十月二十二日(火) -15-
「わたくしも、ですわ」
蹲っていた純理が顔を上げた。
「わたくしも手紙で呼び出されたのです。その時に粘着テープを持ってくるようにと指示されていたのです」
「ふん、言い逃れのつもりか。見苦しい」
真樹は辛辣だ。
「本当ですわ。わたくしが底の浅い嘘を付くはずがないでしょう」
「なら、手紙をみせてもらおうか」
「もうありません。燃やしてしまいました」
「そんな寝言で納得すると思っているのか!」
真樹の怒声に、純理ががっくりと頭を垂れる。
「まあ、これにて一件落着だ。しかし、随分と手間を掛けさせられたな。ん、どうした?」
いつも小うるさいリアルが、ずっと黙り込んでいるのに気付いた。
「犯行直後に現場付近に現れた。それも大きな物証である粘着テープを持って。ねえ、話が上手くまとまり過ぎてる気がしない?」
「どういう意味だ?」
「安っぽい演劇って思わない?」
「考え過ぎだ」
「単純ね。アタシ達は誰に踊らされているのよ」
「誰かに、だと? 誰にだと言うんだ?」
「来訪者よ。今までの来訪者とは違う来訪者。言うなれば……」
全員を見回して、リアルが告げる。
「八人目の来訪者、のね」
八人目の来訪者。
その単語に誰もが言葉を飲み込んだ。
「でも解んないのは犯人の目的よ。犯人は何故手首を切ったんだろ」
「七不思議をなぞっただけだろう」
「そこよ。どうして、七不思議に拘る必要があったのか。それが見えないの」
ちらりと彩音に視線を投げる。
「正直、解らないわ。犯人が何を考えてるかなんて」
彩音がお手上げとばかり両腕を挙げた。
「犯人が本物の来訪者だとしたらどうです?」
奇妙な意見を口にしたのは純理だ。
「結果的に五つめの事件が起きました。偉大なる六人の愚者の屍が路を開く。その伝承に従えば、あと一人の犠牲者で、来訪者はこちらの世界にやってくることができるのです」
「ここに来てオカルトか。下らんにもほどがあるな」
切り捨てる真樹に、純理が皮肉な笑みを見せる。
「頭の悪い人はこれだから嫌なのです。伝承や奇譚の中には、真実が含まれているのですよ」
「つまり、もう一つ事件が起これば、来訪者とやらがやってくるわけか。そんな話が現実にあるなら、風紀委員全員で歓迎してやってもいいぞ」
体躯通りの豪胆な態度で笑い飛ばす。
「ちょっと待って」
リアルだった。
「今までの事件は、人形による模倣事件に過ぎないわよ。それでも効果があるっていうの?」
「どうでもいいのです。人形だろうが、人間だろうが。それは瑣末なことなのです」
「どういう意味?」
「古来より召喚儀式には、幾つもの条件を揃える必要があります」
「知ってるわ。床に変な図形を描いたり、奇妙な呪文を唱えたりするんでしょ。生贄を捧げたりとか、時間指定ってのもあったわね」
「なんの為にそんなことをするか御存知ですか?」
肩を押さえながら、純理が立ち上がった。
居並ぶ五人を順々に見渡す。
だが、誰も答えを返すことはできなかった
「空気を作るのです。未知の存在がやってくるという空気を。儀式が複雑であれば複雑であるほど、犠牲が大きければ大きいほど、何かがやってくるに違いないという強烈な空気を生み出せるのです」
「でも、それってただの思い込みよね」
「ただの暗示。思い込みです。でも多くの人の思いが集まれば、思念は渦となり、現実が歪むのです。それが古来より魔術だの奇跡だのと言われてきた物の本質なのです」
「非現実的にもほどがあります。来訪者なんてただの迷信、いえ、一部の生徒が生み出した下らない怪談話。それだけです」
沙耶が意見を口にした。
オカルト関連が苦手なせいか、やや冷静さを欠いた様子だ。




