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世界を渡る石  作者: 非常口
第1章 渡界1周目
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鉱石採取

 テリスールとの買い物以来、アリスネルの機嫌は非常によろしくない。というのも、昨夜のこと、ライラが夕食の場でそのことを根掘り葉掘り聞きだしたことと、当夜が馬鹿正直にそれに答えてしまったためであろう。ライラとしては発破をかけたつもりであったが、『世界樹の目』としてさまざまな知識を持つとはいえ精神的には16歳の多感な少女には刺激が強すぎたようだった。

 かくして、翌日の朝、食卓にアリスネルの姿は無かった。

 当夜はアリスネルを案じて声をかけるもむしろ逆効果に働き、彼女は自身の部屋に引きこもってしまった。ライラに諭される形で当夜は家を後にする。


「ねぇ、アリス。トーヤ君には出ていってもらったよ。彼、あなたのことを本当に心配していたわ。ねぇ、ご飯だけでも食べてちょっと外を散歩していらっしゃい。少しは気分が良くなるはずよ。今日は家事はお休みにしましょう。昨夜はあなたの気持ちも考えないでごめんなさいね。食事、ここに置いておくわ。」


(わかっている。ライラさんが私の味方であることも、トーヤが悪くないことも。だけど、胸がざわついていらいらする。この気持ちは何なの?

 トーヤが好きかと言われれば好きだけど、かといってそれは恋愛感情じゃないと思う。

 はぁ、参っちゃうなぁ。私も子供じゃないんだからしっかりしないと。ライラさんの言う通りちょっと散歩してこようかな。そうだ。森で魔法の練習でしよう。)



 その頃、家を出た当夜は王宮を目指していた。昨日、思いついたフィルネールへのお礼のためだ。当然、当夜も場当たり的に訪問しても会うことはできないと理解しているので、まずは門番を通してアプローチを試みることにした。


「すみません。私は冒険者のトーヤ ミドリベと言う者です。フィルネール様に命をお救いいただいたお礼に謁見させていただきたのですが、どのような手続きを踏めばよろしいか教えていただけますでしょうか?」


「はあ? お前は馬鹿か? 近衛騎士団長様にお前のような者が謁見させてもらえるはずがなかろう。そうだな、お礼の品なら俺が預かっておいてやる。うまくいくとは言えんがな。」

(まぁ、上司に渡して取り次いでもらえりゃ御の字だな。期待させるわけにもいかんからな。)


「いえ、大したものではありませんので門番さんのお手を煩わせるつもりはありません。」

(門番程度では難しそうだな。仮に預けたとしても本当に渡してもらえるか怪しいものだな。)


「そうか。なら、さっさと出ていけ。」

(こんなガキの相手だなんて、門番ってのは面倒な仕事だぜ。俺だってフィルネール様のお顔を拝見してぇよ。)


「待ちなさい。少年。王宮に何か用かな?」

(ふ~。危ないところだった。危うく王室に負の感情を抱かせるところだった。この門番、あとで厳罰に処すとするか。いや、また別の門番に説明するのも話が大きくなる恐れがあるな。こいつにはトーヤ様の専属窓口になってもらうか。)


 そこに現れたのは、黒い紳士服の上に白衣を着たと表現すべき長身の初老の男性であった。


「これは、観測室長様。このような場所にいかがされましたか?」


「うむ。外に出る用事があってな。おや、貴方は。それで、こちらの方がどうされたのだ?」


「いえ、それがこの者、身の程知らずにもフィルネール様に謁見したいと申し出まして。」


「愚か者! こちらの方は特例貴族に席を置かれているのだぞ。貴様より身分ははるかに上だ。本来なら不敬罪に問いただしてやるところだ。」


「えぇっ! これは知らずにとんだご無礼を。ご容赦ください!」

(嘘だろ。こんなガキが特例貴族だと!? 俺はこのまま捕まっちまうのか?)


「確か、トーヤ君だったかな。私は王宮の観測室に名を連ねるもので、クレート・デクルニスと言う者だ。フィルネール殿に謁見したいのかね。だとしたら、3日後の7鐘に王宮の観測室で席を用意しよう。そうだな、案内人はそこの門番に頼むとしよう。構わないかね?」


「僕には異存ありません。是非ともお願いします。」


「私もまったく異存ありません。トーヤ様。私、ドータめが当日は誠心誠意ご案内いたします。」


「では、3日後の7鐘にお待ちしておるよ。」


(結局、あの紳士なオジサマは何者なのかな。まるで僕のことを良く知っているみたいだったけど。)


 状況をよく呑み込めないままにフィルネールとの謁見が設定されたことに一抹の不安を覚えながら当夜は王宮の門を後にした。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ギルドに9日ぶりに顔を出した。

