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世界を渡る石  作者: 非常口
第1章 渡界1周目
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装備の購入

 当夜は、ギルドマスターであるギルスから注意を受けたとおり、お仕置きされた態を取っていた。とはいえ、演技力に定評の無い当夜にできることはしょんぼりした雰囲気で下を向きながらトボトボと出口に向かうだけである。そんな当夜に先輩冒険者から野次やら激励やら様々な言葉が贈られる。


「報告はしっかりしろよ!」

「だっせ~な! さっさと帰って寝てろ!」

「ガキが来るような場所じゃね~んだよ! わかったか!」

「あんたらなんて若いころはもっと情けなかったじゃないかい。調子に乗んな。」

「気にすんな! 次に活かせよ!」

「今度、詳しい話を聞かせてね!」

「次の依頼は声かけな!」


 そんな声に押されて戸を開けて外に出る。あんな中では依頼書を見ることは難しかった。


「ふー。緊張した。

 さぁて、レゾールさんとこに行かないと。

ん? 待てよ。ペールさんの上級薬の代金払ってないや。5,500シースだと、銀貨5枚と大銅貨50枚か。持ち合わせも細かいのが減っているから金貨を両替してから払いに行かないと。」


 とはいえ、北街に行くよりレゾールの店で買い物をして、細かくしていけば良いのではないかと思い悩む。


(前回の反省を顧みるなら、まずは武器と防具だけでも見繕うか。)


 急ぎ、鍛冶屋ローレンツに戻る。


「すみません。今戻りました。」


「おう!無事で何よりだ。で、なんか買っていくのか?」


 当夜の声に応えたレゾールは自身の作製した鎧の検査をしているようでその胴部を凝視している。


「ええ。僕に合うような武器と防具ってどんなでしょうか?」


 当夜は一礼して玄関をくぐる。


「あ~。問題なければおめぇの精霊と能力を言ってみろ。」


 自身の能力を教えるということは危険な行為でもある。ゆえに信頼した仲間や組織にしか伝えないというのが通例である。そういう意味ではレゾールと当夜の関係では当夜が開示する可能性は半々であるとレゾールは見ていた。仮に開示したとしても濁した形であろうと予測していた。


「はい。精霊は時空です。能力は、【空間把握】と、確か【遅延する世界】でしたか。」


「ほう。時空か、珍しいな。で、【遅延する世界】ってのなんだ?」


 かなりあっさりと開示したことにレゾールは驚きながらも能力については聞いたこともないものだったことから表現を濁してきたのだと納得もしていた。しかし、助言をしようにもさすがに情報量が少なすぎる。


「命の危機に曝されると発動するみたいですが、自分以外の時間が遅くなるんです。その間に僕は普通に動けるんですが、危機が去るとすぐ解除されるみたいなんですよ。」


 正直、当夜自身がこの能力を完全に把握しているわけではないので説明に窮するところである。


「ふ~む。まぁ、精霊的にあまり重い物はお勧めできんな。それと、その能力を活かすとしたら完全な回避カウンター型だな。まあ、無難なところではショートソードとナイフだろうな。防具は軽装だな。革鎧か魔法衣、せいぜい軽金属製の鎧だな。」


「なるほど。だけど、この【遅延する世界】は時間制限があって、登録証に出ている加護の数字の分だけしか使えないんですよ。ほら。ってあれ?数字が増えてる。」


 当夜が登録証を出して見せようと裏面に返すと、74から125に時空の精霊の加護が増加していた。


「んで。この数字だとどんくらいの時間発動できるんだ。」


「そうですね。今から手を打ちますが、そこから次の手を打つまでの時間ですね。行きますよ。」


 そう言って、手を打つとそこから125秒を心の中で数え始める。時間になり、当夜は再び手を叩く。


「この時間ですね。しかも、一度使った時間分の加護はその日の内に回復してくれません。」


「そいつはきついな。つまり、普段は危機的状況に陥らないように戦いながら、緊急時は回避カウンター型として戦う。そうなると、通常時は弓や投擲、緊急時は軽量剣となるか。おめぇは弓を使ったことがあるか?」


 レゾールは顎鬚を摩りながら問いかける。


「残念ながら無いです。選択肢があまり無いですね。」


「まぁ、その体つきじゃあな。もう少し大きくなれば話は別だ。もうちょい、体ができるまで待った方がいいかもしれんぞ。」


 レゾールが当夜の前身を観察して笑う。


「たぶん、これ以上の成長は見込めません。だとしたら、どちらかに絞った方が効率的かもしれませんね。剣の方がまだマシかな。」


「いやいや、おめぇはガキだろ。まだまだ成長するだろ。

 まぁ、一番軽量な組み合わせで一度確かめてみろや。

 んー。これか。あとは。

 ...あった、あった。これらだな。

 ほれ。」


 レゾールは、鍛冶台の裏に積まれた防具の山と剥き出しのままテーブルの上に置かれた剣の束を漁り始めた。これほど煩雑した中からほんのわずかな時間にして目的の物を見つけ出すのはやはり名匠のなせる技なのかと感心させられた。テーブルの上にレゾールが無造作に広げる。慌てて片メガネを付けて鑑定を始める。レゾールがかき集めてきたのは次の通りだった。


