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世界を渡る石  作者: 非常口
第3章 渡界3週目
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戦いの後に

「おやおや、二人ともまだまだ成長の幅が大きいですね。そうそう、残り短いこの旅を悔いのないものにしてください。」


 道化は仮面をつけると背筋を伸ばし、丁寧なお辞儀を残して砂像が風化するかの如く姿を消してしまった。


「なん、なんだ?」


「まったく、化け物だな。」


 いつの間にか結界を抜けてきたゴルディロアが当夜の背後から声をかぶせる。


「貴方が言うか。」


「俺だから言うんだよ。奴は間違いなく帝王の二つ名を持っていやがる。

 それより、その女とあっちのにーちゃんの世話してやんな。正直、俺は物足りねーが、お前らは十分に俺を満足させてくれた。まぁ、これが必要かと思って用意もしたんだが不要だったな。そういう意味でも俺を驚かせてくれた。おまけにこれとセットでくれてやる。戦利品だ。」


 そういうとゴルディロアは上級治療薬3瓶と1枚の汚れた石貨を投げてよこす。


「これは?」


 当夜が石貨を拾い上げて陽にかざす。


「ただの汚れた石貨だ。誰の目から見ても同じだろう。だが、俺にとってはこの世で一番儚く清らかな石貨だ。俺が持っているにはふさわしくない代物だ。もしも、俺の力が必要な事態に陥ったら一度だけその石貨と引き換えに助けてやる。何かあったらそいつにマナを込めてみろ。」


 ゴルディロアはアイテムボックスを発現させ、漆黒のぼろマントを取り出し、その身を包むと当夜達に背を向けて歩き出す。当夜はその背に思い出したように疑問をぶつける。


「ちょっと聞きたいことがある。貴方も【時空の精霊】の加護を受けているのか?」


「いや。俺を加護する精霊はいねーよ。強いてあげるなら悪魔なんじゃないか。」


 ゴルディロアは背を向けたままに(あざけ)るようにうそぶく。


「だけど、貴方が使った時間操作やアイテムボックスは【時空の精霊】の加護を受けたものに見えたけど。」


「あ゛ー。あれな。あれは先代の第10位のやつとやり合った時に修得したのさ。向こうも使ってきやがってな。あんときはまるで勝てる見込みがなかったな。」


「いやいや、修得って。そもそも勝てなかったのに修得したんかい。」


「ば~か、勝てなかったとは言ってないだろうが。殺される寸前にその世界に踏み込んだんだ。死が俺を成長させたってわけだ。だから、俺は更なる高みを目指すために俺を追い詰めることができるような存在との邂逅を求めているって訳だ。」


 ゴルディロアは遠くを見つめながら彼の行動の意味を語る。


「俺は思う。第9位以上の連中は精霊と同等、いや、それ以上の存在ではないかと。つまりは精霊の力を自在に使える実力でもなければ認めてもらえない、そんな領域なんだと。俺は【時空の精霊】との接点はないがその力の一端を使える。だが、その力をすべて掌握できていない。だとすれば、俺は魔人を喰ったはいいが、まだ人の領域に片足を突っ込んだままだ。ひょっとしたらこのランキングは人から精霊へと昇華する目安なのかもしれないな。まぁ、お前の名前が載っていないことを考えるとこの考えはハズレかもしれないがな。」


「どうだかね。」

(でも、あながち間違いとも言えないんじゃないか。僕はそのランキングが公表された時には来ていなかった。そもそも、今だって【時空の精霊】の加護と地球からのアイテム便りだ。未だにランキング外だと思うな。

 それにしても、精霊って一体? 僕は精霊は人々の思念が生み出した意識集合体みたいなものかと思っていたんだけど、元は人ってこと? あるいはその両方か。)


