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世界を渡る石  作者: 非常口
第3章 渡界3週目
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図書館を目指す

「あら、あら。トーヤ君。今日はずいぶん忙しいみたいね。」


 その日、当夜はしばらく顔を見せていないギルドに顔を出しつつ、依頼の具合を確認しに行っていた。そして、帰ってくるなりライラからこの一言である。別段、そんなに特別なことは無いはずだが。


「そんなことは無いですよ。まぁ、帰りが早かったのはギルドには挨拶に言っただけですからね。」


「え? だって、ついさっき帰ってきてそれは終えたって言っていたじゃない。今度は図書館に行くって言っていたじゃない。」


 ライラが玄関先で箒で掃きながら当夜にまじまじと見つめながら首を傾げて当夜には理解しがたい言葉を発する。


「え? 僕が図書館に?」


「そう、そう。そのとおりよ。調べたいことがあるって言っていたじゃない。もう、からかっているの?

 でも、そうね。ちょっと変だったのよね。今のトーヤ君は普通なんだけど、あの時のトーヤ君は何か不愛想っていうか、不気味っていうか、可愛さを感じなかったのよね。私の食指が動かなったもの。トーヤ君って二重人格なの?」


「そんなことは無いと思いますけど。」

(だとしたら、何者かが僕に成りすました? 誰が...。道化。そうだ、道化って名乗ったあいつが似たようなことをやっていた。まさか。

 だけど、いったい何のために? 図書館、調べもの。

 ———そういえば、あまりに大きすぎる課題だったから頭の隅に追いやっていたけど世界樹のことを調べてないや。でも、これと奴がつながる点が浮かばないし、別の理由か? 僕に会いたいだけなら以前のように直接会いにくるはずだ。だけど、言いたいことがあるなら直接話せばいいだけだしなぁ。やはり、道化では無い別の誰かか。う~ん、わからん。)


 当夜は一つの嫌な予測にぶつかっていたが、ライラは意に介すること無く笑っている。彼女曰くところの食指の動く当夜が来たことにより機嫌が良くなったのだろうか。当夜が物思いに耽っているとライラが声をかける。


「ごめんね。気のせいだったのかも。忘れて頂戴。」


 どうやら余計な心配をかけてしまったようだ。当夜はとりあえず図書館に向かうことにした。どうやら、こちらとの接触を量りたいのかもしれない。不気味ではあるが自身の知らないところで偽物が不可思議なことをしでかされるのもたまったものでは無い。いずれにしても、だいぶ落ち着いてきたことから当夜としても世界樹のことや世界の崩壊の情報を集めようと思っていた矢先である。丁度いい踏ん切りになったのも事実である。


「図書館に調べものに行ってきます。」


 当夜が覚悟を持った目でライラを見ると意思を言葉にして伝える。


「フフ。その台詞、二度目よ。いってらっしゃい。これも二度目かしらね。」

(あら、あら。余計なお世話だったかしら。)


 ライラが優しくその背を見送る。当夜の背中が門を潜ろうとしたときだった。当夜が再び反転して戻ってくる。ライラは満面の笑みで出迎える。


「あら、あら。トーヤ君。今日はずいぶん忙しいみたいね。」


「いえ、忙しくは無いのですが、図書館に入るのに必要な貴族の証明ってどうすればいいんですかね。」


 当夜は恥ずかしさに顔を赤らめて下を向く。


「フフッ。三度目の挑戦かと思ったじゃない。もう、トーヤ君。恥ずかしいからってそんな手の込んだ確認方法取らなくても、素直にお母さんに聞いてくれればいつでも答えてあげたのに。

 一応、貴族の紋章があるはずよ。ほら、胸に付けるやつ。そういえば、掃除の時にトーヤ君の部屋の机、もといライト様の机の中にあったような記憶があるわ。確か植物の葉で何かの魔法陣を覆うような形だったわ。」


「そうだったんですね。それより、勝手に僕の部屋に入ったってことですか?」


「そりゃー、お母さんだもの。男の子の大事なお宝は今のところ見つかっていないけど必ず見つけて見せるからね。」


 ライラが握り拳を高らかに掲げている。当夜はただただ苦笑いしながらライトが地雷を残していないことを祈るのだった。


 早速、ライトの机の中を確認すると国連の国旗に似た紋章を模った純金製のバッチを見つけた。ライトがデザインしたもののようだ。裏にはオーシャンの文字が彫ってある。


「じゃあ、僕は当夜 緑邊 オーシャンってか。やだな。

 まぁ、仕方ないか。」


 当夜はバッチを身につけて図書館に向かう。王宮の門兵に紋章を示してみたが見たことのものだと取り合ってもらえない。


「駄目だ、駄目だ。ここは貴様のような下賤の者が近寄る場所では無い。さっさと去れ! 

