十月二十二日(火) -10-
「目安箱が見抜かれたってことは、実行犯は偽の手紙で吊り上げられちゃうか。生徒会の鍵という、物証も押さえられてる。もはや、ここまで。進退窮まったって感じね。でも」
軽い反動を付けて、立ち上がる。
「でも、そんなことをして、私になんの得があるの! ただの言い掛かりよ!」
バンと机を叩き、リアルをキッと睨みつける。
「と、見苦しく言ってみたりして」
直ぐに厳しい表情を崩す。
「動機ね。もちろん、それについても推測はついているわ」
「え、嘘?」
「アタシを誰だと思ってるの? 第六寮の少女なのよ」
にぃっと犬歯を見せた。
「この計画が上手くいけば、神有祭の集客は増え、財政は一気に回復する」
「そうなんだよ。全てはアカデミーの財政を立て直す為なんだよ。ね、こんなことを言うのは、卑怯だと思う。でも、あと少しなの。私に協力して」
彩音が深々と頭を下げる。
「やれやれ、仕方ないわね。アタシもこのアカデミーに愛着を持ってる一人だから」
「ありがとう!」
顔を上げると、ぱあっと笑顔を作る。
太陽を思わせる陰りのない表情だ。
「なんてね。アタシがそんな嘘に騙されるわけないでしょ」
「ど、どういう意味かな?」
「アンタの目的は財政の建て直しなんかじゃない。その先にあるものよね」
ぴくりと彩音の頬が強張る。
「こんな大掛かりなイタズラ、一人で仕込めるもんじゃない。五体の人形を用意するだけでも一苦労よ。それにインターネット上の噂。広がり方が早過ぎる。まるで決められたタイムテーブルに沿って動いてるみたい。これらを考えると、アカデミーの外でこの計画に加担している人間がいるのが解る。それもかなりの数がね。はて、子供の悪戯に付き合う物好きがそんなにいるもんかな」
ここで言葉を止め、やや間を取った。
「この騒ぎで集まった客に残るのは失望だけ。来年以降の客は大幅に減少する。ただでさえ神有祭の集客が低下してきている今、この一撃は致命傷になるわ。そして、神有祭の収入減はアカデミー財政の破綻に繋がる」
彩音の顔から微笑みが消えた。
それを気にせずリアルは続ける。
「アカデミーに反対している人間は多い。優秀な生徒を集めて人材を育成する。この構造が特権主義的価値観を生み出す、とか騒いでるバカ連中もいるし。葵を列強としているのは優秀な人材。それを支えているのがアカデミー制度。異国にとって最も邪魔な機関よね」
「私がそんな連中の手先だって言いたいわけ? くっだらない。そういうバカを利用したのは確かだけどね」
悪意が含まれた笑みを浮かべる。
普段の彩音からは想像できない、陰のある表情だった。
「私の動機は、もっとシンプルで理に適ったものよ」
「人を騙して物事を成し遂げようとする人間に、理なんてあるわけないわ。そういうのを、独り善がりっていうの」
言い放つリアルに、彩音がきつい視線を投げた。
殺意と表現できるほどの敵意がこもった目を、リアルは微塵も臆する事もなく睨み返す。
無言の内に刻一刻と緊張のボルテージが上がっていく。
と、いきなり派手な音を立ててドアが開いた。
睨み合っていた二人が、慌てて顔を向ける。
「沙耶……」
彩音が乱入者の名前を呟いた。
完全に乱れた息に、血の気を失った頬。
その只ならぬ様子は、常にクールで落ち着いたいつもの彼女から大きく掛け離れていた。
「会長!」
「沙耶、違うの。さっきのは、全部嘘だから。ホントに違うの」
最悪の事態を悟った彩音が弱々しい弁解を始める。
「会長、大変なんです! 北校舎の裏で!」
「え?」
思いもよらない展開に、彩音が目を丸くする。
「また人形が見つかったの?」
リアルが割り込んできた。
「いえ、違います!」
反射的に答えてから、リアルの存在に気付いたらしい。やや驚きを見せつつ、報告を続ける。
「見つかったのは生徒です。手首を刃物で切られて倒れていました」




