現化した怒りで人を殺せることを
私はその日、レジを打っていた
理不尽なクレームは私の口から蠍を出した
今までは口から出た瞬間殺していた怒り
それをいま解放する
倒れた相手はぶくぶくと泡を吹いていた
それを私は見下していた
ただただ愉快であった