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世界を渡る石  作者: 非常口
第3章 渡界3週目
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夜警

 時は星々が煌めく夜に移る。

 テントの外の岩場に二人の影が星空の背景をくりぬく。


「ふあぁ。眠い...。」


「寝てていいですよ。」


「大丈夫。ちゃんと負担は共有しないと...。」


「トーヤと一緒なら目が覚めたかもしれませんね。私で申し訳ありません。」


「そういうことじゃないわ!」


 フィルネールがアリスネルの口を手で覆う。


「静かに。ライナー様とレムさん、それに御者の方が目を覚ましてしまいます。」


「むう、むう!

 ふぅ。ごめんなさい。フィルが急に変なこと言うから。

 ん? だけどトーヤの名前が出なかったわね。」


「あの人は寝てないと思いますよ。」


「もう、また夕方の話につなげようとしてる。」


「あ、いえ。そうではないのです。ちょっと逆効果になってしまったかもしれませんね。」


「どういうこと?」


「いえ、この辺りでは魔物もいませんし、見張りなど不要なくらいの場所です。ですが、これから先のことを考えてライナー様とも話し合い、練習がてら夜警をすることにしたのです。」


「そうね。必要ね。レムは当然として、トーヤもそれほど旅慣れてなさそうだもの。」


「ええ。この旅はライナー様が主体の旅と捉えてくれるとよかったのですが、ライナー様もトーヤのパーティメンバーの一人、トーヤはパーティのリーダーとして責任感を強く抱いてしまったのではないかと。彼の空間把握の効果が未だに生き続けています。それこそ危険を求めるように広く広く探りをかけているかのようです。」


「そっか。トーヤならありえるわ。はぁ、ど真面目だからなぁ。

 うん。わかった。私が眠るように言っとく。」


「よろしくお願いします。そうですね。ひざまくらもありかもしれませんね。」


「結局のその話につなげるのね。もう、次はフィルがやってあげてよ。」


「あら、私がしてもいいのかしら?」


「うん。トーヤなら喜ぶと思うよ。私もトーヤを拘束し過ぎていたみたい。トーヤは物じゃないものね。」


(あらら。アリス、貴女にも効きすぎましたか。協調性を上げるために取った策とは言え少々荒療治が過ぎましたか。それともガラにもなくはしゃぎ過ぎたせいで私の方が近づきすぎたのでしょうか。)


 ここまでのフィルネールのアリスネルへの過剰なまでの干渉は自身が溶け込むきっかけをつくる意味合いとパーティの親睦を深めるためでもある。普段の彼女ならばここまで積極的に入り込もうともしなかっただろうし、与えられた護衛だけを完遂したであろう。彼女自身気づいていないところで騎士団という抑圧された集団からの解放と身分にかかわらない彼らの在り方にどこか惹かれてしまったのだろう。

 アリスネルがうつらうつらと頭で櫓を漕ぎ出す横で、フィルネールは夜の星空を見上げていた。


「ここは星がこんなにきれいに見えるんだね。」


「そうですね。少し手を伸ばせば届きそうです。」


「...あれ? トーヤ?」


「お疲れ様。交代の時間だよ。」


「あ、ありがとう。言っておくけど私はちゃんと起きていたわよ?」


「アリス、そういうのは言うと逆効果だぞ。ほら、早くベットに潜り込みな。」


「う~、信じてないし。わかったよ。じゃあ、お休み~。」


 アリスネルは先ほどまで覚えていた当夜にかける言葉を忘れるほど眠気に襲われていた。そのままお休みのあいさつを皮切りに無言のままいそしそとテントに潜り込む。


「はぁ。トーヤに伝えることがあったでしょうに。」


「ハハハ。まぁ寝坊助さんにしては頑張ったんじゃないかな。」


「しょうがないですね。まぁ、貴方も起きていたようですし、伝えたいことは届いていますね?」


「まぁね。だけど、気にしないで大丈夫だよ。僕は日頃からあまり寝る必要が無いからね。」

(さすが、フィル。僕の魔法遊びに気づいていたのか。何せ、夕方のアリスの介護で十分眠れたって言ったところで信じてくれないだろうしなぁ。おかげで寝ようとしても眠れないんだよね。)


 事実、当夜はこの世界に来て長時間睡眠をとった試しがない。もちろん気絶や【時空の精霊】との邂逅中は意識を手放しているが、睡眠とは別のものである。この世界では数十分の睡眠をとると地球で一日寝ていた位の充足感を得られるのだ。