 二大勢力によるギルド内の恋愛抗争は、主力であるゼレット子爵の3男の玉砕と受付嬢たちの一斉ボイコットをチラつかせたヘーゼルの作戦によって平和的に解決していた。

 というわけで、もはやトーヤの専属担当となっているテリスールが当夜の依頼の受諾を受け付けている。かくいうテリスールも昨日の二人きりの買い物を散々冷やかされてきたばかりであった。


 さて、今回当夜が選んだ依頼は鉱石採取である。この依頼であるが、特段魔物との接触は無いものの「きつい」・「ほこりっぽい」・「運しだい」と冒険者泣かせな依頼である。


  依頼者:鍛冶師レゾール(住所:クラレス南東街49-1)

  報酬:出来高

  期限:クラレスレシア509年 紫の月 29の日 8鐘 までに報告

  内容:街東のベレス鉱山にて、金属資源を回収すること。


「トーヤ、この依頼はお勧めできないよ。ピッケルも重いし、鉱脈に当たらなければ一日損するしで良いことないよ。本当に筋力に自信があるか、金の精霊や鍛冶の精霊に祝福された人が受けるような依頼だよ。」


 これまでと異なり、かなり言葉遣いが柔らかになったテリスールに苦言をいただきながらも頑なに譲らない当夜の姿に周りの受付嬢たちがニヤニヤしていた。


「ほら、テリス。夫婦喧嘩はそのあたりにしておきな。トーヤ君が受けたいってんだ。危険のある内容でもないんだしやらせてやんな。」


「ヘーゼルさん! な、何言っているんですか! まだそんな関係では無いですよ!」


「はいはい、ご馳走様でした。で、トーヤ君は何でそんな依頼を受けたいんだい?」


「いえ、依頼は正直、関心ないんですよ。ただ、レゾールさんから教えてもらったんですけど、鉱山に入るには鉱山の所有日数権を買うか、こうして依頼を受けるしかないと聞きまして。まぁ、レゾールさんからも許可を取りまして。」


「歯切れが悪いね。何がしたいんだい?」


「石を...、採りたいんです。」


「まぁ、そりゃ鉱山行ったら、石を採るのは当たり前でしょうが。」


「そうなんですが、個人的な採取をしたいといいますか。鉱石以外にも石を拾いたいんです!」


「「は?」」


 その後、散々二人に笑われながら許可をいただき、当夜は許可書を引っ提げて鉱山に向かったのである。

 鉱山はまさに山一つであり、平地沿いに大きな柵が囲われている。街からの道の突当りに門があり、そこを守る門兵や巡回兵が駐留する小屋が見当たった。


「こんにちは。今回、レゾールさんの依頼を受けて採取に来ました。冒険者のトーヤです。こちらが許可書です。ご確認ください。」


「ほう、どれどれ。よし。確認した。入っていいぞ。帰りに許可書を回収するから声をかけるように。どんな冒険者でも運が無ければボウスで帰ってくる。採れなくても気にするなよ。」


「ありがとうございます。」

(すでに採れないことが大前提の励ましありがとうございます。さ~て、何か良い石ないかな~。)


 先に進むと、当夜の予想と異なり、坑道を掘っての採掘で無く、山を切り開いて露天掘りのように掘り進めてあった。それも一か所を重点的でなく、まばらに思い思いに掘り返されていたのだった。ふと、脇をみると掘り出された石が山積みになっているズリを見つけて当夜は駆け寄った。そこにあったのは真っ白な石英が脈となり茶色の火山岩に挟まれた典型的な熱水鉱床であることを示す岩であった。さらに周りをみるといくつか小さな水晶が見られたが、いずれも水や空気を含んだせいか白く濁っていたのだった。


(う~ん。それほどのもは無いみたいだな。やっぱり、良いものは鉱石関係なく持ってかれているのかな。)


 念のため岩肌を見てみるも非常に固そうで持参したピッケルではとても歯がたたなそうである。

 仕方なく沢沿いに露頭を見て周る。

 ふと、沢底に無色透明な欠片が光るのを見つけて拾上げる。陽の光を強烈に反射させて煌めくその石には覚えがあった。


「この高い輝度、この重み、劈開の現れ方は間違いなくトパーズだ。ってことはこの沢の底をさらえば何かいいものがあるかも。」


 俄然やる気となった当夜は、アイテムボックスからレゾールに別注していたスコップに篩、桶を出すとひたすらに川底をさらいだす。3時間ほど夢中になってめぼしい石を選別する。異世界に来て鍛えられた体力は見た目からは考えられないほどの力を発揮する。いや、この場合は趣味の鉱物採取にリミッターが外れてしまったせいだろうか。こうして、気づけばトパーズ20個、煙水晶56個、錫石71個、手のひら大の謎の金属塊3つを手に入れた。謎の金属塊は一見すると銀のような金属であるがアルミニウムのように軽く、角度を変えると金剛光沢と金剛光沢を示す不思議な金属であった。