 当夜が結論を出すより前にゴルディロアがその思考を遮る。


「さて、俺は行くぞ。また強くなったら相手してもらうぞ。」


「じゃあ、強くならないでおくよ。」


「弱かったら殺す。」


「へいへい。その時は石貨を使わせてもらうよ。」


「ふん。そう来るか。切り札は大事なところで使え。では、な。」


 ゴルディロアは屈託のない笑みを浮かべて転移によりその姿を消した。

 当夜はあたりの惨状に溜息をつきながらフィルネールに近寄る。彼女は浅く呼吸を繰り返していたが、その意識は極度の緊張と体力の消耗によって失われているようだった。

 そっと彼女と地面の隙間に自身の体を滑り込ませた当夜は彼女の体を背負う形で持ち上げる。


「軽っ!」


 フィルネールの体は華奢であり、鎧を始めとする装備も軽い聖銀とは言え、その重みの無さに当夜は拍子抜けした。


(いやまぁ、女の子に向けた言葉としては失礼だけど、意識を失った人の体って体重以上に重たいものだって聞いていただけにちょっと意外、というよりかなり意外なほどに軽いや。フィルのこれは本当に大丈夫なのかな?)


 この世界に来て当夜は幾度か人を背負う機会に出会っているのだが、いずれも軽く感じられており、本人の中では異世界に来た効果で筋力が向上しているものと受け取っているのだが、実態はこの世界の物質の構成には少なからずマナが使われている為見た目以上に軽いのである。そして、その傾向は精霊に近いほどに強くなる。フィルネールもまた精霊に近づきつつある一人であることを如実に示す一つの証拠とも言える。

 そんなフィルネールを背負いながら城壁に向かって歩みを進める当夜の目に映ったものは崩れた城壁のがれきに背を預けてこちらに弱弱しく片手を上げるライナーの姿とその手を下に下ろさせようと奮闘するレムの姿であった。


「よう。大したもんだな、お前さんは。俺なんかこのざまだ。」


「もう! あんたは重傷やで。無駄なことせんと、さっさと宿屋に戻るで。」


「わかっている。だから、そんなに引っ張るな、レム。」


「わかっとるならウチをこれ以上困らすな!」


 土埃にまみれたレムの顔には目の下に幾度となく流れたであろう涙の筋が残されていた。その跡に再び涙が滲み始める。


「おいおい!」


 ライナーが慌ててレムを抱きしめる。


「まったくいい大人がこんな娘を泣かせて。それで、ライナー、とりあえずは大丈夫か?」


「言うな。それと、俺なら大丈夫だ。衛兵も来たことだしな。あいつらに説明してから戻るとするさ。フィルネールを早く休ませてやれ。」


「わかった。先に宿に戻る。レムもライナーをしっかり見張っといてくれ。」


「トーヤ、お前なぁ。」


「もちろんや。任せとき。」


「お前、泣いていたんじゃ!?」


 レムはトーヤに固く握った小さな手を力強く向ける。当夜は驚くライナーに無粋な笑みを向けると門に向かって歩き始める。


「ト、トーヤ! フィルネールの体に触れたい放題だからって不埒な真似はするなよ!」


 当夜の背にライナーの意趣返しの言葉が直撃する。


「ぶっ!」


 思いもよらない反撃に一瞬つまずきそうになる当夜であった。そんな当夜に更なる追い打ちがかかる。


「トーヤはそうしたいのですか?」


「フィルっ!?」


 当夜がすぐ後ろから響く甘い声にドギマギしながら振り返ると、その目の先に鮮やかな緑の瞳が輝いていた。


「はい。フフフ。それでどうなのです?」


 真剣な瞳で問いかけるフィルネールに当夜は足元から崩れ落ちる。


「ト、トーヤ!?」


「ハハ、アハハ。良かった。フィル、良かったよ。」


「トーヤ?」


「一人で背負い込んで、死にかけて、心配かけて、」


 当夜の目からも大粒の涙が流れ落ちる。


「そうですね。心配かけてしまいましたね。ごめんなさい。トーヤと皆さんのおかげで助かりました。来てくれてありがとう。」

(そんな顔されては叱るに叱れません。でも、確かに心配をかけたのでしょうね。私の行動は騎士としては正しいはずですが、仲間としては間違ったのでしょうね。)


 フィルネールは当夜を優しく包みながら背中を擦るのであった。

 そんな二人を城壁の突端で見つめる一人の少女の胸には安堵とともに言い表せぬ黒い感情が渦巻いていていた。

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