十月二十三日(水) -1-
十月二十三日(水)
「ようやく準備が整ったわ。悪いけど、移動してもわうわよ」
一時間後、会長室に戻ってきたリアルは開口一番そう告げた。
向かった先は第六寮、二階最深部。
レクリエーションルーム。
レクリエーションルームは、各寮に完備されている。
広さは二十畳ほど。食後のお喋りや遊戯の場だ。
第六寮にもレクリエーションルームはあった。
しかし、入居者が一人となった今は使用禁止となっている。
会長室でリアルが彩音に頼んだのは、そこの使用許可だった。
深夜一時。
通称『お化け寮』と称される第六寮は不気味な雰囲気を放っていた。
ガタガタと隙間風に音を立てるドアを開け、ギシギシと不快な声を上げる廊下を進む。
平然とした純理とハチ。どことなく楽しそうな彩音に比べ、沙耶の怖がりようは滑稽だった。
平静を装っているつもりだろうが、その顔は血の気を失った上に強張り、クールビューティぶりは完全に霧散。
僅かな物音が起こる度に、小さな悲鳴を漏らしてしまう。
レクリエーションルームに着いたところで、先頭を歩いていたリアルが振り返った。
「副会長、そんなに怖がる必要ないわよ。現にさ、アタシはここで生活してんだから」
「こ、怖がってなんていません。私はただ、その、そうです。こんな時間に大きな音を立てるのは非常識。周囲の迷惑になります。だから、なるべく静かに進んだだけです」
「入居者はアタシしかいないのよ?」
「心構えの問題です」
「心構えね。確かに入居者はアタシだけだけど、住んでるのはアタシだけじゃないしね」
リアルの言葉が指す相手を推測して、沙耶が悪寒に身を震わせた。
「この時間になると確実に出るのよ」
「な、何が出ると言うのですか。そもそもですね……」
不意に、最後尾であるはずの沙耶の後ろで、ギシシと床が軋んだ。
「ゆゆ幽霊なんて、ひひ非科学的な……」
沙耶が震えながら呟く。と、その肩に背後から手が置かれた。
「ひぃぃやぁぁぁぁ!」
女の子らしい悲鳴を上げ、そのままへたり込んでしまう。
驚いたのは、沙耶だけではなかった。
沙耶の肩に手を置いた真樹も、大袈裟な反応に目を丸くしていた。
いつも気難しい顔をしている彼女にしては、実に珍しい表情だ。
「ふん、無様にもほどがありますわ」
「いやいや、こういうのもアリだと思うよ。ギャップがあってさ」
あからさまに呆れる純理に比べ、彩音は実に嬉しそう。
「風紀委員長、おかえり。どうだった?」
リアルの声に、固まっていた真樹が我に返った。
上着を脱いで白いシャツ姿、袖をまくり上げ逞しい二の腕を露にしている。
「確認は取れたぞ」
「ありがと、後で聞かせてもらうわね」
「それは構わないが」
足元でしゃがみ込んでいる沙耶に視線を落とす。
涙を溜めてじっと睨んでくる沙耶。
その目には殺気に近い敵意がこもっている。
「一体、なんなんだ」
「ま、ドッキリ大成功ってやつよ」
全然説明になってない。
しかし、リアルはそれ以上説明する気がないのだろう。
くるりと踵を返しドアに手を掛ける。
「さ、中に入って。ここで全ての決着をつけるわよ」
※ ※ ※
「これって、なんなの」
部屋に入ったハチが、思わず漏らした。
いや、ハチだけではない。
リアルと真樹を除いた全員が一様に驚きの色を浮かべていた。
蛍光灯に照らされた室内は異様だった。