「これはすごいきれいだ。これって新鉱物なんじゃないか。おう、そうだ。鑑定、鑑定。」


 片メガネをかけてこの謎な金属の正体を見極めようとする。


【聖銀】650,000シース

 マナと銀が3:1の比率で構成されたきわめて稀少な鉱物。非常に軽く、固いため武具や防具に重宝される。加工するたびにマナの比率が減り、最終的にはただの銀になる。

 【金の精霊の加護】残量400 (加工によるマナの減少を抑える)


「何かすごいのきた~! これはレゾールさんに急ぎ報告だな。」


 門を出るとき、全身びしょ濡れな当夜に不審な目を向けた門番だったが、許可書を返却すると憐れみを湛えた目で‘そう言う日もある’と語り掛けてきた。そんなことを今の当夜には気にする余裕もなく上機嫌で急ぎ鍛冶屋『ローレンツ』を目指した。


 当夜が鍛冶屋『ローレンツ』に駆け込むと目を大きく見開いたレゾールが問いかけてきた。


「よう、早かったな。そんなに息切らせてどうした? 何か面白いものでも見つかったか?」


「はぁ、はぁ。いや、はぁ、こんなのが採れたんですけどどうですかね?」


 当夜は本日の採取品をおもむろに広げる。

 

「おう、こりゃ、硬水晶だな。こいつは、固いくせに割れやすくて非常に加工に面倒な石だな。こりゃハズレだ。これは灰水晶か。これも濁ってて評価は高くない石だな。この黒い石はただの石ころだ。まぁ、形は面白いよな。全部で6シースくらいか。まぁ、初めての採取だ。こんなもんさ、気にするな。」


(う~ん。こっちの人はこれらの石の価値が相当低いみたいだな。そういえばあの金属塊はアイテムボックスの中か。)

「そうですか。じゃあ、この金属はどうですか?」


「んん? おい! こいつは!? 聖銀じゃねーか! どうしたんだ、これ?」


「見てのとおり掘ってきたんですよ。で、どうです?」


「おめー、普通な、聖銀ってのはこれっ位の粒でしか見つからねーんだ。それをこの塊でとはどうやって見つけた? い、いや、その情報は大事に持っておけ。で、そいつを納めてくれるのか?」


「もちろんですよ。何たってレゾールさんのおかげで鉱山に入れたんですから、支払に問題なければ二つ納品しますよ。」


「おいおい、二つもあるのかよ。ぶったまげたな。もう一つは小さいのか。」


「いや、三つ同じくらいの大きさですよ。それと他の石は僕がいただきますね。」


「三つかよ。もう好きにしろ!」


「じゃ、二つで。」


「金貨1枚と大銀貨1枚までしか出せんがどうだ?」


「1,100,000シースですか。良いですよ。じゃあ、これがもう一つの聖銀の塊ですね。あと、こちらの依頼書に完了のハンコとお代をお願いします。」


「ふぃ~。助かるぜ。かなり安く吹っかけたから断られるかと思ったぜ。」


「そう言うことは口に出さない方が良いですよ。ところで、宝剣リアージュって剣をご存じですか?」


「おう、当然だ。まぁ、だいぶ傷んだって聞いてるぞ。それがどうした?」


「レゾールさんなら直せますか?」


「おう、無理だな!」


 レゾールは両手を腰に添えて小太りの体を反らす。


「そんな自信満々に言われても。じゃあ、この硬貨の力を併せても無理ですかね?」


 当夜は一円玉を見せながらレゾールの様子をうかがう。


「これでどうしろと? 確かに貴重な金属だとはわかるが。」


 だが、当夜の期待に反してレゾールは首を傾げる。


「う~ん。じゃあ、持ってみてください。それには【特異製錬】っていう金属の質を高める効果があるらしいんです。」


「ほぉう。どれどれ。う~ん、特にわからんな。まぁ、試してみればわかるかもしれんが、モノが無ければ確かめようがないな。」


「そうですか。もし、剣を持ってきたら試してもらえますか?」


「そうさな。持ってきたら試してやるよ。まぁ、持って来ること自体が無理な話だろうがな。」


 不敵な笑みを浮かべるレゾールであったが、三日後に冷や汗を浮かべることになるのだった。

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