 ん? 貴族の紋章だと。ふん、こんな紋章は見たことがないな。貴様、この俺を馬鹿にしているならこの場でこの俺が処分するぞ! 俺はこの門を守る栄誉を授けられた優れた衛士だ。貴様のようなガキなどどうにでもできる!」


 困り果てて一旦引き下がろうとしたところにいつかの初老の紳士が声をかける。


「おや、またお会いしましたね。トーヤ様。」


「ん? これはクレートさん。お久しぶりです。」


「ク、クレート様! このような場所にいかがなされましたか?」


(まったく、我が軍の者はどうしてこうも馬鹿ばかりなのだろうか。前将軍はこの間の盗賊団との関与が露見してすでに処刑されたというのにまだ影響が残っているのか。まったく、ゾレックの奴はフィルネール殿にもずいぶんと迷惑をかけ、そしてトーヤ様ひいてはこの国にすら害をなしている。死を以ても許されんことだ。)


「貴様はこのお方をどなたと思っておる!? 後で上司に報告させてもらう。覚悟しておけ!」


「しかし、自分は職務に忠実に働いたまでであります! 何故、苦言をいただかなければならないのですか。」


 しかし、クレートは冷たく一瞥すると威厳の溢れる声でいい放つ。 


「馬鹿を言うな。国王様のお考えを愚弄するつもりか。王は国民を愛しておられる。それなのにその臣下が愛すべき国民、それも子供にそのような脅しを行うなどあり得ん。良いな、もはやお前たちを守る将軍はおらん。心して知らせを待て。」


 クレートは当夜を手招きして王宮に招きいれる。先ほどの衛士も悲愴な顔をして首を垂れている。


「先ほどの衛士さんにはあまりひどい罰を与えないであげてくださいね。こちらの紋章は長いこと使われていなかったみたいですし。」


「まったく、お優しいですな。わかりました。

 それにしても、最近はこちらに顔を出してくださいませんでしたな。フィルネール殿もずいぶんと心配されていましたよ。同時にお会いしたいようでもありました。どうかお時間をおつくりいただけませんか。」


「そうでしたか。それは失礼しました。お二人とも雲の上の方々ですから大した用事も無くうかがうのは失礼かと思いましてね。それにお忙しいでしょうから偶然でもなければ難しいでしょう?」


「それはそうですが...。今日もフィルネール殿は忙しそうでしたからな。そうだ、彼女の予定を聞いて食事の席でも設けましょう。その際にぜひ来ていただければ。」


「まぁ、フィルネール様のご負担にならない範囲であれば。」


(フフフ。最近ではトーヤ様からもらったダイヤが無くなって大変気落ちしていたから喜んで受けるでしょうとも。)


 最近のフィルネールは溜息をよく吐いているのを目撃されている。かの魔人の侵攻の折に彼女を守った通りすがりの遠国の騎士と遠恋に落ち、恋焦がれているという噂が流れている。

 これは嘘を隠せない本人から副隊長が根掘り葉掘り聞きだして推測した物語である。当の本人にこれを聞くと耳まで赤くなって逃げていくので一時期副隊長との追いかけっこが続いたものだ。やがて、騎士たちの間で副隊長の口から聞き取れる断片的なキーワードが噂をさらに大きなものにしていった。


 しばらく二人で近況報告をしていると一つのレンガ造りの建物にたどり着く。火事を恐れてか火の元になるような危険性から離しているようだ。門番にクレートが何やら吹き込むと顔色を変えて姿勢を正す。どうやらスムーズに図書館に入れるようである。クレートは用事があるとのことでその場から立ち去るが、おかげさまで様々な手間が省けたようだと当夜は感謝した。何者かが待つのか、あるいは大いなる課題への足掛かりが見つかるのか、今、当夜は、今後の動向を決める大きな一歩を踏み出したのだった。

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