プロローグ
ある世界が危機に瀕していた。神々の永く果てし無い戦いの末、生命の源とも言えるマナが枯渇してしまったのだ。
神々は深く悔いたが、枯渇したマナは戻らない。遠からず全ての生命はマナ欠乏で死に絶えるだろう。それは神でさえ例外ではない。
最も偉大にして強大な最初の神、創造神アムハーブは悩んだ末、異世界への移住を決意した。隣り合う世界のどこか、マナが豊富な世界に移住させてもらおうと考えたのだ。
どの世界でもマナは貴重であり、大切にやり繰りされる。意味も無い内輪揉めでその貴重なマナを使い果たしてしまった愚かな神とその被造物達を受け入れる世界、創造神は無いだろうと思われた。
ところが見つかった。その世界はマナが豊富どころか、原初の創造以来、138億年もの間全くマナが使われていなかった。
なんと、その世界の創造神ミナザイはマナを全く使わない世界の構築に成功していたのである。マナが無いにも関わらず、その世界には生命が溢れていた。草木があり、動物がいて、二足歩行の知的生命すらいた。
神の目から見ても神業だった。どれほど緻密で繊細な創造が要求されたかを思うと、敬服する他無い。マナを使わない代償か魔法もミナザイ以外の神も存在しなかったが、それを差し引いても見事である。
アムハーブが伏して移住を打診すると、ミナザイはあっさり受け入れた。ミナザイは無気力で、自分の創造した世界に興味を持っていなかった。途轍も無い複雑性と華麗さを併せ持つ類を見ない世界をたった一柱で創造し終えた時、ミナザイの気力は使い果たされていたのだ。ミナザイはアムハーブに創造神の座を任せるとさえ言った。
流石にそれは固辞したアムハーブだが、好意に甘え、移住させて貰う事にした。移住先はミナザイの世界の中でも特にマナが濃い、天の川銀河太陽系第三惑星。
地球である。
アムハーブは最後の力を振り絞り、永い戦乱の果てに生き残った、数柱の神から植物の種までを含む7億の全生命を地球に送り込んだ。大量の世界間移動により力を使い果たし、アムハーブは消滅した。
アムハーブの愛し子達は、創造神の捨て身の献身の甲斐あってミナザイの世界への移動に成功したのだが、問題が発生した。
アムハーブの世界とミナザイの世界があまりにも違ったため、転送先に歪みが生じたのだ。アムハーブ世界の生命達は人気の無い場所に転送されるはずが、人の中に転送された。
つまり、人間にアムハーブ世界の生命が融合してしまったのだ。
地球は大混乱に陥った。
創造神ミナザイはその未曾有の事態すらもただ無気力に見ているだけである。
神の助けは無い。混乱の末に人類は、地球はどうなるのだろうか――――