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世界を渡る石  作者: 非常口
第2章 渡界2週目
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墓所の先に広がる遺跡(前)

 階段を下りて進もうとしたとき、ヘレナが立ち止まると呪文を唱えて明るい光の球を発現させる。それはあたかも白熱灯のように暖かい光を放っていた。一方の当夜は普通の冒険者の使う空間把握よりも優遇された性能によって真っ暗な中でさえ、構造的な面からその空間を知覚していた。

 そんな二人が最初に行きついた空間は祭壇を奥の中央に構えた8畳間ほどの空間であった。断面を取ってみれば正五角形で一番低いところでも3mはありそうである。

 突然、ヘレナが当夜に振り返る。彼女からすれば単純に当夜に今後のことを相談するつもりで振り返っただけだったが、相対する当夜からすれば全く別物に見える。


「うわぁ! ビビらせないでくださいよ。顔が怖いっす。」


「な、何ですか。私の顔のどこが怖いって言うのですか!」


 その不機嫌そうな顔が胸元から照らされることで顔の影が強調されている上に教職者の仕事着である白衣が余計に当夜の幼いころのお化け屋敷の幽霊のイメージを呼び覚ます。当夜はならばとヘレナの光球を取り上げると後ろを向く。そんな当夜の行動に不信感を抱きながらヘレナは明かりを取り戻そうする。


「もう、トーヤさん、私をこれ以上怒らせるなら容赦しませんよ。」


「...。」


 それでも反応の無い当夜にヘレナは不安を感じて当夜の肩を掴むと自分の方を向くように力を入れる。


「もう、いい加減しなさ、」


 ヘレナが最後まで言い終わる前に当夜がヘレナの力を利用して勢いよく振り返る。ヘレナの目前に現れたその顔は顎辺りに置かれた光源により不気味に照らされてまるで魔物の如く映りヘレナの心にトラウマを植え付けんとするかのように襲い掛かった。もちろん当夜にそこまでの意図はなく、脅かされた分をお返ししようとした悪戯心である。しかし、この世界の純真無垢な少女には少々刺激が強すぎたようだった。


「い、イヤ~~~~!!」


 甲高い少女の悲鳴が狭く石造りの部屋に反響して木霊す。その悲鳴がヘレナの恐怖心をさらに掻き立てて混乱の境地に彼女を誘う。ヘレナは恐怖の元凶たる当夜に殴り掛かる。


「ちょ、ちょっと、ぶふっ、待っ、ぎゃ、う゛ぁ!」


 あまりに苛烈な反応に当夜は思わず持っていた光球を手元から落とす。ヘレナは見えなくなった得体のしれない魔物(当夜)より転がる光源に目を奪われてその行きつた先にあるものに目を奪われた。そこにあったのは白く華奢な手であった。ただし、白いと言っても肌の白さではなく、骨としての白さであった。そう、そこにあったのは白骨死体であった。その正体をおぼろげに理解した時、ヘレナの心からの絶叫が再び響いた。


「きゃーーーー!!」


「ど、どうしたの?

 うぐぅ、ちょっ、苦し、いって。」


 そこへ気の持ち直した当夜が声をかける。ヘレナからすれば藁をもつかむ心地であっただろう。革鎧の下に着ている除魔の服の襟をつかむとぎゅうぎゅうと締め付ける。やがて、叫び疲れて冷静になってきたヘレナが手元を確認するとぐったりと落ちてしまった当夜の姿があった。


「え、えぇー! トーヤ君、大丈夫!?」


 今度はヘレナの前後に揺さぶる攻撃が当夜を襲う。強制的に覚醒させられた当夜は前後の記憶が定まらないままにヘレナを気遣う。だが、その気遣いはもっと早くに発揮されるべきであったのだが。


