十月二十二日(火) -5-
「割り切れない物?」
「そう、寝室の窓がね」
「どういう意味?」
「犯人は最後に寝室に入って窓を開けた。この理由が見えないの」
「窓から逃げたんじゃないかな」
「ここは三階よ。飛び降りられる高さじゃないわよ」
「梯子を用意しておいたとか」
「風紀委員が見回ってるはずだし、そんな物、すぐに見つかっちゃうわ。それに窓から逃げる理由が見つからない。玄関から普通に外に出ればいいんだし」
「それはそうかもだけど」
「そもそも犯人は、どうやって侵入したのか。合鍵やピッキングツールを使ったとしても、何故窓を開けておく必要があったのか」
腕を組んで、珍しくリアルが考え込む。
「窓が開いていたからこそ、外部からの侵入者があったと思える。それが逆に犯人の狙いだとすれば……」
はっと顔を上げた。すうっと目を細めてハチを見る。
「なに? 怖い顔して」
リアルのきつい視線に、ハチが半歩下がった。
「え? なに?」
「ううん、なんでもないの。まさかって思っただけ」
意味深な独り言に、ハチが首を傾げる。
「ま、どっちにしろ」
リアルの目から険しさが抜け、いつもの子猫の瞳に戻る。
「直ぐに解決は無理。本腰を入れて、ちゃんと捜査しないとダメね。いいわ。来訪者の件が終わったら、見事に解決してあげる」
薄い胸を反らして自信満々に言い切った。
※ ※ ※
ひっそりと静まり返った校内。時刻は二十二時十五分。
リアルとハチは、東校舎を四階まで上がった。そのまま生徒会長室に向かう。
「大丈夫? 顔色がかなり悪いわよ」
普段どおりのリアルとは対照的に、ハチの頬は緊張のためか血の気が薄く、青ざめていた。
「ね、聞いてる?」
「ごめん。なんだっけ?」
「朝のことが気になるの?」
「うん。どうしても考えちゃうんだ。正直、怖くて」
「大丈夫。アタシに任せて。ちゃんと解決してあげるからさ」
「うん。ごめんね。こんな大事な時に」
「ハチのせいじゃないから。そんな顔するんじゃないの」
そんな会話をしている内に、会長室の前に着いた。
「さて、今から会長様に事件の真相を報告するんだけど」
「あのね、リアル、実は、その……」
「アンタには一つ頼まれて欲しいことがあるのよ」
「え、なに?」
「アンタには、誰も会長室に入ってこないように、ここで見張ってて欲しいの」
意外な言葉にハチが目を丸くする。
「会長様への報告は誰にも聞かれたくないの。最後の最後で、仲間外れみたいなことになっちゃうけど」
「うん。解ったよ。私はここで待ってる。絶対に誰も通さないから」
ハチの顔に少し色が戻った。
「全て片付いたら、ちゃんとアンタにも教えてあげるから」
「ごめんね。なんか気を遣わせちゃって」
「謝るな。無理言ってるのはアタシなんだから」
「うん」
ハチが半歩下がるのを待って、リアルがドアを叩く。
コンコンと小気味良い音に、「どうぞ」と声が返ってきた。
「じゃ、行ってくる」
「うん、頑張ってね」
中に入るリアルを、小さなエールで見送った。
※ ※ ※
「待ってたよ。リアルちゃん」
上座。
重厚なデスクセットの彩音が笑顔で迎える。




