十月二十二日(火) -8-
「確かに選挙中の話題は、いつもアンタが中心だったわよね」
「色々と苦労したんだからさ、うんざり顔で言うのは勘弁してよ。まあ、正直、一年で当選するのは計算外だったんだけど」
「そうよね。噂をじっくり流して、来年に勝負をかけたかった。それなら、もっと万全なプランを準備できたのに」
「こらこら。私を犯人扱いするのは、まだ早過ぎでしょ」
「をっと、そうだった。じゃあ、話を戻すわね。レコーダーはリモコン式を選択した。時限式にするべきか迷ったとは思うんだけど。ベストのタイミングを計るには、やはり手動が確実と踏んだのよね。しかし、その為には、落下した人形にアンタ自身が駆けつける必要がある。でも、副会長がいると、そうはいかない」
「どうして?」
「どんな危険があるか解んないとこに、アンタを行かせるはずがないからよ。でも、アリバイを考えると副会長の留守を狙うわけにはいかない。そこで準備したのが、この手紙。オカルトの苦手な副会長のことだから、咄嗟の判断が遅れる。そこで、自分が様子を見てくると宣言すれば?」
「沙耶は直ぐにバックアップに回り、万全を尽くしてくれる」
「そういうことね。あの手紙は、冷静沈着な副会長に一瞬の隙を作る為だけの。でも、この計画の成否を掛けた一番大切な物だった」
「面白い仮説だけど、ちょっと無理があるね。だってさ、あの手紙は沙耶が運んできたキャリングホルダに入ってたんだよ。つまり、私が事前に仕込むのは不可能ってわけ」
「あらら、そうだったの。それは困ったわ」
と言いつつもリアルの表情に変化はない。
その反論自体予測された物だったのだろう。
「でも、手紙がキャリングホルダに入っていなかったとしたら?」
「どういう意味?」
「あの手紙はアンタが入れたの。キャリングホルダを受け取ってからね」
「あはは。何を言うかと思えば。そんなのできるはずないって。ずっと二人で話してたんだよ。あの沙耶の目を盗んで、手紙を入れるなんて無理。まあ、私が超能力者だとか言うなら別だけど」
「カーテンよ」
リアルが窓を指し示した。
夜空が広がった今、カーテンは開けられている。
「ずっと引っ掛かってたのよ。あの日、カーテンが閉められていたってことがね」
「別に珍しいことじゃないでしょ」
「珍しいことだったのよ。アンタより早く来る副会長が、いつも開けてたんだから」
「退室する時にはカーテンを掛けるから、最初に部屋に入った沙耶が開ける場合が多いよ。でも、だからなに?」
「あの日、副会長はカーテンを見て怪訝に思った。そうね、こんなに薄暗くしてたら気が滅入りますよ。なんて言いながら、カーテンを開けようと向ったんじゃないかな」
リアルがゆっくりと窓に向かう。
「その間に、アンタはキャリングホルダに手紙を入れた」
「残念だけどハズレだよ、リアルちゃん。私は窓に向かう沙耶にこう言ったの。その前にお茶入れて。沙耶が愛情込めて入れてくれたお茶が飲みたいなって。収納ケースにマグカップが入ってるんだよ」
「それは想像もしてなかったわ」
「リアルちゃんの瞳も万能じゃないってわけね」
「天使は神様じゃないってことよ」
「ん? 天使?」
「ま、それはともかく、アンタはタイミングを見計らってキャリングホルダに手紙を入れた。後は……」
「大変よ! こんな物が入ってたわ!」
目を丸くして、彩音が大袈裟な表情を作った。
「そう。後は手紙を読んで、カーテンを開ける。そこで見えるのは大惨事。手紙の内容と現実の衝撃に副会長の思考が停止した隙を衝いて」
「様子を見てくるわ、と部屋を飛び出すわけね」
「アンタの足なら一分足らずで辿り着ける。陸上部の脚力は伊達じゃないもんね。人形の落下時刻を決めて置けば、レコーダーが誤作動してても、音を出すまでの四分に滑り込める」
「実際には一報を持って来てくれた子がいたんだ。カーテンを開ける前だったよ」
「運良くレコーダーも作動してなかったみたいだし」
「普段の行いってやつだよ。まあ、私が犯人だったらって仮定の話だけどさ」
そう告げて、続きを促がす。どことなく嬉しそうだ。




