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世界を渡る石  作者: 非常口
第1章 渡界1周目
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暗躍する者達

 宝剣リアージュの修復に当夜とレゾールが取り組むと同じくして、隣国であるグエンダール帝国では、一つの会議が始まろうとしていた。

 円卓には18の席が並び、すでに10人が座っている。

 そこに新たに入ってくる一人の人影。その姿は窺い知れない。なぜなら、昼間だというのにこの部屋は陽の光が届かないように分厚いカーテンで外界から遮られているのだ。それは如何にも重要な会議であることを匂わせるが、ろうそくの明かりも無いのは些か不自然である。

 新たに加わった人物が最奥の席に腰かけると口を開く。響いたのは明るく軽い口調の男性の声だった。


「やぁ、みんな。これで全員かい。」


 その問いに最初に応えたのは重く荒っぽい口調の中に怒気をはらませる男の声だった。


「ペルンの奴がいねー。それと、グレムネルは東の動向を見に行ったきりだ。道化は音信不通、死んでりゃ良いが。ゾットは北で教会に討たれた。ヴァリエントはどっかで飯でも食ってんだろうな。」


 続くは、低音ながらに良く通る女性の声。


「そんなに怒るじゃないよ、ゲーペッド。ペルンは、どうせいつも通り人間の歓楽街に遊びに行っちまったんだろうさ。目立たれるとこちらの計画に支障を来すんだがね。道化は、古参の私たちですら正体が掴めないんだから気にするだけ無駄よ。あとは、マレスとフランベルか。まぁ、どっちも気分屋だから来ないわよ。さっさと始めなさいな、ターペレット。」


「そうだな、レントメリ。それでは、ゼブレル、西の様子を報告してくれ。」


 最後に入ってきたターペレットと称される男に促されて、ゼブレルと呼ばれた一人の男が語りだす。


「クラレスレシアは依然として政治・経済ともに安定しております。食料状況が良いためか民の不満も少ないことも特徴です。特記戦力ですが、ライトが未だ健在かどうかはわかりません。ですが、エレールは消えたとのことです。こちらはマナの動きから確かかと。ライトはエレールの弔いの旅に出たとの噂ですが、確認はできていません。試しに魔王の魔核の一部を埋め込んだフレアゴーレムを嗾けたのですが、」


「ほう!そりゃ、面白いことをする。今度ワシにもやり方を教えろや。」


「コルグ爺、ちょっと黙ってて!」


 高齢な老人が話に割り込むとその孫にあたりそうな年齢の子供の声が割り込んだ。話を切られる形となったゼブレルであるが、気に留めていないかのようにそのまま続きを進める。


「フィルネールという小娘に消されました。まぁ、宝剣は一本使い物にならなくなったみたいですが。」


「つまらん。欠片といってもどうせ爪の先程度のものだったのだろう。どうせだったらドラゴンにでも埋め込んで見ればよかろうに。それで、その小娘の力量はどれほどなのだ。」


 このフィルネールに関心を抱く長身の男が腕組みをしながら身を乗り出す。


「いえいえ、所詮、無限回復の無い魔王相手に相打ちぐらいが関の山でしょう。ドームレット殿が関心を持つほどの相手ではありませんよ。歓楽街に溺れるペルンであれば、遊び道具として興味を持つかもしれませんがね。」


「ちっ!ライトとやり合った時くらいに楽しい戦いができるかと期待したんだが。」


「良く言うよ。確か、片腕と下半身失ってようやく一発殴れただけのくせしてさ。」


 さきほど老人の声で入った横槍をはじいた子供の声と同じである。子供の声でありながら、内容はドームレットの過去の記憶の傷を抉る辛辣な一言であった。


「ぐっ!奴の強さは半端じゃねーんだよ。だが、あの一発であいつも山二つ分飛んでいったからな。トグメル、てめーも一度あいつとやり合ってみろってんだ。」


「えー。興味ないね。でもさ、その後すぐに戻ってきたライトに頭落とされたんでしょ。それでも逃げて来られるなんて、さすがドームレット、しぶといよね。アハハッ!」


「てっめー!」


「二人とも止めろ。」


 ターペレットが静かに声を発する。それだけで、場の空気が凍り付く。当の二人も下を向いて押し黙る。


「ライトの力は最上位の魔族ですら及ばないことは先の戦いでよくわかっている。まして、あいつが施した封印によって【星喰(ほしはみ)】から我らへの力の供給は途絶えたままだ。下位の魔人クラスでは教会の高位聖騎士たちですら脅威となっている。何としてもあの忌々しい封印を解かねばならない。

 そのためにもライトの動向はしっかり見定める必要がある。ゼブレル。これからも監視をしっかり頼む。」


「はっ!」


「では次に、南の報告を聞こうか。レントメリ、頼むよ。」


 そこから、いくつもの報告が次々となされていく。いずれも諸国の情勢と政治中枢の腐敗状況、住民感情、そして軍事力についてであった。会議が終わり、部屋を出ていく面々であったが、その姿は二足歩行をしているものの外観に明らかに人あらざる禍々しい一面が際立っていた。だが、次の瞬間、グエンダール帝国が誇る帝王、宰相、各機関の重鎮が威風堂々とそれぞれの役割の地へと歩みを進めるのであった。



