十月二十二日(火) -13-
「お前、聞こえてたのか?」
「違うわ。そうなるだろうって予想してただけよ」
「どういうことなの。それ」
皆の中に生まれた疑問を、彩音が代表して口にした。
「とにかく場所を変えよっか。ここだと、ゆったり話せないでしょ」
リアルの提案に全員が頷いた。
※ ※ ※
ひとまず会長室に戻った。
風紀委員達の捜査の邪魔にならないようにという彩音の配慮と、聞きたい事があるというリアルの希望の結果、会長室が最適となったからだ。
会長室の隅、ミニテーブルのソファーに六人が集まっていた。
生徒会長の藪坂彩音。副会長の河原崎沙耶。風紀委員長の鷹壱真樹。重要参考人の米川純理。
そしてハチこと八房智美に、詩方真実である。
「どういうことか説明して頂きたいんですけど?」
気まずい沈黙を破ったのは、純理であった。
「あそこで事件があったもんでね。ちょっとみんなから話が聞きたいのよ」
「事件?」
リアルの説明に訝しげな表情になる。
「実はあそこで暴漢に襲われた子がいるのよ」
「それはどういうことなのです!」
半ば反射的にソファーを蹴って立ち上がった。
純理にしては過激なリアクションだ。
「まあ、ちょっと落ち着いてってば」
「落ち着いていられることではありません!」
「やっぱり友達のこととなると心配なのね」
「当たり前でしょ!」
バンとテーブルを叩いた。
「ところで、素朴な質問を一ついい?」
「なんですの!」
「アンタ、どうして被害者が誰か知ってるの?」
リアルの指摘に、純理の表情が強張る。しかし。
「知っていたわけではありません。事件が起これば、誰でも被害者を心配するものです」
すぐさま、そう切り返した。
「確かに一理あるわね。でも私はアンタの友達だと言ったはずよ。普通、友達と聞けば誰か気になるもんでしょ。あの時間、あそこにいた人を知ってたら別だけどね」
言葉に詰まった純理が、唇を噛んだ。
「馬脚を露わしたな」
真樹がゆっくりと立ち上がり、純理を睨みつける。
無言の圧力に、純理が無意識に後退った。
「お前は桝村をあの場所に呼び出し、襲い掛かった。そうだろう」
「バカバカしいですわ。根拠のない言い掛かりは止してください」
「なら、どうしてあの時間、あの場所にいたのか説明できるか」
「ただ散歩をしていただけです」
「散歩だと?」
「そうです。わたくしは原稿に行き詰まると、気分転換に校内を散歩することにしているのです」
「今回も、その散歩中だったというわけだな」
「そうです。偶然性を説明することはできませんけど」
「お前の部屋は風紀委員が見張っていた。どうやって気付かれずに部屋を出た」
「見張りの方が席を外しておられたのでしょう。それも偶然です」
「窓から出たんでしょ。アンタの部屋は一階なんだから」
リアルが割り込んだ。
「あら、そんな証拠がどこにあるというのです?」
「簡単よ。今からアンタの部屋の窓を確認して来てもらえばいいの。鍵が開いていれば、そこから出たということになるわ」
「わ、わたくしは常に窓の鍵を掛けて生活しているわけではありません。だから」
「じゃあ窓周辺を調べてみるのね。アンタの履いてる靴の跡が、残ってるはずだから」
「くっ……」
「最早言い逃れはできないな。諦めろ」
「バカバカしい。こんな下らないことに付き合ってられません。帰らせて頂きます」
くるり踵を返し、早足でドアに向う。
「待て」
純理の前に真樹が回りこんだ。
その体躯に似合わず機敏な動きだ。
「どいて下さい。わたくしを拘束する権利はないでしょう」
「残念ながら、逃がすわけにはいかん」




