第9章
右近徳太郎氏は、ベルリンオリンピックの対ドイツの初戦からイタリアとの決勝戦までの間について、次のように述べている。
「正直に言って、ベルリンオリンピックで日本代表の全部の試合を観客席から私は観戦したのですが、準々決勝の対イギリス戦、準決勝のスウェーデン戦と進むにつれ、日本代表の実力を正当に評価して、各国の代表が日本代表に対処してきているというのが分かりましたね(註、ベルリンオリンピックのサッカー競技は、16か国が参加したということもあり、敗者復活なしのトーナメント方式で行われたため、2回戦が準々決勝になった。)。
イギリス代表との試合は、ドイツ代表との次の試合だったこともあり、試合会場からの多くの観客からは、イギリス代表に勝ってほしい、ドイツ代表の屈辱を晴らしてくれ、という意思を感じました。その一方で、もし、日本代表が大敗したら、ドイツ代表にとって恥の上塗りになる、日本代表に善戦してほしい、という一部の観客からの意思も私は感じましたね。思い出してみれば、オリンピックの間中、試合会場では似たような空気というか、雰囲気を感じ続けたように思います。イギリスとの準々決勝ですが、イギリス代表も当初は日本代表のカウンター攻撃に引っかかってくれたのですが、後半開始早々に3点目を日本代表に取られてからは、ひたすら守りを固められてしまいました。これ以上に点を取られて大敗したくないと思われたのでしょう。この時代の日本代表の戦術というのは、実は守備を重視していて、攻撃はカウンター攻撃がメインなのです。実際に石川監督が指揮を執っていた時代の日本代表は親善試合も含めて全部で10試合を行っていますが、全部無失点で勝利を収めています。しかし、この時の日本代表には日本史上最高、世界史上でも屈指のエースストライカー相良がいて、それを大友等の攻撃陣が巧みにサポートしていました。だから、相手に守りを固められても、この当時の日本は自信を持って攻撃により、相手の守備を崩すことができ、最終的には5対0で勝利を収めることが出来ました。
準決勝のスウェーデン戦は、私の記憶の中では、ベルリンオリンピックで一番の難戦でした。スウェーデンは開始早々から個々人の選手の体格差を生かし、マンツーマンの徹底した防御を行ってきました。スウェーデンとしては、1対0で勝てればいい、ともかく守備固めを行って、日本代表と戦うと腹をくくられていたのでしょう。こうなると日本側から攻撃を仕掛けるしかありませんが、個々人の体格差を存分に生かしたマンツーマン防御を崩すというのは、この時の日本代表にとっても至難だったみたいで、前半終了間際に1点を取ることはできましたが、後半30分頃まではその状態が続き、冷や冷やモノでした。最終的にスウェーデン代表の方が体力が持たなかったみたいで、後半30分過ぎから日本代表は2点を得点して、3対0で勝利を収め、日本代表はベルリンオリンピックの決勝戦に駒を進めることが出来ました。