 そんなわけで夜間のトーヤは【時空の精霊】の魔法を使っていろいろな実験を夜な夜な繰り返すことになる。まぁ、そのおかげで【空間把握】はもちろん、【遅延する世界】や【静止する世界】、【変化値の操作】といった高度な能力の開花につながることになる。現在の当夜の関心事は時空を絡めた攻撃魔法の開発である。こちらは結構難航している。


「あまり、ですか? どうやら私の見立て以上に複雑そうですね。具体的な睡眠時間を教えてもらえますか?」


「秘密。それより、フィルネールもライナーと変わらないとね。ちょいと起こしてくるよ。」


「あ、お待ちなさい。」


 フィルネールは回れ右をする当夜の襟首を捕まえて自らに引き寄せると耳元でささやく。


「逃がしませんよ。

 ライナー様はテント張りで頑張ってもらいましたから今は休ませてあげましょう。それより、さきほどの発言はどういうことですか?」


 闇夜なのに真剣な眼差しを向けられているとわかるほどに彼女の目線は真剣であった。


「そうだね。一応、3じゅ、3時間もとい3鐘くらい寝れば大丈夫だよ。それに今日はアリスのおかげで興奮気味だしね。」


「フ~ン...。」

(怪しいですね。私も嘘が苦手ですけど、トーヤも人のこと言えませんね。う~ん、どうやらまだ信頼を得てないということでしょうか。もっとスキンシップを図った方が良いのでしょうか。)


「何その反応。」


「いえいえ。結構効果あるんですね。では、私も試してみましょうか。」


 突然、フィルネールが腰かけたまま腕に力を込めると体重の意味を見失うほど軽やかに当夜の体が宙を舞う。その勢いのままにフィルネールの体に受け止められる。だが、彼女は衝突の力をいとも簡単に分散させてしまう。


「―――なっ! 何する、」


 当夜が言葉を最後まで言い終わるまで待つこと無く、フィルネールが自身の腿の上に当夜の頭を乗せる。当夜の後頭部にフィルネールのタイツ越しの体温が伝わる。


(うわぁ。や、柔らかい? へぇ、もっと筋肉ガチガチかと思ったけど全然違うや。)


「む。何か変なこと考えていませんか?」


「え゛っ! いやいや、思ったより柔らかいなと思っただけですよ。」


「はぁ。それ、割と失礼ですよ。」


「ご、ごめん。だってさ、僕をあんなに簡単に持ち上げちゃうくらいじゃん。そりゃ、そう思っちゃうのもやむなしでしょ? いや、ひどい言い訳だな。申し訳ない。その、気持ちいいってことは確かだよ。」


「そうですか。最初からそういってくれれば良いのです。フフ。」


「どうしたの?」


「いえ、思ったよりドキドキするものですね。ちょっと大胆になり過ぎました。私もアリスの影響を受けているみたいですね。」


「自分で煽った挙句、やってみてその一言は無いだろう。それより、下は岩だろ。足を痛めるぞ。」


 当夜がそっと頭を持ちあげてフィルネールの隣に座る。


「八方美人か。トーヤの評価としてこれほど当てはまる言葉はないですね。」


「フィルまでそう言うか。

 ありがとう。まぁ、気を張っている訳じゃないけどだいぶ気が楽になった気がするよ。」


「いえいえ。どういたしまして。それより、夕方のひざまくらの時にレギンスを外しましたけどずいぶん熱い視線を感じました。先ほども思い出してしまったんじゃないですか?」


「なっ!? そ、そんな視線向けてないよ。思い出してないし!」

(そんなこと言われると意識しちゃうじゃないか。)


「そんなに顔を赤くして否定されても怪しいだけですよ。アリスにも言っていたでしょう。」


「やれやれ、僕の得意技で逆に返されっちゃったか。って、そもそもこの暗さじゃ顔色なんてわからないじゃんか!」


「どうした? そんな騒いで。

 お、もう交代の時間過ぎているのか。さっさと起こしてくれりゃ良いのに。」


 ライナーがテントから這い出てくる。


「悪い。起こしちゃったか。」


「何だ? 邪魔しちまったか。出直そうか?」


「変な気を回すなって。フィルに遊ばれていただけだよ。ほら、ライナーも起きたことだし、交代、交代!」


「ちょ、ちょっと待ちなさい。もう、しょうがないですね。では、二人ともよろしくお願いします。」


 残りの時間はライナーと好みの女性像等の下らない話をして過ごすことになった。初日の夜警は懇親の場として十分に活かされた。

ライナーとの交流の場は後ほど加筆したいなぁと思っています。

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