十月二十二日(火) -12-
「謀は密を持って良しとするって言うでしょ」
語尾を強める沙耶に対し、リアルが端的な答えを返した。
「しかしですね」
「沙耶、あなたの気持ちは解る。けど、今はそれを問題にしている時じゃないの」
「彩音が、いえ、会長がそう仰るなら仕方ありません。でも後でちゃんと説明していただきますよ」
「風紀委員長が納得のできる説明をしてくれるから安心して」
「おい、詩方!」
「まあ、そんなことより、この事件よね」
非難のこもった真樹の視線を、リアルは涼しい顔で受け流す。
「桝村先輩は、リアルさんが誘き出した犯人に襲われたのではないでしょうか」
「それは有り得ないわ。だって、アタシが誘い出したのは、桝村美佳子本人だから」
「まさか。来訪者事件の犯人が、桝村先輩ということですか?」
予想もしていなかった一言に、沙耶の顔色が変わる。
「い、いえ、一連の事件で大きな利益を上げていたのは、他ならぬ第四新聞部です。彼女達が売上の向上を目指して企んでいた。有り得ない話ではありません」
左の人差し指と中指で、眼鏡をくいっと上げた。
月の光がキラリと反射する一瞬で、本来のクールな彼女に戻る。
「やはり、桝村が犯人だったか。あいつの言動は怪しかったからな」
逆に真樹は納得した様子だ。
「しかし、呼び出したのは零時だったはず。それがどうして、こんな時間にここにいたか、だ」
「それが見えないのよね」
「リアルちゃん、シンプルに下見って考えられないかな?」
「勝手知ったるアカデミーの中よ。下見をする必要なんてないわ。ね、ハチ、アンタもそう思うでしょ?」
頼りない助手の意見を求めるべく、首を後ろに向けたところで、その姿がないのに気付いた。
ハチはみんなから少し離れた校舎の側で、うずくまっていた。
「どうしたの?」
「ごめん、ちょっと気分が悪くなって。私ってやっぱりガッカリちゃんだよね」
駆け寄ってくるリアルに顔を上げた。
血の気が引いて真っ青だ。
「八房には刺激が強すぎたようだな」
「大丈夫? 顔色もすごく悪いよ」
「保健室で診てもらった方が良さそうですね」
リアルに続いて三人が心配を口にする。
「心配掛けてごめんなさい。邪魔になるといけないから……」
「ちょっと待って」
ふらふらと去ろうとするハチを、リアルが呼び止めた。
「ハチ、悪いけどもう少しだけ頑張って欲しいの」
「リアルさん、無理をさせる必要はないと思います」
「そうだ。八房はこういうのには向いてないのだからな」
「外野は黙ってて。アタシはハチに頼んでるの」
リアルのにべない一言に、更なる反論しようとするが。
「二人とも落ち着いて」
彩音が割って入った。
「決めるのはハチちゃんよ。どうする?」
「ハチ、お願いよ」
「うん、解った。私はリアルのアシスタントだもん。頑張ってみる」
弱々しい笑みを浮かべて答えた。
「ありがと。助かるわ」
と、そこで、風紀委員の一人が駆け寄ってきた。
「風紀委員長、よろしいですか?」
「ん、どうした?」
真樹が四人から少し離れて報告を受ける。
「何かあったみたいですね」
「あまり好ましい内容には思えないけど」
強張っていく真樹の表情を見て、沙耶と彩音が意見を交換する。
「すいません。お待たせしました」
戻った真樹が小さく頭を下げた。
「今、報告がありました。実は先ほど……」
「付近をうろうろしていた怪しい奴を捕縛したんでしょ」
リアルの発言に、真樹は思わず言葉を失った。
「しかも、それがこの事件の有力容疑者、米川純理だって」




