十月九日(水) -9-
いきなりの乱入者に慌てつつも、彩音を庇う位置に沙耶が立つ。
「会長! 外で外で外で」
血走った目、蒼白になった顔。完全に取り乱している。
「落ち着きなさい! 何があったのか明瞭に!」
沙耶に怒鳴られて、びくっと肩を跳ねさせた。
が、それをきっかけに、少し落ち着きが戻る。
「あの、えっと、外で。屋上から飛び降りて」
眼鏡の奥で見開かれた沙耶の瞳が、机の上に投げ出された手紙を追った。
血よりも赤い、赤過ぎる文字。
生徒会長様がこの手紙を読み終える頃、一人目の愚者がその屍を晒しているだろう。
そのフレーズが脳の中で何度も繰り返される。
あれはただの悪戯。有り得ない。来訪者なんて存在するはずがない。あんなのどこの学校にでもある安っぽい怪談話の一つ。
解っているのに!
本能的な恐怖が身体を支配してしまう。
ただ震えて立ち尽くすしかできない。
「沙耶!」
彩音の声が沙耶の呪縛を解いた。自由になった感覚で彩音を探す。
既に彩音はドアから外に出る所だった。
「行ってくるから、各委員に召集を掛けておいて!」
「はい!」
沙耶の返事を背中に彩音が走り出す。
陸上部で鍛えた俊足で、廊下を駆けていく。
追いかけたいところではあるが、沙耶の足では到着が遅くなるだけ。
会議室の放送器具で委員の召集を掛け、サポート体制を整えるのがベスト。
「助かりました。貴方のお陰で迅速な対応が取れます」
報告を終え、魂が抜けたみたいに足元で座り込んでいる少女を、優しく助け起こす。
「本来なら、きちんとお礼を言わねばならないのですが、今は切迫した状態です。もう少しお手伝いを願えますか?」
「あ、はい」
「では、会議室の方に」
まだふらつく少女を支えながら、会議室に急いだ。
※ ※ ※
校庭と校舎を隔てる三メートル程のコンクリート通路。
安全面を考慮して、校庭側には一メートルほどの植え込みと、更にその外側に高い防球フェンスがある。
青いブレザーとプリーツスカート。アカデミーの制服に包まれた身体。
手足を大きく広げてうつむきに横たわったそれを、誰もが食入るように見つめていた。