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世界を渡る石  作者: 非常口
第3章 渡界3週目
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海上都市 オルピス

「海だ!」


「そりゃそうだろ。海上都市オルピスに向かっているんだからな。あと、2鐘もあれば着くだろうさ。」


「へぇ。そういえばずいぶん道も整備されているみたいだね。揺れが少なくてありがたいよ。」


「まあな。海岸線は水はけが良いからな。舗装もしやすいんだ。」


「そうなんだ。それより、ちょいと遊びに、もとい、休憩に入らないか?」


 先ほどから当夜の目にはバナジウム発色のベリルが敷き詰められたように鮮やかに輝く海が当夜を誘っている。


「そうさせてやりたいのは山々だが、船の手配がまず先だ。巡航船はよくてひと月に3本だ。それに当たれば良いがそうでなければギルドを通じて依頼を出さないとならんからな。それに法国までは遠いからな。航路で10日はかかる。準備が必要だ。」


「そっか。じゃあ、街に着いてからじっくり楽しませてもらうよ。」


「そうしろ。俺とレーテル、フィルネールの大人組で準備はしといてやる。お前はアリスネルと一緒にレムの面倒を見てやれ。」


「おいおい。僕だって準備くらい手伝うよ。」


「ハハハ。じゃあ、アイテムの補充でも頼む。それにな、レムを一人にすると暴走するからな。お付きの者が必要だろ?」


「それ、ライナーでいいじゃん。」


「交渉事だ。若造がいると足元を見られる。」


 当夜には馬鹿にされたように聞こえたが、ライナーの仕事モードの表情に念のための確認を取ることにした。


「いや、僕らだってそこそこ冒険しているよ。そもそも、僕は28だし。」


「ふん。だが、問題は見た目だ。お前はどう見てもガキだ。」


「むう。言ってくれるね。」


「だが、事実だろ。」


 この世界に来て散々自身の姿が幼形であることは思い知らされてきただけにライナーの言葉は重たく耳に響いた。


「言い返せないのが悔しいな。はぁ、わかったよ。アイテムの補充は任せてくれよ。その変わりそっちの調整は任せるよ。」


「任せとけ。」


 当夜は馬車の中で拗ね気味にライナーのひざを叩いた。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ライナーとの会話から2鐘が過ぎた頃だろうか。


「皆さん、オルピスに着きましたよ。」


 馬車の中にレーテルの声が響く。


「よし。おい、フィルネール、アリスネル、いつまで寝たふりしているつもりだ? ほら、レムも起きろ。」


「う~ん。なんや、休憩か?」


 レムはライナーに揺り起こされて瞼を眠そうに擦りながらその体をゆっくりと正す。


「はぁ、良く寝た。」

「ええ、私も。」


 一方で、その向かいの席では機敏に姿勢を正しながらまったく眠そうに無い瞼をさも起きたばかりのように擦るがその姿はどこかわざとらしい。


「二人ともよく眠れたみたいだね。」


「も、もちろん。」

「は、はい。」


「?」


 最後にレムが馬車を降りると、ライナーが段取りを付け始める。


「さて、これで全員だな。フィルネールとレーテルは俺と船の確保、それと航海の準備だ。トーヤ、アリスネル、レムは戦闘用アイテムの補充だ。集合は港に今から2鐘後だ。」


 ライナーの合図とともに二組はそれぞれの役目に動き始める。

 貝殻で舗装された道を横一列で当夜達は歩く。テルペン類を豊富に含む海の香りが3人を優しく包む。


「なぁなぁ、何でウチらはこないな小間使いをやらされとるんや。」


「まぁ、そう文句いわない。それより、きれいな水路だね。これ、海水なんだね。」


 透明な水の流れの中に、桃褐色に色づいた石灰藻が繁茂している。色とりどりの小魚が群れを成し、紫色の小蟹が鋏で招く素振りをしながら歓迎しているように見える。


「そうよ。知らなかったの? オルピスは海の中に浮かぶ街だよ。水路に入り込む魚も重要な資源なんだから。」


 オルピスはサンゴや石灰藻、貝殻が砂になってできた白亜の砂州が沖の島に繋がってできた陸繋島である。当初は潮の満ち引きによって砂州が海に沈むなど天然の要塞として発展した都市でもある。近年では交易の中心地として、砂州の上に石造りの橋が架けられて海産物や遠国の交易品がせわしなく運び出されている。そして、この街を造る島は太古から天然の水路の多い地であり、複雑な地形は貝類や魚類の生育地となっていた。その水路は今日では街中に張り巡らされ、いけすや漁場となっている。


「あっ。ほんまに釣りしとるで。」


 当夜が目にしたものは窓から釣竿を伸ばす男の姿であった。程無くして20cmほどのアジのような魚が男の手に収まった。


「うわ。本当に家から釣りしてるし。おっ、何か釣った。」


「あら、銀鏡魚。あれは焼くと結構おいしいのよね。」


「あっちの人は何しているんだ。」


 当夜が水路に両足両腕を突っ込んで何かを探す女性にその興味を移す。近寄ると女性は当夜に挨拶をする。


「やぁ、こんにちは。何か用かい?」


「こんにちは。用ってほどでは無いんですけど、何をなされているのかなって。」


「そんなに大したことはしてないんだけどね。見てのとおり縞平貝を採っているだけよ。」


 女性が差し出した縞平貝は白と黒のストライプ模様のアサリサイズの二枚貝だった。水路の底に溜まった砂の中に生息しているようだ。


「美味しいんですか?」


「そりゃね。出汁が出てお吸い物に最高さ。」


「へぇ。やっぱり水路には漁業権みたいなものがあるんですか?」


「まぁね。基本は敷地内の水路だけね。でも、街の外なら採取しても大丈夫よ。あんたも採りたいならモンスターに気を付けながら外で頑張るしかないね。まぁ、買った方が身のためよ。」


「ハハハ。心に留めておきます。砂出しも水路するんですよね。」


「砂出し? なんだい、それは?」


「いや、食べるときにジャリってきません? 食べる前に身についた砂を出させるために海水中にしばらく置いとくでしょ?」


「ふ~ん。面白いこと言うね。今度私もやってみるかね。」


「ほら、トーヤ、行くわよ。」


 アリスネルが当夜のそばに近づくと裾を引っ張る。


「あ、ごめん。ちょっと待ってて。

 いろいろ説明ありがとうございました。」


「あいよ。またおいで。今度はお勧めの貝を教えてあげるよ。」


「どうも。」


 女性と別れてしばらく歩いていると当夜の目にどこかで見たことある男が目に留まる。


「あれは?」

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