作戦会議
「準備は整ったかい?」
フィルネールが先に立ち寄ったドワーフの鍛冶屋で武具の手入れを終え、20本ものしびれ薬を塗布したナイフを購入した当夜が集まった者たちに声をかけるべくライナーとレムに視線を向ける。
「俺たちは大丈夫だ。そっちは?」
ライナーがその指に填められた指輪を大事そうに反対の手の指で愛でるレムに目線を落とすと小さく咳払いして当夜の視線に応えるように力強く頷く。そして、その最終確認のバトンを隣のレーテルに渡す。もちろん、それは王国とのやり取りの報告を期待してのものである。
「こちらも大丈夫です。ライナー様、国王様からご伝言です。『思うように進むが良い。こちらに何があっても振り返るでない。』とのことです。」
(まさか全世界的に魔物、いえ魔王級の化け物が出現しているなど伝えられる話では無いです。クラレスレシアでは今のところ心配ないとのことですが。まさか魔人に助けられただなんて。)
テーブルの上に数多くの治療薬や魔道具を並べるレーテルは一枚のメモを取り出して読み上げる。しかし、読み上げたものは実際に送られてきた情報量の一部に過ぎない。彼女のポケットに忍ばされたメモにこそすべてが記載されている。そこに記されている事実は到底この世界に住まう者には認められるものでは無かった。
クラレスレシアの辺境では四方を取り囲むように魔王級の魔獣が湧き出るように出現したとの報告が上がり、再編成された騎士団と冒険者が向かったのだが両者の士気は低かった。かつての惨劇を想えば当然のことといえよう。まして、戦いに向かう者たちを癒す者たちがいないのだ。今回の戦いには先の戦いの中で先陣を切った法国が一切声を上げていないのだ。本国からの指示の無い教会や神殿内でもどうすべきか結論の出ない不毛な討論が続いていた。辺境の村々から順に消滅していく中、王都出立から3日目にして両者は相対することとなる。そのときだった。王都では迷いの森から信じられない報告が入る。迷いの森から魔王級の魔獣が現れたとの報告だった。王は近衛騎士団を引き連れて国民の避難のための時間稼ぎの戦いに赴くこととなる。すべてを今は国を離れている後継者に委ねて。
いくつもの国が総力を合わせてすら倒せなかった魔王という存在と同格の魔物は一国の騎士団や冒険者では到底相手になる存在では無かった。ものの数時間とせずにクラレスレシア王国軍は壊滅状態となる。そして、この事態はすべての国において同様に広がる全世界的な悪夢であった。世界が負の感情に塗りつぶされるのも時間の問題となっていた。
そのような危機に世界が陥る中、各国は更なる恐怖に襲われる。それは魔人が相次いで現れたというものだった。だれもが絶望に崩れる中で耳を疑う知らせが駆け抜ける。魔人が魔王を掃討しているというのだ。それも各国の生存者を守りながら、騎士団や冒険者と手を取りながらというおまけつきだ。クラレスレシア王国に現れた魔人は黒マントをはためかせ王を亡き者にしようとする魔獣の鎌をいとも容易く受け止めると瞬く間に6本の肢を叩きつぶしてしまう。フードを捲ったその魔人は金緑色の瞳を煌めかせると強大な魔獣と戦闘を行った直後にも関わらず暇そうに大きく欠伸をする。そこに居たのはクラレスの万年閉店の魔道具屋の店主、フランベルであった。
この後、髪を乱雑に掻くフランベルが僅か7日で領内の魔獣を掃討したとのことであった。もちろん国は大きく乱れて少しでも有能な人材は確保したい状況であるにも関わらず王は決してライナーらに戻るように指示を出すことはなかった。
王国の復興に助力できない歯がゆさに唇を震わせるレーテルは自らの震える声に気づいて顔を伏せる。ライナーは目を閉じると王に感謝を想うと同時にレーテルの隠し事の責を自らの父に押し付ける。
「そうか。父上は隠し事が相変わらず下手だな。」
「そやな。せやけど今は振り返っている余裕は無いで。どのみち戻るにしても遠すぎるもん。」
