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世界を渡る石  作者: 非常口
第8章 幕間
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変わる未来

「ち、父上が2人? いや、影武者か?」


 王に影武者が付くというのはよく聞く。しかし、瓜二つすぎる。双子でもこうはならないだろう。魔法にしても鮮明過ぎる。


「うーん、少し違うかな。どちらも国王として君たちの前に幾度も出ているし、国事の決定もしている。そう言う意味ではどちらも王だ。だけど、父親としてなら確かに彼の方が正解だね。」


 秘書官から王に化けた当夜が幻惑の目を解いて本来の姿に戻る。


「【深き森人】か。大した魔法だ。」


 【深き森人】は魔法に秀でた一族であるがこれほどとはとライナーは戦慄を覚える。


「ライナーよ。そのお方は初代国王様の時代からこの国のかじ取りを担っていただいている。いわばこの国の父だ。」


「初代国王様って、いや、どれほどの年月なると思っているのですか。そんなの長命種であっても、」


 笑いながら冗談と切り捨てようとしたライナーだったが父の表情に固まる。


(い、いつの話だと思っているのだ、父上は。初代といえば賢者と言われたおとぎ話の世界の人物だぞ。)


「…」


 無言の間ほど恐ろしいものはない。どうやら国王はライナーが認めない限り先に話を進めるつもりは無いようだった。ライナーはその事実を受け入れるしかなかった。


「か、仮に事実だったとして、どうしてそんな大事なことを俺なんかに?」


「そのお方がお前を見込んだのだ。」


「俺を?」


 父親ともう一人の国王の表情を交互に見比べる。だが、年季の違いか双方から得られる情報は全く無かった。


「お前は賢い子だ。おそらくはわしがお前を捨ててあのどうしようもない長兄を継承者に据えると思い違いするだろうと思ってな。そうなっては、せっかく見込まれたお前の立場を揺らがせてしまうかもしれんからのう。」


「それは、どういうことですか?」


 父親は兄を次期国王に据えるつもりは無いということはわかった。その他の兄弟の顔が次々と浮かんでは消えていく。だが、そのいずれもが性格や年齢に支障がある。正直なところ自身がつなぎ役でも良いので引き受けたいほどだ。そこまで来て一つの可能性に至る。


(いや、まさか…そんなはずがない。)


「まぁ、親バカだからなぁ、君も。すまないね、ライナー、くん。君の困惑はよくわかるよ。今回の件はレゼルダスが君を買っている証拠だ。そんなに深く考えずにこなしてほしい。何と言っても彼はまだまだ元気だからね。息子をこうやっておちょくっているくらいだ。」


 ライナーの不安を感じとった当夜は安心させるべく冗談めかす。


「ははは。まったくです。」


 苦笑いを浮かべるライナー。そんな彼に更なる追い打ちをかけようとする父親を制すように視線を動かす当夜。さすがのレゼルダスも押し黙る。咳払いした当夜が続ける。


「さて、もう一人の国王として君に命を与えるとしよう。」


 威厳を感じさせる声。


「はっ」


 応えるライナーのそれも力強い決意のこもったものとなる。


「この世界の人々の想い出の品を借りてきてほしい。」


「は?」


 間の抜けた返事が張り詰めた空気の玉座の間に響く。


「この世界の人々の想い出の品を借りてきてほしい。」


「い、いえ、聞こえていました。聞こえていましたが、いったいどういう意味なのか解らず…お、想い出の品ですか?」


 レゼルダスの押し殺した笑いが小さく響く。頬と眉間を引き攣らせた当夜が続ける。


「そう。それもできるだけ温かみのある想い出の寄せられた品が良いんだ。」


 当夜はテリスールを守った両親の形見である指輪を見せる。


「は、はぁ…」


 自身と全く関係の無い指輪を見せられ、その上、当夜の言うことも唐突となればライナーには到底理解などできるはずもない。


「いや、凄く難しいことだと思うよ。何せ身から離したくないようなものばかりだと思うからね。」


「そりゃ、そうでしょう。ですが、それなら各国の命で十分集められると思うのですが。」


 それぞれの国に国書でそのような依頼を出せば一部の国を除いてそれほど抵抗なく受け入れてもらえるのではないかとライナーは思案する。もちろんそれ相応の対価は払うことになるが。


