十月二十二日(火) -9-
「二つ目以降の人形は前日に用意されていた。つまり、アンタの指示に沿って準備しただけ。特に説明は不要よね」
「でもさ、私が指示を出しているとしてよ、どうやって実行犯の二人に連絡してるっていうの? なんなら電話とか手紙の記録を確認してもらってもいいけど」
「そこなのよね。閉鎖社会のアカデミーで極秘に連絡を取り合うのは難しいのよ」
「そこがハッキリしないと、私が犯人だって断じるのは難しいよ」
「それについては場所を変えて説明したいんだけど。いい?」
「いいよ。どこに? また屋上とか?」
「それも悪くないわね。でも、今回は違う場所。そうね。生徒会の倉庫なんてどうかな?」
彩音の動きが、ぴくりと止まった。
「手間は取らせないわよ。鍵ならアタシが持ってるから」
ポケットから一本の鍵を取り出した。
北校舎の裏、来訪者が伝達に使っていた目安箱から見つけた鍵だ。
「この事件の謎は鍵よ」
唖然としている彩音にリアルが説明を続ける。
「最初の事件には屋上の鍵が必要だし、次の美術資料室、人形を焼いた焼却炉、どこも普段は施錠されている。犯人はなんらかの方法で鍵を手に入れていたことになるわね。鍵を管理しているのは、生徒会と職員室。勝手に持ち出しはできない」
「つまり、生徒会長の私が怪しいってこと?」
「そう思われないように、落下事件直後に風紀委員を引き連れて屋上に向かったのよね。生徒会の鍵を使って屋上に出ることで、鍵が本物だとアピールするために。もちろん、偽物の鍵で開けるフリをしただけなんでしょ?」
「まるで見てきたみたいに言うんだ」
「あら、違った?」
リアルの問いに、彩音が小さく首を振る。
「残念ながら大正解。殆どの生徒は屋上に出たことなんてないもん。簡単に騙せたよ」
「小手先の演技力は大したもんよね。頑張れば、三流女優くらいにはなれるんじゃない。あ、もちろん褒めてるのよ」
「ハチちゃんの気持ちが、すっごく理解できたよ」
彩音がぼそりと呟く。
「さて、アンタのアピールで生徒会の鍵は本物と証明された。二体目の人形を見つけた時は、職員室の鍵だった。これでどちらの鍵も本物と証明できた。つまり……」
「つまり、鍵の持ち主が犯人とは限らないってことになる」
「いいアイデアね。でも、誰かが屋上の鍵が掛かってないのに気付いたら、どうしたの?」
「大騒ぎするの。鍵が開いてるってね。それから直ぐに職員室の鍵を確認させて」
「誰かが合鍵を使ったんだって方向に持っていくのね」
「その程度なら言いくるめる自信があるし、生徒会長が嘘をついてるなんて思わないよ」
「アンタっていい性格してるわね」
「仕方ないじゃん。実際にはできないんだから。合鍵作るなんてさ。特殊な技術が必要だしさ。仮に出来たとしても、後から取り返すのも難しくなるし」
「だから、本物の鍵を事件前に渡して、準備が終わったら返してもらうようにしてたのね」
「持ち逃げしたら、それを証拠に罪を擦り付けるつもりだったよ」
「ホントにいい性格だわ」
「このくらいの知恵がなきゃ、会長なんてやってられないって」
事も無げに答える彩音に、流石のリアルも呆れた顔になる。
「リアルちゃん、鍵のトリックにいつ気付いたの?」
「先週の月曜日。最初の人形を見せてもらいに来た時にね。アンタ、同席しなかったでしょ。それでピンときたの」
「どういうこと?」
「アンタがいなければ生徒会の鍵は使わない。副会長ってそうなんでしょ」
「沙耶は真面目だからね。変にそういうところがあるんだよ」
「だから、アンタは用を入れた。職員室の鍵を使わせるためにね。逆にどうして職員室の鍵を使わせたかったのかって考えたら」
「そうなんだよね。放課後は人がいるからね。日曜の深夜には目安箱に鍵を入れておかないとダメだったんだ」
彩音が背もたれにゆっくりと背中を預ける。
ぎぎぎと軋み音が、部屋の中に寂しく響いた。