レムがライナーに抱き付くとその耳にささやく。
「ああ。俺もそこまで馬鹿では無い。トーヤたちはどうだ?」
「ん、ああ、確保できたよ。ライラさんは...、どう、ですか?」
ライナーとレーテルのやり取りにどこか只ならぬものを感じとった当夜も目を瞑り事態を推測しようと試みるがあまりの情報不足に諦めて最後の一組に準備の完了状況を確認する。開いた目に橙色の瞳がぶつかる。普段通りに尋ねたつもりだったが声が詰まってしまう。言葉遣いもどことなく余所余所しい。
「———そんな他人行儀はやめてちょうだい。言っておくけど私は今でもトーヤのお母さん兼使用人よ。」
ライラが手をテーブルにたたきつけて悲愴な表情で当夜に向かって体を乗り出す。当夜が顔をわずかに逸らす。
「えぇ。そう、ですね。」
「...そうよ。」
(やっぱりそう簡単な話じゃないわよね。)
「こちらも準備完了よ。さぁ、それぞれ準備は完了したようだし、作戦の確認に入りましょう。トーヤの考えは?」
当夜の顔に向けて差し出した手をライラが名残惜しそうに戻す。ワゾルが心配そうに2人の様子を眺める。
当夜は宿屋にある黒板に滑石で絵を描きながら作戦を説明していく。その脳裏には子供たちやアリーシアとの約束が蘇る。
「そうだね。木々を盾に遠距離から狙撃して電撃戦を仕掛ける、といいたいところだけど、時間もないし、何より相手の数が多すぎる。それに傷つけられない相手だということもあって迂闊に手を出せない。となれば無傷で無力化しながら世界樹まで近づく手を考えないとならないわけだ。」
「無理だな。犠牲が出るのはあきらめろ。でないとお前が死ぬぞ。」
ライナーが瞑目しながら声を低く落としながら当夜に忠告する。
「普通に考えたらそうだよね。そこでなんだけど僕の新技の披露となるわけさ。」
当夜がわざとらしく人差し指を立てて見せる。
「新技ってなんや恰好良いやん。」
レムがその指に飛びつく。その光景に頬を緩めながらライラが問う。
「具体的には?」
「酸欠ならぬマナ欠さ。」
「酸欠? マナ欠?」
レムが掴んでいた当夜の人差し指を離してキョトンとつぶやく。
「そう。この間披露した【暴食】を使う。魔法の発動範囲を絞るためにも空間魔法で村人が居る範囲すべてを覆った上でね。これで大半は戦闘不能になるはずだ。」
「そのようなことして囚われている村人は大丈夫なのですか? あの時の魔法であれば限定的に使ったとしてもその空間丸ごと滅してしまうのではないでしょうか? それどころか制御不能で世界を滅ぼすのでは?」
フィルネールの頭にかつての恐怖が蘇る。それは魔法自体の威力だけを評価したものではなく当夜に生じる人の命の重みという責任を心配してのものだった。
「一応制御できるようになったという自信はあるよ。それに強行突破は向こうもそうだけどこちらにも被害が出る可能性が高い。僕は、見ず知らずの人達よりも身近な人の方が大切なんだ。僕の力は小さいから...、」
当夜がミニチュア版の【暴食】を生み出す。ライナーとレムが大きく飛び退く。ほかの者も飛び退くまではいかないものの各々席を立つなどアクションをとる。その目は恐怖に揺れている。だが、そこから一切の変化が無い【暴食】にようやく皆が席に戻る。そのような中、まったく動く様子の無かったライラとワゾルが落ち着いた声でやり取りをする。
「大丈夫よ。トーヤならできるわ。失敗したって私たちがフォローするわよ。ねっ、アナタ?」
「もちろんだ。」
「ふう。一応ですがこの私が禁忌魔法に認定した魔法ですよ。お二人は甘過ぎです。とは言え本国に報告しなかった私も、か。」
振り返った皆の視線が一点に集まる。そこに立っていたのは上質の修道服を着たプラチナブロンドの女性だった。カシミールが誇るコーンフラワー色のサファイアを思わす瞳が当夜を捉える。
「貴女は!?」
剣を構えるフィルネールに苦笑する女性はレース柄のフードを深くかぶる。
「アルピネルさん!?」