「できれば強引に回収したくない。想いが曇るからね。」


 国王の信頼厚い部下であっても結果は好ましいものではなかった。これが一般大衆であればなおのことだろう。


「はぁ。そうなりますと丁寧な説明が必要でしょう。その理由はいかなるものですか?」


 ライナーであっても自国の民であればともかく他国の民までもとなれば最もな理由が必要となる。


「まぁ、端的に言うと世界を救うため。」


「は? いやいや、何言ってんだ。っ、お、大きく出たものです。正直、意味が解りません。そのような理由では民も同じでしょう。」


 ライナーが頭を振って更なる説明を求める。その言葉を待っていた当夜はクスリと笑いながらライナーの脇に転移するとその肩を叩く。


「だろうね。それじゃあ、お互いの認識を合わせようじゃないか。」



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「そんなことが…」


 当夜からの説明を受けたライナーが呆然とつぶやく。


「まぁ、ディートゲルムの復活はあまり脅威ではないと見込んでいるんだけどね。」


 当夜はテーブルの上のぶどうのような果物を一粒もぎ取るとライナーに放り投げる。ライナーはどうにか反応するとお手玉をしながら寄越された果物を受け取る。


「い、いや、とんでもない脅威です。かの、ライト様を以てしても封印を強めることしかできない相手なのですよ!?」


 机の上に果物を置こうとするライナーに当夜は食べるように身振りして見せる。一粒丸吞みにしたライナーを確認すると再び話を進める。


「まぁ、そうだね。だけど問題は彼の強さではないんだ。問題は彼の在り方。彼は不幸を故意に生み出す。瘴気を生み出すことに長けていることが問題なんだよ。」


「なるほど、瘴気が人を魔物や魔人に変えるほどの業を宿しているのであれば確かにより危険です。そうなると対抗策は瘴気の対なる聖気となるのも頷けます。その材料が人々の想いということですね。」


 物を身に取り込むことで少しばかり落ち着きを得たライナーが腕を組んで頷く。


「そういうこと。」

(本当に怖いのは自らの敗北を理解した時にどのような爆弾になるかということなんだけどね。)


「そうなると人々への説得方法を考えないといけないな。

物は各人に返すことはできると考えてよろしいでしょうか?」


 独り言の後に確認をするライナーに当夜が懐かしさを覚えてほほ笑む。


「もちろん返すよ。それはそうとその語尾どうにかならない?」


 当夜は二人になって以来かなりフレンドリーに話をしているがライナーは一向に言葉遣いを本来のものにする様子がない。逆に言えば彼の地の出た独り言を拾わなければこのまま変わることは無かっただろう。


「は?」


 正直、ライナーにしてもどうして国の父と称される人物が自身にやたらと親し気に話しかけてくることに違和感を覚えていたがこうも直接的に言われるとは思っても見なかった。


「いや、むず痒いんだよね。もっと本来のライナーらしくしてほしいんだけど。」


「はぁ? い、いや、しかし、だな…わかった。俺もこっちの方が楽で良いんだが、良いのか?」


 当夜の期待を込めた視線に苦笑しながらライナーは言葉遣いを使い慣れたそれに戻す。


「そう、それだよ。本当は君にはこれらのことは伏せておくべきかと思っていたんだけどね。」


 当夜は一つ手を打つと機嫌よさげに笑う。


「どうして俺をそんなに買う?」


 当夜を訝しげににらむライナー。そんな態度ですら当夜には嬉しく思える。


「う~ん。なんでだろうね。やっぱり君を見てきたからかな。」


「まぁ、確かにあんたなら俺たちをずっと見てこられただろうさ。だがな、今回の話を聞いて心変わりするかもしれないぞ。俺たちを騙してきたってな。」


 ライナーの中では父親に変装して観察されてきたという形に変換される。


「ははは。それを心に伏せていたならそうかもしれないね。でも、君は忠告してくれた。君はやっぱりライナーだよ。」


「ふん。まぁ、いいさ。忠告はした。確かに我儘を通していられる状況でもないしな。やれるだけのことはやってみせよう。」


 照れ隠しのように悪態をついてみせるも相手に見透かされているようで何とも体裁の悪いライナー。


「期待しているよ。」


 笑顔を心からの言葉を伝える。

血が減って免疫落ちてヘルペスが出やすくてしょうがない...

マスクで隠せるけど今度はソバカスが...

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