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世界を渡る石  作者: 非常口
第3章 渡界3週目
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盗賊団と赤神

 男は獲物が野営の準備を終えて足を伸ばし始める頃を見計らってゆっくりと、だが敢えて相手にその存在を知らせるように仲間たちの足取りを調整する。ここで反応するようならば風や地の精霊の加護を持つ者がいるあかしだ。慌てふためいて逃げ出すようなら前方に待機させている仲間たちと挟み撃ちで狩れるだろう。逃げ出さないなら強者か弱者だ。ここの見極めは重要だ。


「どうしやす? 獲物はまるで動く様子はないですぜ。」


「あ゛あ゛? 俺に意見する気か?」


「め、滅相もありません。」


 赤い無精ひげの目立つ顎を擦りながら男は大岩に突き刺した大剣の柄に手を添えて部下の男ににらみを利かせる。脅かされた部下の男はリーダーとみられる男よりも屈強で大柄な体をしているにも関わらず逆らうことはできないようである。それは実力こそがすべての盗賊団の中に置いて圧倒的な差があることを示している。

 リーダーとみられる男は偉そうに大岩の上に胡坐をかいて目標の方角に目線を移した。赤髪の長髪は癖毛が強く残っており、自身の性格とあいまって荒れ狂う溶岩流の一片を切り取ったかのような印象を与える。


 さらに部下の男に別の若手から情報がもたらされる。その後、リーダーの男と二三のやり取りが成される。


「まぁ精々やってみるがいい。だが、お前らの実力じゃ夜も更けた頃を狙うのが無難だ。下の奴らにも伝えておけ。しっかり働けよ、リーダー殿。」


「はっ、はい!」


 リーダーと目されていた人物にリーダーと呼ばれた大男は足早に草むらに駆け込む。そんな男のことなど眼中にないのか左目の黒革の眼帯に手を当てながら意中の方向を見つめ続ける。



「まったく何だあの男は! 俺たちに雇われた身でありながらふざけた態度だぜ。」


「ほんとだぜ。ガロン親分、子のままじゃあいつに乗っ取られちゃうんじゃないか?」


「俺もそう思う。」

「「「俺もだ。」」」


 そこら中からガロンの部下たちが姿を現す。彼らはみな赤髪隻眼の男の存在が目障りのようだ。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その男は暗殺ギルドからの紹介であった。仲介役は彼の腕を絶賛し、ガロンたちに安くはない支払いを求める。当然、もともと大したことのない盗賊団であり収入もそれほどではなかったため、断わりの返事を返そうとしたときだった。副リーダーの首が文字通り飛んだ。誰もが反応に遅れた中で唯一ガロンだけが一言を発した。


「き、貴様!」


「おい。依頼人の一人を殺した。そいつの変わりに無償で働いてやろう。その代りなるべく強い奴と戦わせろ。」


 そいつの首をはねようとガロンが自身の体ほどもある巨大な斧で赤髪の男の首を捉える。誰の目にも赤い髪と血の色が区別のつかないものとして舞う様が予見された。だが、その刃はかの者の首筋に一切触れること無く止まる。まるで、そこに絶対の壁が存在するかのようにあらゆるものの侵入を拒む。


「何だ? 肩たたきにはちょいと軟すぎるな。それよりどうする、俺を雇うなら今だけだぞ。」


 その日を境にガロンの盗賊団は一気に名を馳せるようになる。それもそのはずである。狙う相手は下級の冒険者を護衛にしか雇えない小口の商人を狙っていたものから一気に護衛などものともしない大貴族を狙う狩人に変わったのだ。これまでに10にも及ぶ上流貴族を襲い、第1戦級のパーティですら退けてしまった。それもこれもこの赤髪の男の戦果である。自分たちはただその戦場を漁るだけだ。