驚く当夜にアルピネルは再びフードを取る。そこには飛び切りの笑顔が浮かんでいる。
「はい! ご安心ください。法国の回し者ではありませんから。」
「どういうことですか?」
「そちらのお二人と同じ立場ということです。」
フィルネールの問いに答えたアルピネルはライラとワゾルに流し目を送る。当夜への点数稼ぎを邪魔されたライラが口を尖らせて応える。
「まぁ、そうね。アルは、いえ、アルピネルは大丈夫よ。それよりどうしてここに居るのよ。」
「それは当然ここにいるべき一人ですから。とにかく、皆さんがご存知の通り私なら【暴食】を抑えることができますので。」
「おいおい。俺の想像を超える事態にどんどん進んでいくぞ。まぁ、もともと俺には大したことはできないからな。なるようになるしかないか。やってみろよ、トーヤ。クラレスレシア王国第4皇子が命ずる、なんてな。」
華やいでいく場内に気を良くしたのかライナーが強きに出る。そんなライナーから言質をとったライラは悪戯気に場を盛り上げる。
「ほら、ライナー様がすべての責任を負ってくれるってから盛大に行きましょう!」
「お、おい。はぁ。ふん。まー、確かにそれが俺の役割かもしれないな。」
「よっ、ライナー、恰好ええで。」
「茶化すな。」
慌てるライナーの背中を手のひらで平手打つレムはどことなく嬉しそうだ。ライナーもまたそんな様子にまんざらでもなさそうである。
「じゃあ、無効化と同時に突撃しよう。予定では普通のエル、【深き森人】はほとんどダウンしているはずだ。問題はアリスと同格のエリートさんたちと件の女騎士、そして世界樹だね。彼らの力は未知数だから果たしてどこまで効果があるかどうか。」
「間違いなくフレイアは壁になるでしょう。彼女も理から大きく外れてしまった一人ですから。」
当夜の言葉に付け加えられたアルピネルの言葉に続けるようにここにはいなかった人物が加えて補足する。
「ええ、ええ。それに、それに、【世界樹の目】の2人も無効化まではいかないでしょう。」
「アンアメスさん!? いつの間に?」
「ずっと、ずっとここにいましたよ。2人には世界樹からの直接のマナ供給があるでしょうから。ちなみに、アリスネルは幼弱でしたが障害となる2人は強いですよ。エレールほどではないにしろ長き時を過ごしていますから戦闘経験も豊富ですし。世界樹も彼女らに力を注ぐことに躊躇わないでしょう。世界樹にいたってはマナ不足とはもっとも縁遠い存在ですから当然最後の壁となることでしょう。さぁ、さぁ、当夜。続きをどうぞ。」
当夜の背後に現れたアンアメスはそのまま当夜に覆いかぶさると動揺する当夜に続きを促す。その行動にいくつかの抗議の視線が集まっているが彼女は一切悪びれる様子が無い。
「え、ええっと。となるとアリスに声をかけるフィル、ライナー、レムは極力戦闘に参加しないとして、」
「トーヤも、でしょう?」
「そうよ。トーヤ抜きじゃ土台にも上がってくれないわよ。そうなると私とワゾル、アルでやるしか無いわね。」
明らかに前線に立つ気でいる当夜にフィルネールはため息をつきつつ、ライラは肩を落としつつ2人はアリスネルのむくれた顔を思い描きながら指摘する。
「問題は誰が誰と当たるか、です。」
アルピネルが話を本筋に戻すと即座にワゾルが口数少ないながら強い意思を込めた意見を発する。
「俺がフレイアとやる。戦闘能力では俺が頭一つ抜けている。」
「それは駄目。」
誰よりも早く答えたのは妻であるライラであった。彼女は両者が実力的にはほぼ互角と思われるだけにお互いが死力を尽くしてしまうのではないか、そこに是が非でも倒す必要性はないにも関わらず、結果として愛する夫を失う恐れを感じ取ったのだった。
「なぜだ?」
「色目に騙されちゃうかもしれないでしょ! 私が行くわ。」
「おい。」
別に相手に超越者としての美酒を振舞って接待戦に持ち込めば十分な時間稼ぎはできると判断したライラはワゾルのいつになく厳しい視線を受け流して提案する。
