表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

七薔薇物語

七薔薇物語 ―紫薔薇―

作者: 矢玉

七つの、七色の薔薇にまつわる物語です。

七人の少女と死の話。


色々な文体に挑戦してみました。


紫薔薇 逃亡の死

 逃げる娘、後ろを振り返り、振り返り、

 時には駆け、時には足を引きずり、時には歩む。


 靴擦れを気にするように歩みを緩めても、娘はけっして歩みを停める事はない。

 怯えた仔兎のように、ぴりぴりと背後に神経をとぎらせ、娘は歩みを停めない。

 腕に巻き付けたショールの薔薇模様だけが夜目に鮮やかで、娘のくすんだ金の髪や、汚れた身なり、怯えに潤んだ紫の瞳から浮いていた。


 それでも猶、娘はたいそう美しかった。


 汚れを落として着飾れば、王女とでも偽れる程に。

 その貌ゆえに昔、娘にはたいそうな値がついた。


 それでも猶、娘は逃げ出した。


 贅沢な食事、豪奢な衣裳、甲高い嬌声の響く、白粉臭い館から


 雷鳴に似た怒号があがると、娘は跳び上がるように走り出す。

 怯えに凍りついた紫の瞳、恐慌に強ばった顔、


 娘は走る、走る、走る


 窶れた頬を紅潮させ、息を切らせ、喉が喘鳴を漏らせても。


 娘を追う、声、声、声


 下卑た声、下劣な声、まるで獣の咆哮。


 (きざはし)に脚を掛け、駆け上がろうとした娘の小さな耳殻に届いた渇いた音。



 渇いて響いた一つの音、輒、銃声。


 娘の薄い胸に紅の華が咲く。

 膝から崩れ落ち、娘は(きざはし)の半ばで倒れ伏す。


 娘から溢れ出した命の紅の血は、(きざはし)を赤々とつたい、脱げ転がった黒いフェルトの片靴をぐっしょりと濡らした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