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世界を渡る石  作者: 非常口
第3章 渡界3週目
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丘の上の戦い(準備編)

「やるならここの方が良いな。相手もそろそろ仕掛けてくるだろう。」


 ライナーは丘の上で周囲を見渡しながら隣で一歩後ろに控えたフィルネールに確認を取っていた。


「ええ。私もそう思います。この丘の上なら足場もよいですし、逆に相手は足場が悪い。ここで迎え撃つのが良いかと。そろそろ、皆で相談しましょう。アリスもやる気十分見たいですよ。」


 フィルネールが後ろのアリスネルに視線を移す。アリスネルは治療薬等の確認を入念にしている。特にマナの雫の残量を気にかけているようだった。


(人数は結構なものね。20~30人ってところかしら。雑魚だけど最初の襲撃は弓を使う可能性があるから【風霊の障壁】の展開は必須かな。でも、ここのところいいところなかったから良いチャンスかも。見てなさい、トーヤ。)


「まぁ、やる気があるのは良いことだが無茶しないでくれると良いな。よし、まだ時間は早いがここで迎え撃つために野営の設置に入ろう。どうせ、夜にでもならないと襲ってこないさ。逆にこちらも迎撃の準備をここでしっかりしておくぞ。」


「はい。ただ、心配なことがあります。彼らの背後に控える者の存在です。本当に僅かでしたが強敵がいるような気配がありました。その者がいた場合には私とライナー様で対応しなければ危険だと思います。」


「おいおい、天下のフィルネールともあろう者が敵わないなんて言わないだろうな。そんな奴の相手を俺ができると思ってるのか?」


「ご謙遜を。騎士団でも噂はかねがね聞いていおりますよ。サイファ殿とも互角に渡り合ったとか。」


「ありゃー、サイファの奴が手加減しただけさ。それより、それほどの手練れということか?」


「ええ。私もまだまだ至らぬ身、先日敗北を喫した魔人ほどでも無いにしても相当な力量でしょう。それに直接会い見えたわけでもありませんので正確な力量を断言できる段階ではありませんが、相当な実力者であることは確かです。」


「―――そうか、厄介だな。」


 ライナーは遠くでテント張りに悪戦苦闘し、怒り顔でライナーを呼ぶレムを見ながら目を細める。


「はい。その者が現れた場合は、」


「俺の力でとりあえず吹き飛ばす。雑魚とレムはアリスネルとトーヤに任せて俺とお前で場所を移してやり合う。それでいいな。」


「もちろんです。ただ、3人にはそれがうまくいかなかった場合に独自に避難してもらわないと困りますね。」

(もちろんまったく勝てる可能性にない相手なら貴方にも逃げてもらいますけどね。)


「ああ、レムとアリスネルが聞いてくれるといいが。」


 しびれを切らしたレムが大股にライナーに近寄り、飛びつきながら器用に耳たぶを掴み引っ張る。


「もう! ウチ一人にテント張らすなんておかしいんとちゃう? ライナー、あんたが一番力あるんやから真っ先にやらなあかんやろ。それでは、フィルネール様、ライナーをお借りします。」


「はい。取扱いに注意してくださいね。意外と壊れやすいですから。」


「わかりました。ほな、行くで!」


「痛たたっ。ちょい待てって!」


「問答無用!」


 小さなレムに引きずられるように連れていかれる王国の次期国王であるライナーの姿を小さく笑いながらフィルネールは見送った。そんな彼女に声をかけたのはアリスネルであった。


「2人して秘密の相談が多いわね。私たちってそんなに信用ならない?」


「そんなことありませんよ。ただ、大人だけの相談が必要だっただけです。もちろん貴女もお気づきのとおり私たちは盗賊と思われる34名の集団に追われています。」


「34か。それってどこまで正確なの?」


「間違いなく盗賊団は34人ですね。どの者も実力が拮抗しています。そして1人わずかに強い者がいてこれがリーダーでしょう。こちらはアリスなら容易く撃退できますよね。」


「ト、トーゼンよ。全員、私が追い払っちゃうわよ。でも、私も手柄をすべて取りたいわけじゃないから譲ってあげてもいいけど?」

(やっぱり、フィルはすごい。せいぜい27、8くらいと見積もっていたけど甘かったのね。だとすると6、7人は私と互角かそれ以上。結構きついわね。)


「もちろん、すべての手間をアリスにお願いするのも失礼ですし、多少はこちらにも譲ってもらえるとうれしいです。ただ、場合によっては貴女とトーヤだけでレムを守りながら戦ってもらうかもしれません。何しろ、それに加えて1人、私と同格あるいはそれ以上の存在がいるのですから。その者が出てきた場合はライナー様と私はそちらの相手を務めるだけで手一杯かと思います。その場合はアリス、貴女が御者とともに2人を連れて出立してください。いいですね?」


「は? そんなのできるわけないでしょ! 仲間を見捨てるなんてできない! あ、貴女も、そ、その、仲間なんだし。

 何よ、その顔、馬鹿にしているの?」


「あ、いえ。その意外というか、うれしいです。」


「ちょ、ちょっと~。そんな真面目に反応されると、私も困る...。」


 お互いに照れ笑いをする2人におずおずと声をかける者がいた。


「ってことはあいつらはやっぱり盗賊か。それも僕らを狙っていると。」


「え? トーヤ? いつからそこで(聞いていたの)?」

「なっ!? トーヤ、貴方、いつからそこに(居たのですか)?」


「二人して同じこと言わないでも。でも、仲良くなってくれてうれしいよ。」


「もともと仲が悪いわけでもないの。トーヤが悪いだけだもん。そ、それより盗み聞ぎなんて許さないわよ。」


「ま、まぁまぁ。それより相手はこちらを襲撃するのは間違いないのですよね?」


「え、ええ。何かするつもりですか?」


「そ。ちょっとした悪戯をね。僕の【時空の魔法】が攻撃にどこまで転用できるか試してみたいんだよね。」


「【時空の魔法】ですか? いったい何を?」


「秘密だよ。2人も秘密にしてたじゃん。というわけでアリスには教えてあげよう。のけもの同士だからね。」


「ほ、本当!?」


「また、秘密の共有だね。」


「う、うん!」


「はぁ、仕方ありませんね。それより、いつからそこに居たのですか?」


 フィルネールは嫌な予感を感じながらも話を元に戻す。


「ふっふっふっ。アリスがフィルに声をかけたあたりかな。それにしてもフィルに気づかれないなら結構良い線いっているかも、よしよし。じゃ、あとでアリスには相談するよ。僕は準備があるので失礼!」


「あ、ちょっと!」


 当夜の姿が霞みのようにぼやける。アリスネルは思わず自身の瞼をこすってその姿を見なおそうとするがそこに当夜の姿は無かった。ただ、隣のフィルネールは当夜の起こした現象に驚きと賞賛を心の中で与えていた。

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