 未だ名を名乗らない男は10日目にしてようやく渾名を告げる。


「まったく以てつまらん相手しかいないな。次の獲物で最後だ。次はしっかり吟味してからやる。」


「な、なぁ。次もまた契約をしたいんだが、そろそろ名を教えてくれ。」


「あぁ、そういえば名を名乗り忘れていたな。俺は『隻眼の赤神』だ。いつしかそう呼ばれるようになったな。だが、貴様らと再び会うことも無いと思うがな。」


「どういう、」


 ガロンは思わずその理由を尋ねようとしたところに自らの部下が次の獲物の情報をもってきたために話は途切れる。


「親分、中々なカモがいたみたいですぜ。」


「ほう、どんなだ?」


「野営と馬車の真新しい跡がある。結構良いもの食ってやがったみたいですぜ。」


「ほう、野営中にも関わらずか、結構な有力貴族かもしれんな。下手したら王族かもしれん。それは手を出すのは危ないかもしれん。慎重に情報を集めろ。」


 それまで関心を全く見せていなかった男の雰囲気が変わる。王族という言葉に反応したようだ。


「王族か。護衛も相当なものかもしれないな。面白い!」


 ガロンに不安がよぎる。いくらこの男が強いといっても王族に連なる者につく護衛は単独でも第1戦級のパーティを凌ぐ強さと聞く。それが4人以上就くという噂を耳にしたことがある。この男の実力は異常だが、果たしてそれに敵うものかどうかは判断できない。ここまで上り詰めたにも関わらずこれ以上のリスクは負いたくないというのが本音だ。


 獲物は野営のためなのか丘の上で馬車を止めた。一般の商隊よろしくここを使うようだ。

 ガロンは赤神の投入は温存し、この丘を野営に使う商隊を襲う従来通りの流れを今回の目標にも仕掛けようと思っていた。獲物が野営の準備を終えて気が緩む瞬間を狙ってゆっくりと、だが敢えて相手にその存在を知らせるように仲間たちの足取りを調整する。さて吉と出るか凶と出るか。凶を引いてしまったなら大凶をぶつけて逃げればいい。そしてその戦場を自分たちは漁るだけだ。


「どうしやす? 獲物はまるで動く様子はないですぜ。」


 どうやら獲物はこちらの動きを察知できないのか、それともわかっていて野営をするつもりなのか。王族という言葉が引っかかり躊躇してしまう。思わず強者の意見を求めてしまう。


「あ゛あ゛? 俺に意見する気か?」


「め、滅相もありません。」


 『隻眼の赤神』は大岩に突き刺した大剣の柄に手を添えてガロンににらみを利かせる。ガロンは体格で勝っているにも関わらずその威圧に逆らうことはできないよ。そこに圧倒的な実力の差があることがガロンの体を余計に委縮させていた。

 赤神は偉そうに大岩の上に胡坐をかいて目標の方角に目線を移した。風が男の髪に悪戯を仕掛けるもまるで相手をしない。


 しばらくすると斥候の部下から馬車の詳細な情報が入る。どうやら期待していた集団とは異なるようだ。馬車もそれほど高級感を持っておらず、王族説は外れたようにガロンには思えた。


(ここで赤神の力に頼るのは勿体ないな。)

「ここは俺たちだけで当たるとします。貴殿には別の件をお願いしたい。」


「ふん。お前たちだけでやれるのか?」


「ええ。なんでもかなりな別嬪が3人もいるみたいです。貴殿は女も子供関係ないでしょうが俺たちには貴重な資源なんです。」


「ほう、どんな構成なんだ?」


「聞いた話じゃ、別嬪はエルフ、御者、騎士らしいです。それと男女のガキが一組。男のほうは器量が良いらしいから持ち込むところによっちゃ良い値がつくでしょう。問題は強そうな男の騎士いるらしいですが一人だけのようです。人質をとればどうにでもなるでしょう。騎士ってのは馬鹿ですから。」


「まぁ精々やってみるがいい。だが、お前らの実力じゃ夜も更けた頃を狙うのが無難だ。下の奴らにも伝えておけ。しっかり働けよ、リーダー殿。」


「はっ、はい!」


 『隻眼の赤神』は足早に草むらに駆け込むガロンのことなど眼中にないのか左目の黒革の眼帯に手を当てながら意中の方向を見つめ続ける。


(くくく。精々品定めの材料になってくれよ。骨の在りそうなのが2人か。後ほどお相手願うよ。)

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