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世界を渡る石  作者: 非常口
第3章 渡界3週目
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勝負の行方

 自身の腹部に走るわずかな痛みの元を見つめるゴルディロアの顔が納得のいかない表情をして事態を直接引き起こしたフィルネールにその目を向ける。フィルネールもまた信じられないと言った表情を浮かべていた。その背中を貫いたはずの大剣は根元を残して見るも無残に砕け散っていた。


「くくく。こいつはどういうことだ!? トーヤ!!」


 ゴルディロアは一歩後ずさりする形でフィルネールから離れると、この事態を引き起こした犯人に目を向ける。


「盾だよ、盾。」


 当夜は治療薬を傷口に塗りたくりながら、顎でフィルネールの周りに散らばる盾を示す。


「お前の周りに浮かんでいた盾がそんなに頑丈なわけねーだろっ。俺の剣と突きならこんな軟な盾を10枚重ねようとも意味も無く突き破ったはずだ。」


「まぁそうだろうね。だけど、貴方は一度同じような技を喰らったと思うよ。」


「なんだと? ...まさか、道化のっ。」


「そう彼はタロットカードを打ち込んでいたけど、僕は盾を打ち込んでやったんだよ。」


「なっ、だが盾を打ち込む余裕など、いや、そもそもこのような脆弱な盾がこの剣を貫けるはずが無い!」


「それをいうならタロットカードだって同じだろ。いや、もっといい剣にただの紙切れを力技で刺しこんだのなら化け物だね。僕と道化が同じ方法を使ったのかはわからないけどその結果を見た時は良い発想の転換になったよ。僕の場合は転移を使っただけだよ。」


「まさか盾を剣に転移させたということか? だが、動く物体に転移させるなど出来るわけがない。それも8つも同時になど!」


「まぁね。そもそも僕の転移の条件には僕の体の一部が転移先にある必要がある。でも、その条件さえ満たせば限りなく正確に転移させられるんだ。」


「だが、剣にお前の体の一部を埋め込むことなんてできなかったはず。」


「まあね。剣の中にマーキングすることは無理でも挟むことはできる。」


「ま、さか。」


「そう、血だよ。貴方が僕の肩を貫いたときに血が剣の両面を覆っただろう? その時に目印が付いたってわけさ。でも、その剣が混じりもので無くて良かったよ。しょぼい剣だったら組成がまばらで剣を転移させるのが難しかったかな。」


「つまりは人の体のような複雑な成分の違うものには転用できないということか。」


「まぁね。一度は貴方に向けて剣を転移させようと思ったんだけど無理だったしね。」


「ふんっ。まったく恐ろしいことを考えやがって。まぁいい。この後を考えると今回はここまでだな。俺の負けだ。これでいいか?」


「えっ!? そりゃ、僕はそうしてほしいけど。」


「ちげーよ。お前に言ったわけじゃない。そこにいる道化の奴に言ったんだよ。」


 ゴルディロアが何もない空間に砕けた大剣の欠片を投げつける。


「いやはや、いやはや。名勝負でしたな。ついつい手に汗を握ってしまいましたよ。」


 大剣の欠片が通り過ぎた空間から一人の老人が現れる。


「今度はじじいか。いったいどれが本当の姿なんだよ。」


 ゴルディロアが舌打ちをしながら当夜には見覚えの無い人物に扮した道化をにらむ。


「では、では、今回も私の勝ちということで勝負はお預けですね。」


「まさかな。俺はようやく準備運動が終わったところだぜ。これだけてめーの指示通りに動いてやったんだ。少しはお礼しやがれ!」


 フィルネールの剣がゴルディロアの禍々しいオーラを消し飛ばしたせいで一刻は弱弱しく見えていた赤神が真の力を見せる。赤黒いオーラは紫色に変わり、不気味なほどに静かで揺らがない存在がそこに生まれた。

 ゴルディロアが3つの魔人の力を解放したのだ。全ての力を使い果たしたフィルネールがその身を縮めて小刻みに震えている。当夜もまた、全身の震えが止まらず、幾度も押し寄せる吐き気にその場に倒れ伏す。


「おや、おや、お客さんが死んでしまいますよ。しょうがない、しょうがないですね。少々遊んであげましょう。」


 二人をドーム状の結界が包み込む。


「余裕だな。」


「いえ、いえ。私は目立ちたくないだけですよ。」


「では始めよう!」


 二人の姿が消える。体調の戻った二人が顔を持ちあげるとそこには細切れにされる道化の姿があった。

 だが、彼が張った結界は消えること無く残っている。すなわち彼は未だに健在である証拠だ。


「ちっ!? 奴はどこに?」


「お二人さん、お二人さん。今回は面白いものを見させていただきましたよ。」


 結界の外にいるはずの二人の間から老人の、道化の声が響く。


「て、てめー!」


 ゴルディロアが結界を激しく叩くたびに黄色の壁が瞬く。


「おや、おや。うるさいですね。約束を守っていただいただけではないですか。」

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