「えぇ。それよりヘレナさんは大丈夫ですか? い、いったい何があったんだ?」


「あぁ、よかった。気が付いたのですね。わかりません。ひょっとしたら何か危険な魔物が私たちを操ったのかも。ですが、そんな気配は感じられないのですが。」


「そんな魔物が...。一応、僕の空間把握にも引っかかりませんね。ひょっとして幽霊のし、」


「スト~プ! それ以上は駄目よ。それよりこの遺体は何者かしら?」


 ヘレナはおっかなびっくり転がる光球を拾い上げると遺体全体が映るように光源を高くする。そこに浮かび上がったのは階段傍の壁に寄り掛かるように座す一体の白骨死体であった。頭部の形状から人族であろうと思われるが、その骨は所々砕けており、相当な日数が経過していることが読み取れる。


「う~ん。結構前のものでしょうね。骨もだいぶ腐朽していますからね。ここができた時の人物、ひょっとして巫女の骨でしょうか?」


 当夜の問いにヘレナは腰を落として遺留品を探しながら答える。


「いえ、石碑の内容が事実ならこのように無造作に葬ることはないでしょう。おそらく、のちにこの墓所を訪れた者でしょう。たとえば、倒木で塞がれた時に封じされたとか。」


 ヘレナは応えながら先に進んでいく。当夜も付き従うようにその後を追おうとするが、足元に落ちていたものを蹴り飛ばしてしまう。その先で響くキーンと澄んだ音。おそらくただの物では無いと当夜の直感が告げており、その物を探し始めたが、当夜の空間把握では小さいものを探すにはちょっと難しい。すると奥を調べてきたヘレナが明かりを連れて戻ってきた。お陰様で目的の物を見つけることに成功した。


「どうしたの、当夜?」


「ああ、助かったよ。ほら、これ。」


 当夜が拾ったものは黒曜石でできているかのような漆黒の鍵であった。


「へ~。ひょっとしたら、あれに使えるかも。当夜、こっちに来て。」


「あ、ちょっと待って、ヘレナさん。僕にその光の魔法を教えてくれますか?」


「ああ、この【導く光】ね。もちろん構わないけど、トーヤさんは魔法の基礎は修得しているってことで大丈夫かな?」


「ええ。えっと、起句と結句、それから魔法名を唱えるということ、それからマナを効果範囲に展開すること、あとはイメージが大切ってことでしたっけ。」


「えぇ、その通りよ。起句は今回の場合は【光の精霊】様だから、“万物を照らす粒子と波動を生みし叡智たる者よ、我に応えよ”、ね。そして、結句は“我が道を照らす明かりを授けよ、そのための対価として我がマナを捧げます”、で良いわ。そして、最後に【導く光】と唱えるのよ。もちろん、この時にマナを手のひら大に広げるのを忘れないでね。

 才能の無い子でも努力し続ければできるようになる生活魔法だけど今すぐには難しいかしら。まぁ、才能のある子なら無詠唱で軽々発動できるみたいね。」


 両目を瞑って胸の位置で腕を組みながら片腕を上に挙げて力説するヘレナは片目を開くと試すような目線を当夜に送る。

 当夜は早速、詠唱を始めると蛍光灯や白熱電球をイメージする。すると、ヘレナの物と同様の光球が手元に生まれて周囲を照らしはじめた。ヘレナが例えた才能の無い形でも天才型でもなく、いわゆる一般人程度の出来で発動することができた。しかし、当夜にとっては自身の才能云々よりも地球上では起こりえない魔法と言う神秘に酔いしれていた。一方のヘレナも弟のような当夜の小さな成功に内心ガッツポーズして喜んでいたのだが、姉の尊厳を守るために平静を装ってみせた。もちろん実年齢的には当夜の方が圧倒的に上になるのだが、ヘレナに伝えたところで信じることは無いだろう。


 二人はヘレナの見つけたアレの前に立っていた。そこは祭壇の最上部にある石碑の裏の壁である。よく見れば中央に穴が開いており、それは漆黒の鍵がまさに入るにふさわしい大きさであった。当夜がさっそく穴に奥まで鍵を差し込むとカチリと音が響き、続いて重低音の物が引きずられる音が続き、扉が大きく口を開ける。二人が恐る恐る一歩踏み出すと一斉に通路の松明に火がともる。そこから広大な遺跡と言う名のダンジョンが広がっていた。


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