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世界を渡る石  作者: 非常口
第1章 渡界1周目
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石に連れられて異世界

 とある一室。豊かな調度品に囲まれたその空間は少しばかり現代的では無いことは確かだ。いわば電源コードと呼ばれるものが全く見当たらない。また、明かりと呼ばれるものが全く見えないが大きめな窓から注ぐ日差しが部屋全体を見渡すに十分な光源となっている。だが、粗方見渡してみても全く覚えのない光景にぽつんと立ち尽くす成年は思う。


(どうしてこうなった。)


 彼、当夜は、少し前の記憶を掘り起してこの事態を説明する画期的な一案をまとめるのに必死であった。


(ここに来る前に何をしてたんだっけ?

 ああ、そうだ、家で横浜の赤レンガ倉庫のミネラルショーで手に入れた戦利品を並べて、それから知らないうちに紛れ込んだ【あの石】を見つけて、箱から取り出して。あぁ、そうだ。落としたんだ。【あの石】を落としたときに光に包まれて...、ここに? ってことはやっぱり【あの石】に原因があるんじゃないか?)



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ときは、3時間ほど前の横浜赤レンガ倉庫での当夜のお楽しみタイムまで遡る。

 当夜は、自然好きの祖父の影響を受け、野草、昆虫、鉱物の収集を趣味としていたが、なかでも鉱物収集は度が過ぎるといわれるほどであった。

 そんな当夜が、【あの石】に出会ったのは横浜で定期的に開かれるミネラルショーの際であった。その日、帰宅して手提げバックから戦利品を意気揚々と取り出して並べると一点一点の観察に入ろうとすべての梱包物を開封していた。そのときに当夜は身に覚えのない箱があることに気付いた。

 誰かと接触したことは幾度かあったが、その時のものかととりあえず中身を確認することにした。今からではお返しすることも叶うまい。できれば大したものでないことを祈りつつ箱を開けるとそこには親指の爪ほどの紅く煌めくピラミッドを重ね合わせた八面体の宝石が入っていた。警察へのお届け物かと心配になる反面、何の鉱物か気になりだす当夜。


(スピネルかロードクロサイトか、ひょっとしてレッドダイヤモンドだったりして、なーんてね。まぁ、色ガラスあたりが関の山かな。)


 先ほどまでの心配事はどうしたと突っ込みたくなるようなマニアックな思考に陥っていた。


 そして、当夜は、【あの石】を観察するため手に取って目に近づけた。すると、なぜかほんの一瞬ではあったが、意識を失ったかのように指から落としてしまう。落ちた石が床にあたる瞬間までがスローモーションのように流れ、落ちたまさにその瞬間に光に包まれてこの現状に至ったのである。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「それで、ここはどこだ?自室でも家でもないよな。まったく見覚えがない部屋だ。まぁ、原因は、【あの石】だよな。落下による衝撃が鍵となって【あの石】の何らかの効力が発揮されてどこかに移動したとか...。いやいや、何を納得しようとしてんだよ。常識的にあり得ないって。」


 独り言をもらす当夜。その声を拾ってか、はたまた他用か何者かが部屋へ近づいてきた。


「*******、*******」


 よく聞き取れない言語とともに女性の声が聞こえた。


(人?何語だ?日本語ではないみたいだな。とりあえず、身を隠して様子をうかがおう。言葉はわからなかったけど、声質は女性のようだし、いきなり襲われたとしても大丈夫だと思うけど。状況もわからないから敵は作らない方が良いだろう。味方かもわからない中で誰かを呼ばれるのも怖いし。っていうか僕、不審者じゃん。)


 とりあえず、物陰から扉を凝視し続けると扉が開き、小柄の老婆が覗き込んできた。当夜は、一瞬、違和感を感じ取ったが、人間として認識できる相手に安堵した。どうやら欧州や北米の人種のようである。さて、とりあえず拙い英語で話しかけるかと決意したものの最初に感じた違和感に目を凝らすと耳がとがっていることに気づいた。


(おいおい、人類史上最長、ギネス記録に載るくらい耳がとがっていらっしゃるよ。いくら海外に疎い僕でもこれはおかしいってわかるよ。これはもうちょい様子見だな。)


「********、*****、******」


 老婆は何度か声を発したが、そのまま扉を閉めて立ち去って行った。


(ふー。やれやれ、なんとかやり過ごしたか。まずは情報収集だな。本があるようだし、少しくらいはどこの国かの見当がつくぐらいの手がかりぐらいあるだろ。)




  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




「まるで読めん。」


(見たこともない文字だな。こっちは図鑑みたいだな。こんなに分厚くて細かく書いてあるんだけど、全部手書きだし。子供にしては絵がうまいし。印刷技術がどこにも見られん。どうゆうことだ。まさかほんとに異世界なんてことはないよね。)


 分厚い本を手にとっては見て戻すといった作業繰り返すこと十数回。文字は判読できず、印刷物が一切ないことに当夜は焦りを感じていた。そして、ついにこの世界の地図を見つけたのだ。


(なんだこの図面は?ん??地図のような気もするが、ずいぶん世界地図と違うな。え!?)


 その図面は色彩豊かに描かれ、まさに海と陸地を現したものであった。何よりそこには東西南北を示す記号が記されていたのである。


「これは!」


(初めてわかるものがあった時の感動はすげー。でも、いくらなんでもこれは地球の世界地図には見えないな。そういえばこの部屋はやたら古風な雰囲気だし、空想上の世界でも書いている小説家さんの部屋かな。)


 それにしても異世界ならば記号が一致するなど偶然起こることではない。


(いったいここはどこなんだー!)


 当夜の心の声が見知らぬ部屋に響いた気がした。

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