表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を渡る石  作者: 非常口
第3章 渡界3週目
132/325

朝食

 食事の準備を各々が当然のように始める。若干二人の置いてきぼりを残して。


「なぁ、レム。」


「なんや、トーヤ。」


「まさかアレが朝食じゃないよな。」


「ウチもそう信じてんやけど。」


 二人が中々認められ無いもの、それは4人が貪る固い保存食が朝食とみなされていることである。もちろん二人ともレストランに並ぶような豪勢な食事を期待したわけでもないが、せめて現地調達の食材を使って温かい料理くらいは作るだろうと勝手ながら想像していた。


「二人とも何しているの? さっさと食べないと出発してからじゃ揺れのせいで食事がとれないよ。」


「そうだぞ。おいおい、まさか携帯食を忘れたんじゃあるまいな。」


 アリスネルとライナーが疑惑の視線を二人に送る。


「いや、アレって遭難時とかの緊急用の食べ物でしょう? こんなの毎日の食事で平気で食べ続けられるものじゃないじゃん?」


「そーや、そーや。」


 アリスネルのため息が響く。ライナーが呆れたように二人を嗜める。


「おいおい、匂いのあるものを調理すれば魔物や獣を呼び寄せちまう。当然、旅の食事は質素なものになるのは仕方ないだろう。それとも何か、昨夜のようにライラさんが作ってくれたお弁当が出るってのか?」


 その言葉を聞いて当夜はアイテムボックスを発動させる。アリスネルとライナーが頬を引き攣らせながらその様子を見守る。そこから取り出したのは缶詰とおにぎりだ。おにぎりはアイテムボックス内の時間が経過しないことを良いことに出発前に用意したものだ。


「おいおい、まさかそれがまだあるのか?」


「まぁ、全員で分ければ今日の朝と夜で終わる分だけならね。缶詰はまだまだ余裕あるけど、ご飯はまた炊かないと無理だね。」


「缶詰? 何だそりゃ、その銀色の塊か? そりゃいくらなんでも食えねーぞ。」


「そうよ。おにぎりだっけ、それも昨日の出立前に作ったものなら傷んでいるんじゃない。止めといた方が良いよ。」


「一応、アイテムボックス内は変化値が止まっているんだけど。そっか。じゃあ、二人は要らないね。フィル、レム、それと御者の人は名前を聞いていなかったかな、皆はどうする?」


 当夜がアイテムボックスからおにぎりを3つ追加すると3人の顔を見る。最初に反応したのは先ほどから何も話さず4人の動向を分析していたフィルネールは突然の振りにわずかに間をおいて受け取る意思を示す。続くはレムであった。そして、最後に御者でありクレートの懐刀であるレーテルが遠慮がちにそれでも嬉しそうに答える。


「では、私はご馳走になりましょう。」

(まぁ、解毒も心得ていますし、もしもの場合も大丈夫でしょう。それにトーヤのもたらす規格外を体験できる機会かもしれませんね。)


「ウ、ウチもー。」

(そ、そうや。トーヤはいつも不思議なものを、力を持っとるからこりゃひょっとするで~。)


「わ、私にもお願いします。」 

(これって、おじ様のおっしゃるところのチャンスなのでは。調べさせていただきます。)


 3人が泥沼に足を突っ込む回答をしたことにライナーは驚いていた。アリスネルに至っては当夜に除かれたことによる衝撃に自らを失っていた。


「おいおい! 主力と馬車使いを失うのは勘弁してくれよ。フィルネールも冷静になれ。」


 ライナーの制止が入る前に当夜は3人におにぎりと缶詰を配り終わる。


「その缶詰はこの突起を立てて、引くと。ほらね、焼き鳥が出てくんだ。」


 カキョッと音を立てて缶詰の蓋が開いて琥珀色の艶のあるタレが絡んだ焼けた鳥肉が姿を現す。同時に周囲に甘辛い匂いが広がる。近くに詰め寄っていたライナーが思わず唾をのむ。ライナーの反応に続いて女性陣が歓声を上げる。


「うわぁ。」

「へぇ。」

「す、すごい!」

「美味しそう。」


 当夜は精霊に感謝の言葉(食事のあいさつ)を捧げると自慢げに爪楊枝を刺して頬ばる。そして、おにぎりも口に運び、いかにも美味しそうに食べる。この世界の人々が通販番組を通してこの様子を見ることができたなら早速予約の電話が鳴り響いたことであろう。


「うん。やっぱ、これは安定のおいしさだな。温めてもうまいけど、コラーゲンの固まった煮凝りも食べれる常温のものも良いよね。それに米との相性抜群だ。」


 誰に言うでもない言葉だったが、物を手にしていた怪しい物体に手を出させるには十分すぎるインパクトであった。

 ほとんど同時のタイミングで缶詰が次々と開けられる。3人はもはや迷うこと無く鶏肉とおにぎりを口に運ぶ。周囲に広がる食欲をそそる匂いにお預けを喰らっている2人は底の見えない耐久レースに突入していた。


(うー。ここで食べるって言うのもおかしいし、かといって気にならないかっていうとすごい気になる。ていうか食べてみたい。)


(おいおい、あの缶詰とか言うもんは反則だろうよ。だが、調理して一日以上経ってんだろ? ここは誰かが踏みとどまらないといかん。その点、アリスさんはよくわかっている。)


(あれ? だけど、こういうのに意地を張っているから駄目なんじゃ? そうよ。ここで食べたいって言えばいいのよ。)


「あ、あの。私も...。私は止めておくわ。リスクは少しでも抑えた方が良いもの。」


(あ、あれ? どうして? そうじゃないのに。)


「そっか。じゃあ、この後みんなに悪影響が出なかったら考えてみてよ。」


「え、ええ。そうするわ。」


 アリスネルは唇をかみながらそう答えるしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