 帝王による特務会議の開催から三日後、帝国首都のグエンから旅立とうとする一人の旅人に帝国軍の最上位将軍が声をかける。その隣にはローブを身にまとう老人の姿があった。


「おい!おまえ。ちょっとこちらに来い。」


「これは、これは将軍様。一介の旅人である私目に何かご用でしょうか?」


「良いからこちらに来い。」


 旅人は警戒も動揺もなくローブを着る老人に挟まれながら将軍の後についていく。

 人通りの無い城壁の影まで来ると、将軍は胸もとから親指ほどの赤黒い結晶を取り出す。


「ゼブレル。これでクラレスをもう一度襲ってみろ。依代はコルグが用意した。どうだ。」


「ドームレット殿、これはターペレット様の指示ですか?」


「いや、そうじゃない。だが、エレールが消えてライトが旅立った今なら魔王の魔核の有用性を確かめつつ、クラレスレシアに多大な被害を与えられる。さらに慌てて戻ってきた沈み気味のライトに少なからず煮え湯を飲ませられるかもしれん。それに、クラレスレシアには恐怖や憎しみと言った負の感情が不足している。【星喰】を押し上げるためにも必要なことだろ。」


「無理な相談ですね。これだけの大きさの魔王の魔核を使えば、魔人の存在を世に知らしめるようなものでしょう。封印解除の計画がライトに知られる恐れが高まります。」


「わかった、わかった。相変わらず、おんしは臆病な奴じゃの。じゃが、今後のことを考えると魔核の移植研究は進めるべきじゃ。どうやっているのかをワシに教えてくれ。ワシは作る方には自信があるが、埋め込む技能が乏しくてのう。」


「ご謙遜を。前魔王の誕生の8割はあなたのお力でしょう、コルグ様。」


 ゼブレルは魔法を唱えると一枚の羊皮紙を作り上げる。そこには魔王の魔核の埋め込み方や副作用、効果などが事細かに記されていた。

 コルグは受け取ったその紙を一通り読み進めるとドームレットに向かって頷く。

 次の瞬間、ゼブレルは自身の胸から突き出す剛腕とその先の手に握られる自身の魔核を目にすることとなる。


「なっ、なぜ!? ぐっぅ...がはっ!」


 ゼブレルは消えゆく意識の中で、狂気の色を目に浮かべた老人の賛辞の声と新たに生まれた魔人を捉えることとなる。

 

「悪いな、ゼブレル。まぁ、お前は「不安」の象徴。どうせすぐに生まれるさ。」


「す、すばらしい!かつての魔王は試験的に作ったキメラをベースとしていたために魔力が反発し合って全力の出せない頑丈だけが取り柄の失敗作になっていたが、今回は純正ゆえに反発がほとんど無い。これならこやつの能力を全て解放できる上に御しやすいぞ。これは、次回の魔王(おもちゃ)造りの良い指標になるわい。」


 そこには、魔王の魔核の一部を取り込んだ元デュラハンとゼブレルの魔核を取り込んだ元ワイバーンの姿があった。特にデュラハンから派生した存在においては災害級を超えて、災厄級の魔人に成り上がっていた。

 そんな二体を眺める二人に後ろから声がかかった。そこには真紅と漆黒の織り交ざった長い髪を鬱陶しそうに掻き上げる線の細い男の姿があった。


「おいおい。その話、俺にも噛ませろよ。」


「なんだ、ペルン。お前もこの実験に興味があるのか?」


「まさか。そんな意味わからんことに興味ねーよ。俺が気になっているのはトグメルから聞いたフィルネールとかいう女だ。なんでも中々の上玉みてえじゃねーか。そんだけ強けりゃーそう簡単に壊れねーだろ。この街の女どもはすぐ壊れちまうからつまんねーんだよ。あらゆる尊厳を踏みにじりながら拷問にかけて泣き叫ばせながら、最後に‘殺してください’って懇願させるあの瞬間が堪んねーんだわ。その女、どこまで耐えてくれっかなぁ。」


 狂気を浮かべる軽薄そうな男にあからさまに不快な表情を浮かべるドームレットであったが、突然、口角を釣り上げると一つの提案を投げかける。


「ペルン、それならこいつらを貸すからクラレスを落としてみないか。その女を手に入れるにしても周りの雑魚どもが邪魔だろう。面倒をこなしてくれると思うぞ。」


「あ゛あ゛!? んな面倒なことやりたかねーよ!

 俺は一人で楽しみてーんだ。いらねーよ、そんなおもちゃなんざ。

 ...待てよ、まぁ餌くらいにはなるか。いいぜ、預かってやるよ。だが、道中遊びながら行くからな。7日は結果が出ないと思っておけ。」


 そう言いながら指を鳴らして二体の魔物をどこかに収容すると、アロハシャツのような服を纏う遊び人風の男は帝都を後にした。

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