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世界を渡る石  作者: 非常口
第3章 渡界3週目
158/325

ビー玉の価値2

「ふふふっ、アハハハッ! ほんと、参ったわ。まさか、勝ちにいったつもりがはなっから負けていたなんて。これは参ったとしか言えないわ。」


 メーネは額に手を当てると揃った前髪を後ろに押し上げて高らかに笑う。当夜はもちろんその場にいる誰もが呆然とその姿を見つめるより他なかった。


「ハハハ...。まさかそれほどの価値があるとは思わなかったものですから。」

(そう言えば片メガネを付ければおおよその価値がわかるじゃん。)


 当夜は鑑定用の片メガネの存在を思い出してアイテムボックスから取り出すとその価値を確認する。当夜の視覚を通じて脳内に情報が開示される。


【色ガラス玉】2,800,000シース

 きわめて純度の高い色ガラスからなる。限りなく真球に近い。

 マナの充填量 最大2000

 供給速度 200/鐘


(マジか。ってことはカラフルな奴はもっと高いと...。)


【色ガラス玉】3,500,000シース

 きわめて純度の高い色ガラスからなる。限りなく真球に近い。

 マナの充填量 最大3000

 供給速度 300/鐘

 「属性強化」火・水・風・土属性の魔法の効果を強化する


「うわぁ。こりゃやばいのだ。」


 当夜は冷や汗を流して頬を引き攣らせる。


「貴方、鑑定が...、そう、そのモノクルの能力なのね。本当に規格外ね。」


 この世界で鑑定の力は稀少だ。それこそ世界に50人といないだろう。そして、そのいずれもが商業に成功して大富豪となっている。


「いやいや、そんなでもないですよ。それにガラス玉だってたまたまですって。ハハハ...。」


「でも他にもあるのでしょう? さぁ、見せて頂戴。」


 髪を掻き上げて以来、どうやら彼女の中で何かが吹っ切れたのか片腕をテーブルにつき、その身を乗り出すという淑女らしからぬ姿で当夜に気迫の要求を行う。


「あとは他のガラス細工がありますけど、もう十分かなと。」


 金銭的にはある意味十分すぎるほど集まる算段がついた当夜からすればこれ以上のごたごたは避けたいところだった。


「何言っているの! こんなものを見せられて‘はい、そうですか’と引き下がるとでも思っているの!? いいから見せなさい!」


 だが、彼女の方は当夜が隠し玉を依然として持ち合わせていることが明らかである以上とても引き下がれるはずもなかった。先ほどよりもさらに増した気迫と形相に思わず当夜は後ろの支えにもたれかかると降参の身振りをとる。


「は、はい!」


 当夜は四葉のクローバーと鯛を模ったガラス細工をそれぞれテーブルに置く。緑と赤の透き通った細工物が仄かな光に優しく可愛らしく光る。


「これは...。すごくきれい。だけど、先ほどのガラス玉に比べると見劣りするわね。誤解のないように言っておくけど物凄く魅惑的なのよ。これも十分に私のコレクションにほしいと思うものなのだけど。いえ、貴方も鑑定できるのなら直接見てみればわかるわ。」


(これは、)

「あぁ、そういうことですか。」


 それは決して低い評価ではないが、これらのガラス細工より安価なただのビー玉よりも明確に低い評価を受けていた。


【ガラス細工(植物)】70,000シース

 きわめて純度の高い色ガラスからなる。四葉を模った置物。


【ガラス細工(魚類)】70,000シース

 きわめて純度の高い色ガラスからなる。魚を模った置物。


 どうやら純度の高い色ガラスであることよりも形状に価値が見出されているようである。真球であることに何らかの意味があるのかもしれない。そして、そこに生まれるマナの増幅機能という実用的な価値に多大な評価が送られたということになる。


