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第7章

 右近徳太郎氏は、対ドイツの初戦終了から後のことを次のように語っている。

 「実は前半終了直後に石川監督から鈴木コーチを介して観客席で観戦していた我々サブのメンバーに指示がありまして、試合が終了したら、ともかくすぐに試合会場から出るように、ひたすら一目散に宿舎としていたホテルまで向かうようにと言われました。指示を伝えた鈴木コーチによると石川監督は戦場で培った勘だが、ともかくこの試合会場から試合が終了次第に逃げだすというと語弊があるが、すぐに出た方がいい、何か嫌な予感がすると言われたそうです。実際、9対0で試合が終了した直後、試合会場は余りのショックからか、静まり返っていたように覚えています。そして、何とも嫌な空気というか気配が漂ってきました。それで、事前に指示があったこともあり、我々はすぐにホテルへ全員が向かいました。レギュラーメンバーも監督やコーチも含めて、試合が終了すると脇目も振らず、ホテルに向かったそうです。我々は、本当に幸運だったと思います。試合終了から時間が経って、現実が理解されるにつれ、試合会場に入りきれずに周囲にいた人も含めて、試合会場にはただならぬ雰囲気が醸し出されたと言います。ラジオで実況中継をしていたアナウンサーは「これは悪夢ではありません。現実です。ドイツ代表が初戦であの日本代表に9対0という大敗を喫しました。優勝候補の一角と言われていた我がドイツ代表が初戦で歯牙にもかけていなかった日本代表に1点も入れることが出来ずに9点も取られて大敗するとは。私にも悪夢としか思えません。しかし、現実なのです。」としゃべっていたとか。そのラジオを聞いた影響もあったのでしょう。試合会場に入れなかった人たちも含めて観客達は興奮してきて、試合会場のフィールドに乱入し、ドイツ代表の選手や監督やコーチ等に対して、暴行をふるったそうです。もし、日本代表の面々がその場にいたら、絶対に暴行の被害者になったでしょう。いつも冷静なイメージのあるドイツの観客がこれほど興奮したのは、後にも先にもこの時だけではないでしょうか。

 そして、このラジオの実況中継が有名になり、ドイツでは、この日本対ドイツの試合のことを「ベルリンの悪夢」と呼ぶようになりました。ドイツ代表監督は敗北の責任を痛感して自発的に辞表を出しましたが、有色の劣等民族に大敗することはアーリア民族にあってはならないことだ、とヒトラー総統が激怒していて、その意向を受けたドイツサッカー連盟によって免職処分を食らったとか。たかがサッカーの試合のことで、と思われるでしょうが、当時はそんな時代だったのです。

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