【ショートソード】13,000シース

 製作者レゾールが鍛えたショートソード。自称、レゾールの短剣。だが、ただの切れ味のよいショートソード。

 「鍛冶の精霊の加護」残量1,000


【レイピア】15,000シース

 製作者レゾールが鍛えたレイピア。自称、レゾールの細剣。だが、ただの切れ味のよいレイピア。

 「鍛冶の精霊の加護」残量1,200


【除魔の魔法衣】6,000シース

 製作者セラスが編んだ光の精霊の加護を受けた服。聖水に1年間漬けた糸を編んだ服。

 「光の精霊の加護」残量300

 「威光(弱)」闇属性の攻撃を僅かに軽減する。弱いが解毒効果も有する。


【革鎧】1,200シース

 製作者レゾールが手がけた革製鎧。自称、レゾールの鎧(革)。だが、ただの革鎧。

 「鍛冶の精霊の加護」残量600


【幸運の小手】90,000シース

 製作者レゾールが手がけた小手。自称、レゾールの小手。偶然生まれた傑作。

 「鍛冶の精霊の加護」残量200

 「幸運(微)」所有者の運をわずかに上げる。


 革鎧は予想以上に重い。その上、肩や腰が擦れて動きにくい。レイピアなど振るったことなどない。まだ、ショートソードという名の当夜にとってはロングソードと呼べる剣の方が振るっている姿をイメージしやすい。それすら純粋な鋼鉄の塊であって長時間使うには重すぎる。そもそも子供用の防具・武器などなく、小人族の装備を代用している状況だ。それでも現代っ子の当夜には無用な品であったのは確かだ。

 つまるところ、当夜に許された装備は法衣、ショートソード、小手くらいだろうか。


「これ、ちなみに全部でおいくらですか?」


 当夜はその三点を指し示しながら値段を問う。


「そうだな。55,000シースってところだな。まぁ、おめぇには借りもあるしな。50,000でいいぞ。」


 ざっくりとした計算と頼んでもいないのに盛大なる値引き。計算事の苦手なレゾールらしいサービスという名のものぐさが始まった。


「え? 安すぎじゃない? ちなみにこの小手、いくらですか?」

(おかしいでしょ。小手だけでもその値段以上なんだけど。)


「おお!いいところに目を付けたな。こいつは傑作だ。30,000の値を付けている。ちょっと高いが良い出来だぞ。まぁ、それとは別に武器はいくつか小物を持っておいた方が良いぞ。解体用の小刀とかな。」


 ドワーフであるレゾールは作ることにこそ素晴らしい才覚を発揮しているが、商売については明らかに向いていないと思われる。鍛冶に才能を全振りなのだ。


(やっぱり、こいつかー。レゾールさん、自分の商品の価値がよくわかってないんじゃないかな。)

「わかりました。あと、そこに飾ってあるナイフを3本買っていいですか。何だかとっても惹かれてしまいまして。」


 そこに飾られていたのは、3本の同じような形のナイフであった。それぞれを鑑定した時に思わずのどが鳴ってしまった。


【解体ナイフ】10,000シース

 製作者レゾールが鍛えたナイフ。自称、レゾールのナイフ。解体に有能な造りを持つ。

 「鍛冶の精霊の加護」残量1,000

 「解体支援」解体時に素材の質を高める


【貫きの小刀】12,000シース

 製作者レゾールが鍛えたナイフ。自称、レゾールのナイフ。貫通力に優れる。

 「鍛冶の精霊の加護」残量1,000

 「貫通」投擲者の力量によるが貫通力が高まる


【力の小刀】12,000シース

 製作者レゾールが鍛えたナイフ。自称、レゾールのナイフ。所有者の力を上げる。

 「鍛冶の精霊の加護」残量1,000

 「増強(弱)」火の精霊の加護の残滓を受け、わずかながら筋力の強化がなされる


「おう、おう。やっぱ、おめぇは良い目をしていやがる。そいつらも傑作よぅ! よし、そいつら合わせて65,000で良いぞ!」


「ありがとうございます! 金貨でも大丈夫ですか?」

(てか、安すぎて転売されなきゃいいけど。)


 当夜の心配も尤もであるが、普段はレゾールの気分屋の性格に加えて冒険者の勝気な性格への反発心から売値がむしろ高騰する場合が多いのでその点は無用な心配だったりする。


「ほう。金貨なんて持っているのか。どれ。

 ―――確かに本物だ。待ってな。

 ほれ、大銀貨9枚、・・・中銀貨3枚、・・・小銀貨5枚だ。無くすなよ。」


 秤に乗せたり、水に浸けたりと金貨の確認をしたレゾールは不用心にしまわれた古びた金庫を取り出して大小大きさの異なる銀貨を不慣れな手つきで数えて当夜に渡す。


「あれ?銀貨って3種類もあったんですね。」


 当夜は三種類の銀貨を一枚ずつ拾い出すと手のひらでまじまじと見つめる。よく見れば模様が確かに異なる。最大サイズのそれには女性の上半身の姿、中サイズのそれには木の姿、小銀貨には青年の姿だがそれはこの世界基準では子供と言うべきなのだろう。


「何言ってんだ。まあ、普通は小銀貨が主流だから銀貨って略しているが、3種類あるのは常識だろ。とにかく、装備は点検整備が重要だ。安くしてやるから使ったら必ず見せに来い。いいな。あとは微調整やサイズ合わせがあるから、全部預かるぞ。3日後にでも来い。ついでに武器のホルダーもつけてやるよ。」


 呆れながらも当夜のために様々な便宜を図るレゾールにはどうやら無知ながらも彼にきちんと敬意を払う当夜の姿勢が好ましく映るようだ。


「はい、お願いします! では、3日後に。」


「ああ、気を付けてな。」

(まったく、今日は気分が良いぜ。こんなに俺の品を褒められたのは久々だ。今日はうまい酒が飲めそうだ。)


 二人はお互いに満足した顔であったが、どちらが得をしたのかはあえて言うべきものではないのだろう。価値観とは必ずしも実物的な、あるいは金銭的な面だけで満たされるものではないのだから。

2017/07/31更新

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