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世界を渡る石  作者: 非常口
第2章 渡界2週目
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臨時パーティ結成

「アリスさ~ん。そろそろご機嫌戻していただけませんでしょうか?」


「...。つーん!」


 ズンズンと効果音が出そうな勢いでアリスネルが当夜の前を歩いていく。


(これは相当機嫌を直すのに時間がかかりそうだな。まいったな。)

「さっきの泉での感じはすごく可愛かったのにな~。」


 アリスネルは一度止まると当夜に振り返ると睨み付ける。だが、その顔は赤く照れていることが丸わかりであった。それでも少女はすぐさま前に向き直ると進んでいく。その歩みは若干緩やかなものとなった。

 突然、アリスネルは立ち止まると屈みこみ、コリアンダーのような草を摘み取って当夜に見せる。もちろん、顔は向けずにその草の植わっていた場所を見つめたままだ。


「ほらっ。ラシュール草よ。」


 当夜はアリスネルからラシュール草を受け取る。


「ありがとう。これがラシュール草か。確か治療薬の材料になるだっけ?」


「まぁ、そうね。だけど、この品質じゃあせいぜい中級が限度かな。」


「アリスはそんなところまでわかるのか。すごいな。」


「ま、まぁ、このくらい当然よ。」


 アリスネルは当夜を横目でチラチラと見ながら何やら求めるような視線を投げかけてくる。当夜はアリスネルの頭をなでながらラシュール草をアイテムボックスに収納する。アリスネルは求めていたものと違うのかやや不貞腐れていたがそれでも最終的には気持ちよさそうに当夜に体を寄せていた。


 そんなアリスネルの安らぎの時間を奪うものが現れた。マッドゴーレムである。マッドゴーレムは、この森の浅部では最上位の魔物である。通常第6戦級のパーティで倒すことが推奨されている。それより下級の冒険者やパーティは逃走することが推奨されている。というのも動きが非常に鈍く健康な人間ならば10才くらいの子供でも逃げ切れるほどである。

 当の二人であるが、組んだとしても所詮第10戦級のパーティ扱いである。当然逃走すべきであるが二人とも逃げる様子は見られない。少女は自身の楽しみを邪魔されたことに腹を立てて魔力を高めて臨戦態勢となっているし、少年の方は肩を回して準備運動でもしているかのようでとても逃げ出す様子では無い。


「ちっ!」

(まったく、若い連中は無茶しやがる。)


 ベルドは舌打ちして二人の前に飛び出そうとする。ベルドの脳裏には二日前に収容された二人の若い男女の冒険者の惨たらしい姿が浮かんでいた。年長者たちが先の厄災で失われたこともあって功を焦る二人を止めるものが居なかったこともあるが、二人組を見送った門兵たちも強く引き止められなかったことに後悔めいたものを感じていたのだった。今度こそは殺させない、そんな強い意思の下で飛び出そうとしたのだが、肩を何者かに掴まれて動けなかった。


(くそ! 二人の監視に集中し過ぎたかっ!)


 気配すら感じさせないその存在に死すら覚悟して振り返る。そこにいたのは巨大な斧を片手で軽々と持ち上げるマタギのような恰好をした大男であった。


「静かに、トーヤは我らにすでに気づいているだろうがな。今の彼は力を求めている。そのための試練にしたんだろう。今は見守ろう。危なくなれば動くがな。」


「貴殿は一体?」


「俺はワゾル、トーヤとは妻の雇い主という関係にある。それより戦闘が始まるぞ。気を付けろ。」


 アリスネルの無詠唱の魔法がマッドゴーレムの頭部に炸裂する。風属性のエアハンマーである。相手は大きく後方にノックバックする。そこで当夜はゴーレムの後ろ足の可動部に剣を刺し込み、切り払う。当夜はそのままゴーレムが倒れるものと後方に大きく間を取るが、相手はまるで意に介した様子はない。そのまま間を取ったはずの当夜にゴーレムの長いリーチを誇る腕が迫る。ギリギリで回避する当夜であったが内心かなりの冷や汗をかいていた。【遅延する世界】の発動条件である当夜を一撃で死に追いやるほどの攻撃であることが満たされていないのだ。それでもここまでに戦ったあまりに巨大な強さを誇る者たちとの理不尽な戦いが当夜の地力を上げていた。当夜が敵の意識を引き付けている間にアリスネルが詠唱を終えて上級魔法を組み立て終わる。


「業炎の剣!」


 真っ赤な炎でできた剣がゴーレムを頭上から貫く。ゴーレムはボロボロと崩れ落ちながら活動を止める。


「ふう。どうにかアリスのおかげで勝てたな。ところで二人ともそろそろ出てきてください。」


 ワゾルが門兵と共に現れる。


「トーヤ、少しは腕を上げたみたいだな。アリス、中々良い魔法だった。」


「どうも。」「ありがとうございます!」


 そんな仲良さげな三人に仲間外れにされたベルドが声をかける。


「まったく、大した子供たちだな。まさかマッドゴーレムを倒しちまうとはな。それにトーヤは俺たちの気配がわかっていたって本当か?」


「ええ。空間把握には結構自信があるんで。貴方の気配は北門を出てすぐにマークしました。ワゾルさんは貴方を引き止める時に気配をようやく感じとれましたけどたぶん街からずっとつけられていたんだと思っています。どうですか?」


「まぁ、そのとおりだな。ライラが心配して頼み込んできてな。」


「はぁ~、ライラさんらしいね。それで、トーヤ、これで帰ることにする?」


「いや、お二人に声をかけたのは気になるものを見つけたからなんだ。ここから200歩ほど離れたところに変な地下空間があるみたいなんだ。それで、ギルドに報告する前に一度様子だけでも見ておくためにも戦力増進のためにお二人の助力を得ようと思いましてね。どうですか?」


「まぁ、残りのお二人が良いって言うなら私は構わないけどね。」


「そういうことなら俺は構わないぜ。あぁ、あと俺の名前はベルドってんだ。よろしくな。これでも一応第8騎士団の第3分隊長を張っている。」


 ベルドは当夜に右手を差し出して握手を求めてきたので当夜はそれに応えた。手を握る力は強く、手の平に分厚く残された豆の跡がお茶らけた雰囲気とは真逆の努力家であることを教えている。


「トーヤ、俺も構わないがギルドの意見を一度仰いだ方が良い。通信石は持っていないか?」


「では確認とってみます。」


 当夜が通信石に声をかけると返事が返ってくる。しかし、その声の主はヘーゼルではなかった。


「はいは~い。レイゼルちゃんですよ~。どうかしましたか~?」


「当夜です。えぇ、地下空間みたいなものを迷いの森の浅層で見つけたんですけど勝手に探索したらまずいですか?」


「んん~? 地下空間ですか~? 別に構わないと思いますけど~、怪我しないでくださいね~。」


「えっと、良いってことですね。わかりました。ヘーゼルさんにその旨伝えといてください。」


「はいはい~。気を付けてね~。」


 当夜は心配になりながらも通信を終える。ふと、周りに近寄って話を聞いていた三人は一様に不安げな色を浮かべていた。そして、当然のようにヘーゼルにこのことは伝わることは無かったのだった。

 ともかく、許可の下りた4人組は当夜の案内の下、地下空間の入り口のある場所に来ていた。そこには巨大な倒木が寝かされており入り口が見えない状態であった。ワゾルが巨木を斧で砕きながら入り口を開いていく。そこに現れたのは階段と地下へとつながる暗闇であった。

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