十月二十三日(水) -4-
「はい。彼女の周囲に不気味な気配を感じた物ですから。警告をさせて頂きました」
「奇妙よね。ハチとアンタは別の寮なのに。第三寮の食堂になんの用があったんだろ?」
「知人を訪ねるつもりでした。食堂で会ったのは偶然です」
「でも、ハチを知ってるようだったけど?」
「知人の風紀委員から聞いていたのです。個性的な新入生が入ったと。それでつい親近感を持って話しかけてしまいました」
「なるほどね。桝村美佳子からアタシ達が捜査に来たことを聞いて、脅しに来たんじゃないの?」
「わたくしが人を脅すような人間に見えますか?」
柔和な、どことなく人を安心させる表情を作った。
「アンタの素敵なところは、良しも悪しも自分のことをわきまえている点にあるわね。ハチと食堂で会ったことについては偶然ということにしておくわ。問題はその後。アタシはこう考えてるのよ」
純理の反応を気にするでもなく先に進める。
「ハチに対して効果を十分上げたと判断したアンタは、アタシに脅しを掛けるべく六寮に向った。もっともハチとは違って、強引な手を使うつもりだったんだろうけど」
「強引な手、と言いますと?」
「力づくってやつ。初等部でやってた空手は、それなりのもんだったのよね」
窮したとは言え、アカデミーナンバーワンと称される真樹に仕掛けるほどなのだ。
「それを使って脅しを掛けるつもりだった。桝村美佳子と二人掛かりで。慎重なアンタのことだから、しばらく桝村美佳子に部屋を見張らせていたんじゃない?」
「なかなか面白い推測ですね」
「だけど、それはできなかった。想定外の事態があったの。それが副会長よ」
「私、ですか?」
思わぬ展開に沙耶が驚きの声を漏らした。
「あの日、副会長がアタシの部屋に来ていたのよ。来訪者の件で相談があってね」
「確かに私はリアルさんの部屋にお邪魔しました。二十時前だったと記憶しています」
「しばらくして副会長は帰ったわ。でも、アンタ達が行動を起こす前に、もう一つイレギュラーが起こった。動揺したハチがやってきたの」
チラリとハチの方に視線を投げる。
「それを見たアンタ達はプランを変更した。ハチを使って脅しを掛けることにしたのよ。アタシが捜査を続ければ、ハチが危険な目に遭うぞって、ね」
「なんと卑劣な」
沙耶が侮蔑の言葉をこぼす。
「食堂での話を聞いた時点で、そのリスクは直ぐに思い至った。でも、アシスタントを解任すれば大丈夫って高を括ってた。アタシは取り返しのつかないミスをしたのよ」
後半は自分を責めるような口調だった。
思いつめた表情は、普段の陽気で傍若無人な彼女からも、卓越した分析力を発揮して謎解きをする勝気な彼女からも、想像できない一面だった。
「詩方」
真樹が漏らす。
その力を認めつつも、相容れない性格である彼女には、どう言えばいいのか見つからない。
「おい、米川! お前はなんとも思わないのか!」
結果、その憤りに近い感情は矛先を変えた。
「人を傷つけてまで自分の我を押し通すのが、本当に正しいと思っているのか!」
しかし、純理は全く意に介する風も見せずに、大袈裟に溜息をついてみせる。
「根拠もなく犯人扱いするのは、止めてもらえませんか。八房さんに怪我を負わせた犯人には、わたくしも怒りに近い感情を抱いています。だからと言って、無実のわたくしを犯人に仕立て上げるのは、あまりに無法でしょう?」
「貴様! その腐った性根を叩きなおしてやる!」
「待って! 風紀委員長、気持ちは嬉しいんだけど、ここは抑えて欲しいの。お願いだから」
「しかしだな!」
「言い逃れできない証拠を、突きつけてやればいいだけなんだから」
そう言われると、真樹も引き下がらざるを得ない。
「さて、話を戻すわよ」
深呼吸を一つして、熱くなった頭をクールダウンする。