「わかった。わかった。私に任せなさい。」
そっぽを向くライラとその肩を引き寄せようとするワゾルにアルピネルは苦笑しながら両者の肩を叩くと自らがフレイアとの相手を買って出る。
「駄目だ。」
「駄目よ。」
まったく同時にアルピネルに振り返った両者は同じく口をそろえてアルピネルの提案を棄却する。その様子にさらに苦笑を強めたアルピネルは2人が異論を挟めないような弁論を述べる。
「ほらね。貴方たちのコンビネーションには敵わないもの。相手も2人組でくる可能性もあるわ。それなら息の合ったお二人さんの方が良いに決まっているじゃない。さっさと終わらせて私を助けに来なさいよ。私とあいつ、相性最悪なんだから。」
「...むぅ。」
「そう、ね。わかったわ。貴女に任せる。でも、絶対に無理はしないでよ?」
「大丈夫よ。これでもオルピスで唯一人の聖女の名は伊達じゃないんだから。こちらは決まったわ。続けて。」
両手を腰に当てて胸を張るアルピネルはこの話はこれでお終いとばかりに当夜に先を促す。
「え、ええ。じゃあ、その3者は皆さんにお任せします。残りの僕たちはひたすらこの敬拝道を登って行きます。世界樹にたどり着いたら、」
当夜が簡略化された黒板の地図をなぞりながら世界樹の先まで滑石のチョークを動かす。そこまで来て当夜はアンアメスを振り返る。アンアメスが目を瞑ったまま組んでいた腕をほどき、右手側に伸ばすとその先に居た少年を指し示す。姿を現した【時空の精霊】はセピア色の球体の中で横たわるアリスネルを出現させた。
「僕がアリスネルを解放する。そこからは、」
先ほどアンアメスがしたことと全く同じ動きを【時空の精霊】も取り、左手で彼女を指し示す。それを受けたアンアメスは差し出していた手を元に戻して黒板の傍に歩みを進める。
「では、では、ここからは私から。良いですか、良いですか、アリスネルの心はこの第7の枝にあります。」
アンアメスはいつの間にか画いていた世界樹の枝の一つを指し示しながら全員に振り返る。
「第7と言うわりに枝の数は関係ないのですね。」
「ほんとや。幹から直に出とる枝ってたったの5本しかないやん。」
レーテルの指摘にレムが指さし数えながら大きく頷く。
「いえ、いえ。もともとは7本あったのですよ。ですが、ですが、2本はすでに枯れているのです。」
「枯れたのですか?」
「もともと、もともと世界樹には7つの意思が宿っていました。いわば生贄となった少女たちのものです。」
(———一人は違うのですが。)
アンアメスの脳裏に7つの枝に重なる7名の少女たちの姿がシルエット状に浮かぶ。
「い、生贄?」
迷いの森に眠る巫女の名を記した石碑を知らない者たちには依然として空想ごとのようにしか聞こえないが、当夜には二つのパズルが大きな音を立ててかみ合ったような気がしていた。そして、語り部の口から自らの名が出た時には思わず体をビクつかせてしまうのだった。
「そうです。そうです。当夜はご存知だと思いますが。そもそも世界樹は世界に急速に満ち始めた負の感情とマナが結びついたことで生まれる厄災という魔法を抑え浄化するために創られる人工精霊だったのです。ところが、ところが、2つの別の思惑によって大きくねじ曲がった。いえ、いえ、なるべくしてなったのでしょうね。」
「王国に伝わる秘話すらも上辺話だったなんて。」
王宮観測室に配属となった日に研究所で代々語り継がれてきたアンアメスの語る物語に似たものを父親から聞かされていたレーテルは愕然とした表情を浮かべる。彼女が聞いていたものは簡単にまとめると聖女たちが飢えと戦に穢れた世界を憂いて世界樹になり、マナを満たすことで世界を平和に導いたと言うものだった。
「失礼、失礼。話が逸れました。戻しましょう。ともかく精霊の創生にはマナに馴染んだ肉体とマナを理解する知識、そして世界を救いたいという強い意思が必要でした。ましてや、世界中のマナのコントロールともなれば並大抵の人物では不可能でした。結果、当時の汚染されたマナの浄化サイクルを構築するために今で言うところの聖女と呼ばれるマナに祝福された巫女が7名犠牲となりました。」