「魔法補助やマナの増幅機能が無いんですね。つまりは魔道具としての価値が無い。もしかして、マナの増幅機能って形状が大きな意味を持っているんですか?」


「ええ、その通りよ。ほら、これを見てごらんなさい。こうやってマナが補給できるようになるのよ。」


 メーネは青色のビー玉を取り上げると手のひらの上に置き、当夜の目の前に差し出す。次の瞬間、青色のビー玉は手品のように中心が真っ黒に染まり表面が透明になってしまった。そしてメーネの手のひらに向かって中心から光の粒が舞い落ちるように伸びる。


「うお!? すごい、手品みたいだ! これってどういうことですか?」


 魔法が普通に存在するこの世界では手品などと言う技能は魔法を使えない一部の者たちが世間体を気にして作り上げた仮初の技術であって褒め言葉にはならない。当夜の発言はこの現象を起こしたメーネに対してある意味侮辱的な発言であるが、このマナの増幅機能についてはそれほど明確にわかっている現象ではないので一つの例えとしてはギリギリで許容範囲に収まった。当夜の発言は解明の進んでいないその力が魔法に頼らず不思議な現象を引き起こす手品に似通ったものを持っているところにかけたように聞こえる。もちろん本人に深い意図は全く無いのだが。


「手品みたいって。それはね、あら。

 ふふふ。後ろで説明したくてしょうがない優等生さんがいるわよ。聞いてごらんなさい。」


 当夜の後ろには何かを言いたげに、それでも二人の会話に割り込むことに躊躇するアリスネルの姿があった。それはどこか学生時代にあった出来の悪い生徒の珍解答にやきもきする優等生の姿そのものであった。


「どうかしたの、アリス?」


「しょーがないわね。トーヤがどうしてもって言うから特別に私が説明してあげる。」


 アリスネルが鼻息荒く椅子に腰かける当夜を見下しながら肩に手を乗せる。


「いや、頼んでないけど...。

 いえ、オネガイシマス。」


 何となく感じる苛立ちにお断りの返事を返そうとすると、猛然とという言葉がしっくりくるほどに熱い抗議の視線が当夜に向けられる。やむなく、片言のお願いの言葉を贈る。


「ほんと、しょうがないなぁ。当夜にそこまでお願いされたら説明し無いわけにはいかないわね。いい? マナは物体の表面から入ると中心に集まろうとするの。それも周回運動を繰り返しながら。つまり形状が球形であればあるほどに効率よく集まるってわけ。そのときに泡とか不純物があるとそこから拡散して集まりにくくなるの。でも、どういうわけか色がつくとマナの充填量とか供給速度が大きくなるのよね。色って不純物で付くって聞いたんだけどね。あ、あと、色だけど普通はあんなに均一に付かないらしいんだけど、どうして当夜のはあんなに均一なのかな。すごい技術みたいだけど。あ、別にトーヤは褒めてないからね。」


 アリスネルが人差指を立てて目を瞑りながら彼女の知識をこの時ばかりと披露する。余計な一言をつなげて。その様子に後ろに控える3人はそれぞれに落胆の様相を表現している。


「お、おう。難しい話だな。さすが、アリスは物知りだね。」

(となると、マナが中心に集まるときに着色成分を中心に引きこんでいるってことになるな。そして、引きこむ因子が多いほどにマナが引き込まれやすくなるってところか。)

「使うときはどうするの?」


「あら、トーヤ君。いいところに気が付きましたね。いいですか。表面でバラバラに動き回るマナを束ねるイメージ、輪を作るような感じで中心までそのイメージを届けるのよ。そうすると中心からマナが押し出されてくるわ。それと、ここまでのマナの増幅現象は生き物にも当てはまるのよ。どう、わかったかな?」


 物知りであるとの当夜の発言にさらに調子を良くしたアリスネルは先生気取りの解説を始める。


「なんかその言い回しと抽象的すぎる表現にイラッとくるな。」


 当夜は方頬を引き攣らせてアリスネルを見上げる。


「何でよー! せっかく私が優しくレクチャーしてあげているってのに。」


 アリスネルが小さな地団太を踏んでいる。後方のギャラリーが二人の漫才のような痴話げんかに頬を緩める。

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