十月二十二日(火) -14-
「横暴な! これは立派な権利の侵害です!」
「権利の侵害ね。いいだろう。権利とやらを通したければ、力づくでやってみればどうだ?」
「どけと言ってるでしょ!」
一喝。と、同時に踏み込む。
大きく上半身を捻り、いきなり拳を繰り出した。
体重を綺麗に乗せた、体格差を物ともしない一撃だ。
不意を衝かれる形となった真樹の腹部、鳩尾部分に見事にヒットする。
改心の一撃に、純理の口元が緩んだ。が。
「お前は少し痛い目に会う必要があるみたいだな」
押し殺した声で真樹が告げる。
危険を感じた純理が拳を引くよりも早く、真樹が手首を掴んだ。
「ちょっと離しなさい!」
なんとか振り解こうとする純理だが、アカデミーナンバーワンを誇る握力はびくともしない。
「喋るな。舌を噛むぞ」
そう忠告すると、掴んだ腕を引いた。
思わずバランスを崩す純理の足を素早く払う。
純理の身体が跳ねたように見えるほどだった。
そのまま床に胸から叩きつけ、容赦なく腕を捻り上げる。
純理の悲鳴が会長室に響いた。
「そこまでしなくても。加減って物があるでしょうに。まったく」
リアルが大きく溜息をこぼした。
他の三人は、驚いて固まってしまっている。
「こういう輩はな、ちょっと痛い目に会った方がいいんだ」
そう言いながら、捕らえていた腕を放す。
「しっかしタフね。あれだけ綺麗に殴られたのに。やっぱり脳が鈍感だと違うわね」
「どういう意味だ」
「褒めてあげてるの。素直に喜んでいいのよ」
「どこが褒め言葉だ!」
「まあ、それはともかく」
蹲っている純理に目を向けた。
純理は肩口を押さえながら、身体を丸くして痛みに耐えていた。
目を潤ませながらではあるが、それ以上に喚いたりしないのは、なかなかの精神力だと言えだろう。
「アンタには、まだ聞きたいことがあるのよ。ん?」
近くに転がっている物に気付いて声を上げた。
投げられた拍子にポケットからこぼれたのだ。
リアルが拾い上げたそれに全員が息を飲む。
粘着テープのロールだった。
かなり使用されており、随分と小さくなっている。
「どうやら、これで決まりだな」
「ちょっと待って」
勝ち誇った表情を見せていた真樹をリアルが制する。
「まだ犯人と断定するのは早いわ」
「何を言っているんだ。これほど確実な証拠が出たんだぞ」
「解ってる。でも、気になってることがあるのよね」
「私、ですか?」
視線を向けられた沙耶が驚きを滲ませる。
「まさか、沙耶を疑ってるの?」
途端に彩音が声を上げた。
「いえ、リアルさんの仰る通り。私にも疑われる部分があります」
動揺の引いた沙耶が、静かに立ち上がる。
「米川先輩と同じ疑問。どうしてあの時間、あの場所にいたか、ですね」
「うん。聞かせてもらえる?」
「実は呼び出されたのです。来訪者を名乗る者から手紙で」
胸ポケットから折り畳んだ白い便箋を一枚出した。
「ちょっと見せてもらうわね」
広げた紙には赤い片仮名が並んでいた。
極端に右上がりの筆跡は、ハチの部屋でバラ巻かれていた物と酷似している。
「火曜の夜十一時に北校舎裏へ来い、か。不自然な癖は、筆跡を隠す為と見て間違いないわね」
「今朝、自室のドアに挟んであったのです。怪しいとは思ったのですが、確認してみるしかないと……」
「ちょっと待って。今日の夜は用事があるって言ってたでしょ」
彩音が割り込んできた。
「私、聞いてないよ。聞いてなかったよ。どういうこと、どういうことなの?」
「それは、余計な心配を掛けないようにと」
「どうして勝手なことするのよ! 相談もしないでさ! 沙耶が襲われたかもしれないのよ! もし、そうなってたら……そうなってたら……」
感情に言葉を詰まらせる。
小刻みに震える肩が、その心情を雄弁に語っていた。