「まさか、その枝にそれぞれの巫女たちが?」
ライナーが顔をしかめる。ライナーの言葉に犠牲になったであろう巫女の姿がその現身のなかでも最も身近な存在であるアリスネルという形で皆の脳裏に投影さる。
「せやけど世界を救うために自らを犠牲にするような人物やったんやろ。そやったら十分説得できるんちゃうの?」
「いえ、いえ。それは難しいでしょう。先にも述べましたが複数の思惑によって創られた檻に隙間はほとんどありません。声は届かないでしょう。そもそも彼女たちの意思はほぼすべてが穢れたマナの回収と浄化に注ぎこまれています。そうなるために進んで身を投じたのですから。話しかける余地などありません。」
(ただ、ただ、それも一人を除いてなのですが。いえ、いえ、彼女もそうでしたか。)
「ですが2人はその檻から抜け出られたということですよね。その抜け道を使えれば、」
折れた枝を書き加えたレーテルはその枝をグルグルと囲みながらアンアメスの顔をうかがう。サッと顔を逸らしたアンアメスは眉間にしわを寄せて顔色を青ざめる。やがて口元を震わせて言葉少なめにその理由もつけぬまま早口に否定する。
「それは...、それは、申し訳ありませんが出来ません。」
(そうと気づいてなかったとはいえ、私が使っていなければ...。)
「そんな...。」
「それに、それに巫女の中にはあの男の意を汲む者もいますから。」
アンアメスにある男の姿が蘇る。世界樹構想の生みの親であり、巫女を選定した者であり、自らの野望を忍び込ませた者であり、世界を滅ぼそうとする者であり、異世界界からの侵略者である。
「それなら外からはどうやって助ければ良いのかしら?」
珍しく感情的になったアンアメスが話を脱線させそうになったところでライラが割り込む。
「そう、そうでしたね。皆さんも体験していると思いますが、この村の家々に入るときと同じ感覚で枝に触れてください。先ほど渡した【世界樹の枝】が導いてくれます。入れば奥の部屋に棺があります。その中にアリスがいるはずです。そのまま語りかけてください。後は残る【世界樹の目】が妨害してくるかどうかですが、間違いなくあります。そして、相手はセレス・アメス。本来なら長たる私が止めるべき相手なのですが、今の私は世界樹には近づけないのです。どうか、どうか、その先にいるあの娘たちを救ってあげてください。」
アンアメスはそこまで早口でまくしたてるように語るとひざをついて首を垂れる。当夜を始め、仲間たちは皆すべてを理解することはできなかった。あまりに中身が濃い割りに情報量が少ないためだ。それでも信じるに事足るほどに彼女の語りは真に迫っていた。
「アンアメスさん、貴女がどうしてそこまで詳しく知っているのかを問うつもりはありません。ですが、仲間の命もかかっています。それは信じて良い話なんですよね?」
当夜は自らの中では答えが出ている問いを声に出す。
「信じて、信じてください!」
アンアメスが当夜の手を取って上目遣いに見上げる。その目には様々な感情のこもった涙が浮かんでいた。
「みんな、僕は信じていいと思うんだ。良いかな?」
「私はトーヤを信じます。構いませんよ。」
「俺もだ。」
「ウチもええよ。」
「私もよろしいかと。」
仲間たちの同意を得た当夜がアンアメスと同じ体勢を取るとその手を両手で受け止める。柔らかな笑顔を浮かべた当夜がアンアメスに全員の総意を伝える。
「わかった。
アンアメスさん。と言うわけで任せてください。」
泣き崩れたアンアメスは当夜に抱き付く。悪戯気の無い抱擁にぎこちなくその背中を擦る当夜だったが徐々に自然な動きに変わっていく。しばらくして体を離したアンアメスは全員の顔を見渡す。
「どうか、どうか、みなさん、お願いします。」




